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株式会社日立総合計画研究所

インタビュー

研究活動を通じ構築したネットワークを基に、各分野のリーダーや専門家の方々と対論

地球環境と持続可能な経済発展を考える〜途上国、先進国の概念を超えて取り組む国際開発〜

2015年は、国連が策定する「ミレニアム開発目標(MDGs)」の最終年であるとともに、2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」の策定、「気候変動枠組条約 第21回締約国会議(COP21)」の開催と、地球環境の未来に影響を与えるイベントが多い重要な年でもあります。全世界が直面する地球環境と持続的発展の問題解決には、すべての国の協力と行動が欠かせません。今回は、開発途上国の環境保全プロジェクトを資金面でサポートするために1991年に設立された「地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)」のCEO兼評議会議長の石井菜穂子氏をお招きして、国際開発の現場から見た環境保全への取り組みや国際援助体系の将来像などについて伺いました。

石井 菜穂子 氏

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地球環境ファシリティ(GEF)CEO兼評議会議長

1981年 東京大学 経済学部 卒業、大蔵省(現・財務省)入省
1984年 ハーバード大学国際問題研究所客員研究員
1988年 青森県弘前税務署長
1992年 国際通貨基金(IMF)政策審査局エコノミスト
1996年 ハーバード大学国際開発研究所プロジェクトマネージャー
2002年 財務省国際局開発機関課長
2006年 世界銀行スリランカ担当局長
2010年 財務省副財務官
2012年8月 地球環境ファシリティ(GEF)CEO兼評議会議長

著書に、『政策協調の経済学』(1990 年、日本経済新聞社)、『長期経済発展の実証分析-成長メカニズムを機能させる制度は何か』 (2003年、日本経済新聞社)ほか、多数
1990年に『政策協調の経済学』でサントリー学芸賞(政治・経済部門)、
2004年に『長期経済発展の実証分析- 成長メカニズムを機能させる制度は何か』で
第8回国際開発研究大来賞を、それぞれ受賞。2006年に日本経済新聞社と
日本経済研究センター共催の第1回 円城寺次郎記念賞受賞

途上国の開発に携わった理由

白井:石井さんは、1981年に大蔵省(現 財務省)に入省後、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員、国際通貨基金(IMF)や世界銀行で開発政策の実務を担われるなど、多彩な経歴をお持ちです。そのようなキャリアに至った経緯について教えていただけますか。

石井:入省時から開発経済や開発政策に携わりたいと考えていたわけではありません。財務省は人事ローテーションがあるので、一分野を究めることが難しい環境です。「少し寂しいな」という思いとともに、「何か一つの分野のプロフェッショナルになりたい」という気持ちが芽生えました。開発に興味をもったきっかけは、入省4年目でハーバード大学に客員研究員として勤務していた時に、ジェフリー・D・サックス教授(現 コロンビア大学)と出会いました。以来、自分の生き方を選択するとき、折に触れてサックス教授に相談してきました。「開発経済は面白い。IMFが良いのではないか、世界銀行はどうか」とアドバイスをいただき、開発経済に関心が膨らんでいきました。

白井:そのようなキャリア形成を許容する土壌が財務省にあったということでしょうか。

石井:IMFも世界銀行も、私自身が強く希望したこともありますが、「これから国際機関要員もさらに必要になるかもしれない」と受け入れてくれたのだと思います。財務省の懐の深さに大変感謝しています。

白井:石井さんは著書『長期経済発展の実証分析−成長メカニズムを機能させる制度は何か』(2003年、日本経済新聞社)の中で、「途上国が経済を発展させるためには、資金だけではなく、社会制度の構築、インフラ整備、人材育成などが不可欠であり、重要な制度・政策がそろわなければ持続的な発展にはつながらない」と指摘されています。日立も途上国のインフラ事業を手がけていますが、ビジネスを通じて学んだり失敗したりすることも多く、現地の社会を知り、良い関係を築くことが大変重要となっています。

