Voice from the Business Frontier
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Ondrej Vinzens
Enterprise Risk Manager
Hitachi Energy
スイス・チューリッヒの日立エナジー本社に在籍。2020年の日立エナジー入社前よりグローバル企業にてリスクマネジメントに従事。現在、エンタープライズ・リスク・マネージャーとして、事業運営・技術・戦略のすべてに関わるERMチームに所属、日立エナジーが価値主導型アプローチで不確実性に対応できるよう業務にあたっている。
ポイント:
日立エナジーは、持続可能で柔軟かつ安全なエネルギーの未来を推進するグローバル・テクノロジー・リーダーです。本社はチューリッヒにあり、5万人を超える従業員が働いています。電力システムと電化の分野で100年超の歴史あるグローバル企業です。製品・システムやソフトウエア、サービスといった事業ポートフォリオで、ユーティリティ、産業、交通、インフラなど各分野の顧客をサポートしています。
ビジネスユニットとしては、グリッドオートメーション、グリッドインテグレーション、ハイボルテージプロダクツ、変圧器、サービスの五つで、電力システムのライフサイクル全体をカバーしています。また日立エナジーは、HVDC、グリッドオートメーション、デジタルツイン、大規模再生可能エネルギーの系統連系などの重要技術で業界をリードしています。1,800人以上のフィールドエンジニアと2,600人以上の研究員の力も梃子に事業展開し、今や世界最大規模の系統関連のインストールベースを持っています。
エネルギー転換が世界的に加速する中、日立エナジーは、電化、送電網の近代化、脱炭素化を実現する上で重要な基盤となる役割を果たしています。
私はエンタープライズ・リスク・マネージャーとして、日立エナジーの全社的リスク・アセスメントを率いています。組織化された全社的プロセスであり、組織目標の達成に重大な影響を与える事象のトレンドや動向を、企業として評価するための仕組みです。ガバナンス、リスク対策責任者、エスカレーションの仕組みを実装したこのERMの取り組みには、CEO、CFO、経営陣の監督のもと、事業、地域、管理の各部門から200名のリーダーが参画しています。
日立エナジーのERMは、リスクを列挙し報告するための仕組みではなく、調整のための仕組みです。ワークショップ形式でのリスク評価と部門横断での対話を通じて、さまざまな視点を統合し、全社レベルでの取り組みにまとめていきます。これにより、重大な不確実性に対し取り組むべき行動は何かという視点で、行動に優先付けできるため、私たちは破壊的変化を予測し予断を持つことなく分析し、そしてリーダー層がリスクと機会を踏まえ未来志向を持って実行することができるようになります。
私の役割は、このプロセスを設計・調整し、継続的に改善することで、リスク管理の質を高め、最終的にリーダー層が企業価値を守りつつ持続可能な長期的成長を支える意思決定を行えるようにすることです。
他のグローバル企業と同様に、日立エナジーは一層複雑化するグローバル環境で事業を展開しています。そこでは、地政学、規制、技術、事業、人材に関する各要素が相互に関連し合って不確実性が生まれています。日立エナジーの特徴的な点は、主な事業領域で世界第1位のテクノロジー・リーダーであることです。また近年、これらの事業領域のほとんどで複数のメガトレンドが同時に成熟したことで、前例のない成長を遂げました。
例えば、化石燃料からのエネルギー転換、エネルギー安全保障の要請、あらゆる分野での電化・デジタル化の進展について考えてみてください。また、エネルギーの分野では、双方向の電力フローに対応した配電網の再設計の必要性、そしてそれをクラウドコンピューティングやAIなどの新しい技術と組み合わせる必要性が高まっていることも忘れてはなりません。これらの動きはすべて同時期にピークに達し、その結果、技術とソリューションの活用が必要となったのです。さらに、新しいERPシステムへの移行や関税・貿易関連の不確実性への対応の必要性もあります。今申し上げたことのすべてを考えると、ここ数年間の日立エナジーの事業環境の全体像が掴めてくるでしょう。
外部環境について、当社の不確実性の主な要因の一つは、地政学的分断と貿易摩擦です。関税、制裁、輸出規制、そして新たな「地経学的競争」は、サプライチェーンを再形成し、市場アクセスを制限し、調達サイクルに大きな変動をもたらします。代理紛争の激化と海上航路の武器化は、物流の混乱や部品の供給不足、リードタイムの長期化によるリスクへの曝露をさらに高めています。これらの地政学的な力学は、コストと利益の安定性、事業遂行の信頼性、顧客への納期に直接影響を与えます。
技術による破壊的変化は、もう一つの重大な不確実性要因です。AI、ソフトウエア定義型システム、オートメーション、データプライバシーへの期待は、新たな顧客価値と業務効率を引き出しますが、同時に、サイバー攻撃やシャドーAIのリスク、急速に進化するデジタルエコシステムへの依存を招きます。
サプライチェーンの脆弱性では、当社も依然として構造的にリスクに曝される状態となっています。港湾の閉鎖、商品価格の変動、原材料の不足、規制による制約により、生産の継続性が脅かされ、グローバルな相互依存関係にあるバリューチェーン全体で機能停止の可能性が高まるおそれがあります。
人材とスキル、特に才能ある人材を引き付け、育成し、維持する能力は、急拡大する市場で成長戦略を実行し、業務運営を維持しようとする組織の能力に直接影響します。
先ほど述べたマクロトレンドと高まる業界の魅力を踏まえ、私たちは第1位の地位の維持にとどまらず、さらなる加速をめざしています。個人的な意見になりますが、私たちが会社としてこれほど成功し、不確実性を乗り越えることができているのは、リスクを念頭に置いた情報とデータに基づく意思決定、徹底した優先付け、組織横断的な状況認識とその連携、そして組織目標達成に向けた継続的推進が原動力となっているからです。
