所属部署 研究第三部 技術戦略グループ
氏名:櫻井祥樹
Uberizationは、Uber Technologies Inc.(以降Uber)を語源とした言葉です。Uberは、自家用車を所有するユーザー(一般ドライバー)と配車サービスを受けたいユーザー(乗客)を、スマートフォンを使ってマッチングするサービスを提供しています。このサービスは、これまで埋もれていた需要と供給を顕在化し、取引を成立させる環境を提供することにより、タクシー業界のみならず、自動車業界にも、大きなインパクトを及ぼしています。Uberizationは、このようなビジネス環境を示す言葉として、2015年後半から使われるようになりました。
Uberizationは、Uberの例のように、一般ユーザーをサービス提供者とし、サービスの利用者と提供者をネットワークで直接つなぐことです。このビジネスモデルには、次の三つの特長があります。第一に、「シェアリング」により、サービス財が提供されます。第二に、サービスが「オンデマンド」で行われます。第三に、需要者と供給者が相互に、「レピュテーション」を重視します。
「シェアリング」とは、従来は利用者が占有していた資産を一般に提供し、他の利用者と共有することです。これにより、Uberのようなサービスの仲介者は、一般ユーザーが所有する資産(自動車)や所有者自身(ドライバー)の空き時間を利用者に提供するサービス資産として用いることができます。その結果、自社で資産を保有するよりもサービス運営コストを大幅に節減できます。
「オンデマンド」とは、利用者のTPO(Time, Place, Occasion)要求に応じたサービスを提供することです。利用者がスマートフォン上で乗車位置、行き先を提示すると、それを請け負う意思のあるドライバーが応じ、即座に取引が成立します。スマートフォンのアプリケーションを使うことでサービス利用者と提供者が、リアルタイムに取引できるようになりました。
「レピュテーション」とは、サービス提供者と利用者がお互いを評価し、その結果を活用し、サービス取引の際に参考にすることです。これにより、サービスを共有する際の信用に関する課題を解決します。特定事業者が担うサービスであれば、品質責任の所在が明らかになりますが、一般ユーザーが行うサービスでは、責任が明確ではありません。個人にとっては初めての取引相手であっても、過去の取引における他者の評価を知り、信用に足る相手であることを事前確認できます。取引当事者の信用を一度でも失うと、その後の取引に参加できなくなるという抑止力が働き、サービス品質が保たれるのです。
Uberizationによるサービス領域は、自動車などの耐久消費財、家・マンションの空き部屋のような不動産のみならず、個人が所有する技能・能力にも広がっています。例えば、AsMamaのように、同じ保育園や幼稚園などに通う子どもを持つ親同士で子どもの送迎や託児を頼りあう、子育てシェアが出現しています。
Uberizationの広がりは、自動車メーカーなど既存の事業者のビジネスモデルに転換を迫ります。Uberが普及すると自動車を所有せずとも移動に使うことが可能になり、保有のニーズは縮小します。自動車メーカーのDaimler AGは、乗り捨て可能、片道利用が可能なカーシェアサービスを提供しています。従来の自動車販売のみならず、移動手段を提供するという発想を取り入れ、製品販売以外の関連ビジネスに事業を拡大しています。同様のビジネス戦略転換は、生活用品や宿泊サービスなど、他の産業にも求められるようになるでしょう。
今後、企業は「シェアリング」、「オンデマンド」、「レピュテーション」が価値を生む市場を見いだし、他社に先駆けビジネスモデルを構築することが求められます。また、サービスに必要な耐久消費財・不動産・技能・能力などの経営資源を活用することで、Uberizationを牽引(けんいん)していくことが可能になると考えられます。
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