石井:IMFではアフリカや中央アジア、世界銀行では東アジアでの開発に取り組む中で、「どうしてある国は発展して、ある国は発展しないのか」という疑問が常にありました。発展の差を決めるのは、制度の問題が大きいのではないかと考え、研究を始めました。提示した仮説は、ある国が次の発展段階に進むためには、「技術革新力」「物的インフラ」「人的資本」「私的所有権」「社会的結合力」「ガバナンス」の六つの制度がバランスよく整備されていることが必要、というものです。こういった制度が整備されていない国は、なかなか次の発展段階に進めない。逆に、経済を成長させるためには、これらの制度のうち不足している制度に投資することが重要となります。この仮説を実証する際も、サックス教授が良きアドバイザーとなってくれました。この研究を基に2003年に出版したのが先にご紹介した私の著書で、2006年には本書をベースに博士号も取得しました。機会や人に恵まれたと思います。

白井:2000年代の初めから資源価格が値上がりし、多くの資源国が恩恵を受けました。しかし、近年は資源価格の値下がりにより、格差が再び広がっていると思いますが、石井さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

石井:資源価格が上がることによって得たお金をうまく使える国と、使い方に失敗し、腐敗や汚職が発生する国とでは、大きな違いが出ます。私は、その国が次の発展段階に進めるかどうかを決めるのは、資金ではなく、いくつかの重要な制度を整備することであると確信しています。かつての日本も、韓国もそうでした。どのような国でも、良いリーダー、良い制度によって経済成長することができると思っています。国が持続的に成長するためには、地球環境も無視することはできません。本書の中で地球環境に全く触れなかったことには忸怩(じくじ/rt>)たる思いを持っています。先進国も途上国もすべて平等に地球環境の悪化という制約の中にあります。地球環境を守り成長に生かすという視点をどのような形で自国の制度の中に組み込んでいくのか。そこで伸びる国と伸びない国の差が出てくると思います。

GEFのミッションについて

白井:石井さんは現在、地球環境ファシリティ(GEF:GlobalEnvironment Facility)のCEO兼評議会議長を務めていらっしゃいます。途上国における地球環境の保全・改善への取り組みを支援するため、気候変動や生物多様性の保全、砂漠化防止など、環境分野のプロジェクトに無償の資金を提供する機関と伺っています。あらためてGEFについてご紹介していただけますか。

石井:1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で、各国のリーダーが地球環境を守るための「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」「砂漠化対処条約」を取り決めました。この条約履行をサポートする機関として設立されたのがGEFです。地球環境を守ることに合意した途上国が、条約の趣旨にそって環境問題に取り組むための資金やノウハウをGEFが提供しています。条約制定の後、残留性有機汚染物質に関する「ストックホルム条約」「水銀に関する水俣条約」も支援対象リストに加わりました。森林や国際水域など、他の重要な分野においても途上国が取り組む数多くのプロジェクトやプログラムを支援しています。

白井:GEFが打ち出している「GEF2020戦略」についてお聞かせください。

石井:「GEF2020戦略」の“2020”は二つの意味を含んでいます。一つは、2020年ごろにGEFがどのような機関になっていたいのか、もう一つは、GEFが遠い未来までよく見わたせる機関になりたいということです。今のままでは人類の活動が地球環境を破壊し、持続的発展が困難になります。地球環境の破壊を食い止め、持続的な成長を遂げるためには何をするべきなのかを考えなければなりません。「GEF2020戦略」では、「プラネタリー・バウンダリー(PlanetaryBoundaries:地球環境の限界)」を基本的なフレームワークとして利用しています。これは、ストックホルム・レジリエンス・センターの所長であるヨハン・ロックストローム博士を中心とした科学者グループによる研究成果で、気候制度、生物多様性、窒素循環、水循環、土壌など、枢要な地球システムについて、人類が安全に活動でき、発展と繁栄を続けられる容量を定量化したものです。地球環境と人類の活動との関係性の計測に取り組んだ世界初の研究だと思います。2009年に公表された当時は批判もあったのですが、2015年春に改訂版が出て、今では地球環境保全の政策担当者の間で広く認知されています。基本的なメッセージは、産業革命以降、特に1950年以降の経済社会が地球環境に負荷をかけ続けてきた結果、気候変動、窒素の循環、生物多様性においては既に限界を超えてしまっています。これまで地球システムは、人間の経済活動がかけ続けた負荷に対して粘り強く強靭(きょうじん)に回復してきました。しかし、環境容量の安全圏を維持できる限界を超えれば、元の状態に戻ることができず、何が起こるか分からない世界に突入する。人類の存続にとって壊滅的な環境変化が起こる可能性があるのです。地球システムの安全圏を維持しようというメッセージは、GEFが取り組む課題と重なる部分も大変多いです。GEFのミッションは、途上国、先進国を問わず、人間がより豊かになりたいという願いをこの安全圏の中でかなえていくことだと思います。

