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【短期経済予測】政策不確実性の影響が経済を下押し、25年の世界成長率は3%割れ

    2025年6月19日

    1.世界:関税をはじめとする政策不確実性が残存、25年の世界経済は不安定な状況続く

    トランプ政権の関税政策を中心とする不確実性は、直接、間接に世界経済に影響を及ぼしつつあり、安定成長の足かせとなっている。今後、極度のエスカレーションが回避されたとしても、多くの国に対し10%の基本関税+αの税率適用や、経済安全保障維持目的による特定品目に対する25%程度の関税賦課を想定すると、25〜26年の世界経済成長率は3%を下回る公算が大きい。米国売り再発や中国の過剰供給拡大などにも注意を要する。世界の実質GDP成長率は、25年2.8%、26年2.8%。

    2.米国:関税は米景気を下押しし、25年は2%を下回る成長。減税効果は26年から

    米経済は減速している。トランプ政権の広範な関税実施により先行きに対する不確実性は上昇し、25年の米経済を下押しする見込み。他方、現在審議中の減税法案は、26年を中心に米経済を下支えする。関税によりインフレ率は一時的に上昇するが、影響は限定的と予想する。FRBは関税の物価への影響を見極めた後、25年後半から利下げを再開する見込み。財政懸念による金利上昇や、関税交渉難航に伴う株価急落など、トランプ政権の政策による米国売りと消費失速がリスクとなる。米国の実質GDP成長率は、25年1.8%、26年1.6%。

    3.欧州:トランプ関税は景気を下押しも、26年以降は国防費増額などにより回復へ

    ユーロ圏の25年1-3月期実質GDP成長率は加速したが、米国の関税賦課を前にした駆け込み需要増加の影響が大きく一時的。25年のユーロ圏経済は、年後半にかけて停滞する見込み。他方、国防費増加やインフラ投資拡大は、26年の景気を下支えする。ECBは2%弱の水準まで政策金利を引き下げた後は、据え置くと予想する。英国はインフレ残存から消費が停滞し、BOEは段階的な利下げを実施すると予想する。ユーロ圏の実質GDP成長率は、25年1.0%、26年0.8%。英国の実質GDP成長率は、25年1.1%、26年1.0%。

    4.中国:政府は財政拡張し景気下支えも、関税による輸出減により3%台に成長鈍化

    中国経済は、製造業を中心に景況感が悪化し、弱含んでいる。輸出はトランプ関税により、アジア向けなどの増加で補いきれず、24年比で減少。政府は全人代にて財政拡張を決定し、製造業・インフラ投資は堅調が続く。一方で、EVなどでは国内競争激化による価格低下により企業収益が圧迫されているほか、過剰生産分の安値輸出が続く。消費は買替促進策の拡充により加速しているが、不動産市場停滞による資産デフレや雇用・収入への不安から、大幅増は見込み難い。実質GDP成長率は、25年3.9%、26年3.9%。

    5.日本:消費の回復と堅調な投資で成長継続も、トランプ関税による輸出減で減速

    日本経済は食料を中心とする物価高が消費マインドを悪化させ、停滞している。しかし賃上げ継続により実質賃金は今後プラス転化。エネルギー補助もあり消費は回復へ向かう。設備投資は高利益率と設備不足感を背景に伸びが続くが、トランプ関税を受け、製造業を中心に鈍化する。輸出は、米国向けの減少と中国向けの弱含みにより、前年比で減少。米国との交渉次第で、自動車を中心に製造業に下押しのリスク。日銀の追加利上げは26年に後ずれと予想する。実質GDP成長率は、25年0.8%(年度0.5%)、26年0.6%(年度0.6%)。

    6.インド・ASEAN:インドは6%近傍の成長、ASEAN5は総じて安定も4%台半ばに減速

    インドは、企業の景況感や消費者マインドが引き続き底堅さを維持する中、インフレ安定が続き中銀は利下げを継続中。今後、トランプ関税を巡る状況変化による輸出や企業マインドへの悪影響には注意が必要ながら、所得減税などの財政政策や緩和的な金融政策が民間需要を支える見込み。25年度6.1%、26年度6.2%と6%近傍の成長を予想。ASEAN5も総じて安定成長が続くと予想するが、関税の影響や中国経済減速、中国による過剰供給拡大などに影響を受ける可能性がある。ASEAN5の実質GDP成長率は、24年の5.0%からやや鈍化し、25年4.5%、26年4.4%と、4%台半ばを予想。

    世界経済の見通し(実質GDP成長率)

    世界経済の見通し(実質GDP成長率)
    注:暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる。ただしインドは年度ベース
    ASEAN5はインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム
    資料:実績はIMF、予測はIMF(ブラジルおよびロシア)、日立総研(その他)

    日本経済の見通し

    日本経済の見通し
    注:端数処理により、数値の合計が一致しない場合がある
    資料:内閣府ほか、予測は日立総研

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