所属部署 研究第二部 ファイナンスグループ
氏名:野本圭一郎
パンダ債とは、中国国内で非居住者が発行する人民元建て債券、オンショア人民元建て債券の通称です。日本国内での非居住者による円建て債券のサムライ債や、米国内での非居住者によるドル建て債券のヤンキー債が類似例としてあげられます。
2014年より中国政府が民間企業に対し認可を始め、同年3月にダイムラーが民間企業として初めて、パンダ債を償還期間1年5億元(約85億円)で発行しました。現在、世界51の行政機関、企業、開発銀行がパンダ債を発行しており、代表的な発行体として韓国政府やフランスの総合環境サービス会社ヴェオリア・エンバイロメントなどがあげられます。発行残高は2017年末時点で3兆7,000億円強にのぼり、世界銀行は2020年までに5兆円を超えると予測しています。
中国政府によるパンダ債の認可は、人民元の国際化を目的とする同国政府の政策の一環として行われました。中国政府は2016年3月からの第13次五カ年計画で人民元の国際化を初めて主要政策として明記し、中国国内の資本市場で投資家と発行体、双方の国外機関・組織への開放を推進しています。
中国の債券市場は運用残高が約1,000兆円と、米国、日本に次ぐ世界第3位の規模を誇ります。しかし、以前は機関投資家は中国工商銀行などの商業銀行や全国社会保障基金(中国年金基金)などのファンド、中国平安保険などの保険企業などの中国国内の金融機関、発行体は中国国内企業に限定されており、中国国内の主体で完結している市場でした。中国政府は2017年7月から、人民元国際化の一環として、海外投資家に香港経由での中国の債券売買を開放しました。ゴールドマンサックスは、海外投資家の中国債券市場への進出により、今後5年で28兆円近くの資金が中国に流入すると試算しています。また、格付けは、投資家にとって債券の信用リスクを判断する上で重要な指標ですが、2017年5月に中国政府は海外格付け会社にサービスを開放する方針を示しました。2018年1月にフィッチ社(米)が海外格付け会社として初めて、中国国内で格付けサービスを提供することを表明しており、海外と同じ基準による債券の信用リスク評価の仕組みが整うことで、海外投資家の中国債券への投資が増加することが予想されます。
外資系企業の中国人民元調達方法は、これまで、中国現地法人による現地銀行からの借り入れや現地での債券発行といったオンショア市場での調達が主流でした。そこでは、中国現地法人は親会社より信用が低く、利率が高くなることが課題でした。資金調達コストを下げるためには、一般的に現地法人と比べて信用力が高い親会社が、中国国外(オフショア)で借り入れまたは債券発行により人民元を調達し融資する方法があります。しかし、親会社から国境を越えた中国現地法人への人民元の貸付額には政府規制により上限が設定されており、企業が必要とする規模の資金調達ができないのが実態です。
これに対しパンダ債は、オフショア建て人民元債と同様、親会社からの調達であると同時に、中国国内での資金調達となるため、現地法人への人民元の貸し付け上限がなく、結果的に中国現地法人にとって低コストの人民元がより多く調達できます。また、親会社が日本円を人民元に交換し、現地子会社に貸し付けを行っている場合に対して、パンダ債では為替リスクを避けることができます。ただし、パンダ債はサムライ債やヤンキー債と同様に、現地語での目論見書発行や現地会計基準への順守が求められるため、事務コストが高くなる課題も指摘されています。
日系企業のパンダ債の発行は、日中金融当局の合意により2017年12月に解禁されました。これを受けて、2018年1月に、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)、みずほ銀行が償還期間3年のパンダ債をそれぞれ10億元(約170億円)、5億元(約85億円)、日本企業で初めて発行しました。
中国に現地法人を多数保有する日本企業では、日本の親会社が調達した資金を上限なく現地法人へ貸し付けでき、人民元の為替リスクがないそもそものメリットを最大限活用することができます。今回、パンダ債を発行した日系金融機関は事業会社のパンダ債発行の支援事業や債券引き受け事業の展開を図っています。その展開により課題であった高い事務コストについて、中長期的には下がることが予測され、今後パンダ債の発行は増加すると予想されます。
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