白井:世界が環境に配慮した新しい時代に入る中で、途上国の環境問題と経済成長を両立させることについてはどのようにお考えですか。

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石井:環境と両立する経済発展はあり得るのか、というご質問をよくいただきますが、ある地域においては、地球環境そのものが持続的経済成長の前提になっています。中国とアフリカ、どちらも環境と発展が切り離せない点においては同じです。中国は、数年前に「生態文明 (EcologicalCivilization)」という概念を打ち出しました。一言でいうと、生態系と文明の発展の関係を見直そうというものです。中国も今の経済社会制度のままでは持続的に発展できず、将来は大変な調整が必要になることを理解しています。この対極にあるのがアフリカです。貧しさゆえに明日の生活資源を求めて森林を乱伐採し、ところによっては過剰な化学肥料の投入で土壌が痩せてしまった結果、かえって農業の生産性が落ちています。生態系をいじめ過ぎた結果、明日の生活までもが危うくなっているのです。この現状を打破し、自然資本を守っていかなければ、アフリカの持続的な発展は望めません。中国もアフリカも、異なる発展段階にありながら、経済発展と生態系との関わりが見直されるところにきています。「GEF2020戦略」も人間の経済活動と地球環境の関係を重視し、持続可能な成長を支援することから始まっています。

白井:2015年は、国連総会での「持続可能な開発目標(SDGs*1)」の採択、「気候変動枠組条約 第21回締約国会議(COP21*2))」の開催年です。先進国と途上国の間ではまだ立場の差が大きいと思いますが、変化したところもあるのでしょうか。

石井:今年はSDGs、COP21という二つの国際政策に関する議論の場が注目を集めています。その中でSDGsでは途上国だけでなく先進国も一緒に開発に取り組む点、COP21では途上国と先進国のどちらも環境保全の義務を負うという点に、先進国も途上国も一緒に取り組む必要があるという意識が強く現れています。GEFは途上国に資金を提供していますが、根底にあるのは途上国、先進国を問わず、経済社会の発展の基礎となる地球環境保全の問題だと思います。現在、GEFには183カ国が加盟し、大口のドナー国(援助国)はG7をはじめとする数十カ国の先進国です。一方で非常に興味深いのは、中進国の出資額の伸び率が高いことです。2014年に決着した増資では、メキシコが倍増、中国やインドも3割増です。先進国の出資額の伸びが財政難のため低迷する中で、従来は援助の受け手であった中進国がドナー国としても活動する動きが広がっています。「地球環境はみんなのものである。地球環境を守る責任は先進国だけでなく途上国にもある」という意識が芽生えています。

白井:途上国と先進国が対立する南北問題についても、「途上国は経済発展しなければいけない、そもそも環境を破壊したのは先進国だ」という、先進国責任論があると思いますが、対立関係は変わってきていると捉えていいのでしょうか。

石井:おっしゃる通り、気候変動枠組条約の交渉を見ていると、政治的な対立の色が濃く残っています。2010年に先進国の出資で途上国の地球温暖化対策を支援する「緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)」を設立することが決まっていたのですが、「途上国(南)も発展する権利があり、気候変動が悪化したのは先進国(北)の責任なのだからお金を受け取る権利がある」という、南北対立の構図はあまり変わっていません。一方、条約交渉の場を離れると、「地球環境はみんなで守らなければ取り返しのつかないことになる。南北対立をしている場合ではない」という声も出ています。中国が生態文明やグリーン工業革命などを打ち出しているのも、今までの経済発展方式では中国も地球も大変なことになってしまうと理解しているからです。「中国のためであるけれども世界にも役立つ」という、環境と経済発展の相互依存関係を分かっていると思います。これまでの南北対立の構図はその方が交渉上有利であったからで、これからは新たなリーダーが出てきて南北問題を乗り越えていくのではないでしょうか。

