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高まる株・債券の連動性と留意すべき三つのリスク
〜WACC変動局面における財務レジリエンスと投資判断〜

    2026年5月20日

    1. 株と債券の連動性が徐々に高まり、分散投資効果は低下

    • 2025年半ば以降、米国の株と長期国債は連動性が強まっている。図1は、米国の代表的な株価指数であるS&P500指数と、米国長期債価格の代理変数となるiShares米国債ETF価格を比較したものである。2025年半ばから26年初旬にかけて、両者は連動を強めてきたことが分かる。

    資料:FRED、iSharesより日立総研

    図1:米株価と長期国債価格の推移

    • 株と債券の連動は、米国のみならず、日本やユーロ圏などグローバルにも発生している。株高(安)と債券高(安)の同時進行は、分散投資によるリスクヘッジ効果を低下させ、企業や金融市場参加者の投資判断に影響を与える。
    • IMFは、2026年2月に発表したブログの中で、「株式と債券は連動性が強まっており、分散投資はより難しくなっている。これは株と債券の急落局面における金融安定性への懸念を高めている」と述べ、警鐘を鳴らしている(IMF 2026)。

    2. 株と債券の連動性が高まった背景にあるグローバルなマクロ経済・地政学環境の変化

    • 1980年以降の米株価と長期国債価格の連動性を示す相関係数(▲1〜+1の値を取り、+1であれば強い正相関、▲1であれば強い負相関、0であれば無相関となる)を調べると図2のようになる。
    • (注)相関係数は▲1〜+1の間を取り、+1であれば強い正相関、▲1であれば強い負相関、0であれば無相関となる
      (資料)CEICより日立総研作成

      図2:米株価と米長期国債価格の相関関係

    • 1980年代から90年代半ばにかけて、両者はおおむね正相関(株価上昇=債券価格上昇、金利低下)という関係がみられたのに対して、90年代半ばから2020年ごろまでは負相関(株価上昇=債券価格下落、金利上昇)という関係に転じた。しかし、2020年以降、約30年ぶりに株と債券は正相関に転じ、2025年にかけて正相関の度合いは、徐々に強まっている。
    • 2020年以降に株と債券の連動性が強まった背景には、グローバルなマクロ経済や地政学の環境変化がある。特に、2020年のコロナ禍と2022年のロシアのウクライナ侵攻後に米国のインフレ率が大きく上昇し、株価と国債価格の同時下落が起きたことで、両者の連動性は強まった。国際決済銀行(BIS)も2021年以降の相関関係の変化には、インフレが影響している点を指摘している(BIS 2023)。
    • もっとも、株と債券の関係はインフレによってのみ決まるわけではない。例えば、正相関が維持されていた1980年代から90年代を振り返ると、必ずしも全期間でスタグフレーションが発生していたわけではない。特に90年代前半は、グリーンスパンFRB議長の下で、米国ではIT企業の株価が上昇、低インフレにより債券価格も上昇する形で、株と債券は連動性を強めた。この点、昨今のAIブームとの類似性もあり、特に2025年前半は株価上昇と債券価格が上昇する形で米景気は拡大し、インフレ率も一時の高水準から低下した。しかし、2026年以降は、株価と債券は連動しつつ同時に下落している状況だ。

    3. 国や産業により資本コストは異なり、株・債券の連動性の高まりは企業のリスクに

    • 企業の視点では、株価と債券価格の下落(金利は上昇)は、先行き不安の高まりによる株式リスクプレミアムの上昇と借入金利の上昇を通じて、加重平均資本コスト(WACC)を高める可能性がある。表1に示されるように、WACCは、地域や産業によって異なっている(Damodaran 2026)。

    表1:地域・産業別にみたWACC(2025年)

    注:表はWACCが高いほど赤色、低いほど緑色。ニューヨーク大学スターン経営大学院アスワス・ダモダラン教授の分析による。リスクフリーレートは26年3月の10年国債利回りにて計算。
    資料:Damodaran(2026)より、日立総研
    • 地域別には、米国のWACCは高く、欧州や日本のWACCは相対的に低い。この背景は、リスクフリーレートである国債利回りが米国では高いことがある。
    • 産業別には、銀行、化学産業、鉄道輸送サービスなどの産業におけるWACCは地域にかかわらず相対的に低い。固定資産が生み出す安定した収益や、規制による保護の存在などが背景にはあるとみられる。
    • 近年株価が大きく上昇し、市場変動と比してボラティリティが高い電子機器、半導体、ソフトウエアといったIT、AI関連産業の資本コストは、相対的に高い。高収益を前提とした投資とも言えよう。
    • イラン情勢に起因する原油価格の急上昇などグローバルなインフレ動向や、各国の金融政策の行方など、先行きの不確実性は高い。特に株・債券の連動が強い局面では、@株・債券の調達コスト上昇による財務レジリエンスの低下、AWACCの振れ幅拡大による投資意思決定の遅れ、B金融市場の混乱による需要の縮小など、資金調達、投資、外部環境といった三点から、企業経営のリスクとなり得る。

    以上

    (資料)

    BIS (2023), “The correlation of equity and bond returns”, BIS Quarterly Review: December 4, 2023.

    Damodaran, A.(2026), Damodaran Online, NYU Data history

    IMF (2026), “Stock‑Bond Diversification Offers Less Protection from Market Selloffs”, IMF Blog, February 18, 2026

    執筆者紹介

    吉田 健一郎(よしだ けんいちろう)

    日立総合計画研究所 グローバル情報調査室 主管研究員

    米国および欧州の経済・金融情勢の調査に従事。一橋大学商学部卒業後、みずほ総合研究所、同ロンドン事務所長を経て、2021年より現職。

    執筆者紹介

    吉田 健一郎

    グローバル情報調査室
    主管研究員

    機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。

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