ERMについて、私たちは通常の事業活動における従業員の役割や連携の在り方からインスピレーションを得て、同じ考えをERMにも適用しています。強調しておきたい点は、日立エナジーの従業員それぞれの役割と説明責任の文脈において、その誰もがリスク・マネージャーと見なされているということです。したがって、昨今の成熟したリスク環境において、私たちの役割は、組織全体のすべての関係者と連携し、通常の事業活動の日々の業務の中から加速すべきトピックを特定し、そのトピックに関する行動を活性化させることにあります。
日立エナジーで私が重点を置いているのは、混乱を予測し、決断力をもって対応し、不確実性を価値創造に変換するための全社的能力を強化することです。そのために私たちERMチームは、全社的リスク・アセスメントのプログラムを次の四つの柱に基づいて構築しました。一つ目は、アセスメントの背景・目的を、日立エナジーの組織目標との関連を踏まえて明確にすること、二つ目は、ERMチームが社内関連部門とよく連携し、アセスメントの結果を信頼できるものにすることです。そして三つ目は、長期的トレンドに関する分析能力を社内関連部門に提供し、中長期的視点からの影響評価を促進することです。これにより、迫り来る脅威に対する「懸念を減らす」のではなく、「先行者による機会獲得の利点」の考えに基づいて事業判断が行われるようになるのです。最後の四つ目は、何もしない場合に生まれうる脅威の影響ではなく、行動することで生まれる潜在的価値に基づいて優先順位を付けるというものです。
行動が生み出す価値に基づいて行動の優先順位を付けることは、脅威に着目したネガティブな影響に対する従来の優先順位付けとは対照的で、常識に反するように思えるかもしれません。しかし、私たちにとっては、価値創造に焦点を当てるための柱の一つなのです。これにより、実用的な解決策の欠けているリスクを示すのとは対照的に、現実的な解決策のあるリスクに注目できるのです。
よく、ERMマネージャーには魔法の知恵があると誤解されることがあります。誰も思いつかない事象を特定したり、企業として対策すべき発生確率を正確に予想した将来事象のリストを作成したり、そうしたことができるのではないかといった誤解です。
そうではなく、私たちは従業員全体を中心に置いた手法を開発しました。ERMにおける私たちERMチームの役割は、この知識を組織全体で可視化できるようにし、さらなる洞察を提供し、関連部門の連携と積極的参画を促進して行動を提案できるようにしたり、説明責任を促進したりすることです。これを達成するために、私たちは今、これらの原則を核に設計したリスクマネジメント基盤を開発しています。この基盤には、実際に利用する従業員が洞察を得られるよう、生成AIとそのユースケースを実装する予定です。
私にとって最も重要な点は、不確実性はそれ自体にあまり意味がないということです。それは、起こり得る事象の兆候や傾向、仮説といった無数の項目の一つに過ぎません。それ自体には、意味も含意も、予測可能性もありません。リスクになるのは、組織目標、組織としての制約、あるいは背景・目的のレンズを通してそれを解釈したときだけです。組織外部の不確実性と組織内部の目標や人々とのつながりこそが起点となります。そのつながりがなければ、不確実性は単なるノイズに過ぎません。
だからこそ、本当に重要なのは、無限のリスクを外科手術のような精度でスキャンする高度なインテリジェント機械でもなければ、予想される損失を正確に定量化できる高度なリスクモデルでもない、と私は考えています。それより寧ろ、何が重要かという文脈に基づいて不確実性を理解することであり、そのためにいかに組織がその中にいる人々を繋げるかが重要と思います。事業に関わる人々は皆それぞれ、自分なりの洞察、業務の過程で気になった兆候や新たに生まれる課題、何ができて何ができないかに関する直感を持っています。これらをインプットとして体系的につなげ構造化すれば、不確実性は地に足のついた形で、事業の中で実際に行動に移せるものになるのです。
だからこそ日立エナジーは、理論上のリスクモデルにとらわれるのでなく、むしろ意図的に内部情報を収集することを中心に取り組んでいるのです。どのような「リスク」を懸念するかでなく、どのような行動が必要と考えるかを求めることで、不確実性を行動の提案へと変換するのです。それぞれの行動の提案は、その人とその人が所属する組織の目的や機能、他の組織との関係、組織の実態に基づいています。そして、これらの行動に関する提案を行動ごとのテーマに纏め優先付けすることで、実際の行動を通して価値を効果的に創造(または保護)することができるのです。
ここまでくると、不確実性は戦略的な色を持ち始めます。早い段階で特定すれば、積極的に関与し、競争の場を形成し、有利な機会を得ることができます。逆に特定が遅くなると、防御と懸念を減らすことに終始し、後手に回ることになります。この違いは不確実性そのものではなく、いかに迅速かつ首尾一貫して行動に移すかです。
しかし、私は現実もみています。私たちがこれまで作り上げた一連の流れは完璧ではありません。私の次の課題は、「一連のプロセスの完結」に向けて枠組みを改善することです。つまり、行動の優先付けだけでなく、確実に、場合により必要な支援も受けながら、かつリズムを持った形で、その行動が実行されるようにすることです。それがなければ、たとえ最高のインテリジェンスであっても、実際の効果のない潜在的な可能性の話で終わってしまいます。
つまり、不確実性が意味をなすのは、人々がその不確実性に意味を与え、組織がそれを行動に移すときのみであるということです。関連する部門との連携を深め、インテリジェンスを構築し、重要事項に優先付けをし、実行の一連のプロセスを完結させることに長けているほど、他者にとっては足枷になっているまさにその不確実性から、より多くの価値を生み出すことができるのです。
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