白井:アフリカも、まだ問題はたくさんあるものの、10年前と比べると随分変わりました。石井さんのおっしゃる通り、今までは一方的に援助される国だったのが、自立的に活動していく方向に進みつつあります。GEFは十分な資金や技術的なノウハウを持たない途上国に、さまざまな支援活動を展開してこられました。これまでのプロジェクトについて紹介していただけますか。

石井:GEFの支援分野の中でも大きい気候変動分野では、技術移転による温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量の削減をめざします。例えば、火力発電に換えて、集光型太陽熱発電(CSP:Concentrating Solar Power)方式を途上国に導入してもらいます。その分コストがかかりますが、このコストの差額分に、資金提供するのが典型的な支援プロジェクトの一つです。これまでモロッコ、エジプト、メキシコにCSPを導入してきました。また、国全体でのエネルギー効率利用をめざし、エネルギー使用量表示の厳格化、そのための情報収集システム整備などにも資金援助をしています。統合的なプロジェクトにも力を入れています。アフリカではサハラ砂漠以南の国でグループをつくって砂漠化を食い止め、東南アジアでは「サンゴ三角地帯」と呼ばれる世界有数の豊かな海域を囲む6カ国(インドネシア、フィリピン、マレーシア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、東ティモール)で連携組織をつくって乱獲や汚染から保護する活動を支援しています。

*1
SDGs : Sustainable Development Goalsの略。2000年に設定されたミレニアム開発目標(MDGs)に続く国際開発目標。持続可能な開発の三つの側面(経済、社会、環境)に統合的に対応し、先進国・途上国のすべての国を対象とする目標。
  
*2
COP21: The 21st session of the Conference of the Partiesの略。世界の気温上昇を産業革命以前の水準からセ氏2度より低く抑えるという国際目標達成のために、温室効果ガス排出量削減に向けて米国や中国を含むすべての国が参加する枠組みの実現をめざす。

新たなアプローチで結果を出していく

白井:GEFでは、従来の取り組みに加えて多くの機関との連携を重視されています。今後の方針についてお聞かせください。

石井:GEFは、1992年の設立以来、さまざまな活動に取り組み、実績を重ねてきました。しかし、環境悪化は深刻さを増しているのが現状です。先ほどお話した気候変動、生物多様性、砂漠化対処の3条約について、以前、総合科学雑誌『Nature』がすべて“F(Failure)”の評価を発表しました。これはGEFに対する評価ではないものの、環境保全が“F”の通信簿なら、環境保全を目的に資金提供しているGEFも当然“F”評価だと思います。先ほど紹介したプラネタリー・バウンダリーのフレームワークでは、既に三つの地球システムの分野で限界を超えてしまい、個別のプロジェクトの一つ一つがいかに成功であっても、全体評価で見れば負け戦だったということです。GEFは、今までのやり方を変える必要がありました。そこで着目したのが「ドライバーに注目したアプローチ」「統合的アプローチ」「マルチ・ステークホルダーによるアプローチ」という三つの新たな取り組みです。まず「ドライバーに注目したアプローチ」ですが、これまでのように問題が起きてから後追い的に対処するのでは効果が限られることから、環境悪化の根本的な原因(=ドライバー)にアプローチしていこうと考えています。次に、原因や問題を統合的かつ体系的に捉える「統合的アプローチ」です。気候変動や森林破壊、生物多様性などの問題は、人間の活動が生態系にプレッシャーをかけ過ぎているという共通の問題から起きています。それに対して、私たちの対応はどうしても気候変動条約、砂漠化対処条約、生物多様性条約というように専門分野別になってしまいがちです。環境破壊の原因には異なる要因が含まれているのですから、私たちも統合的な取り組みを進める必要があります。最後は、複数の機関と一緒に取り組む「マルチ・ステークホルダーによるアプローチ」です。環境保全に関係するステークホルダーを広げ、政府だけでなく、民間企業、NGO、NPO、コミュニティなど市民社会組織(CSO:Civil Society Organization)、アカデミアとも連携して効果の高い活動をめざすものです。

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白井:具体的にはどのような活動になるのでしょうか。

石井:現在、要因別のGHG排出量割合を見ますと、森林破壊によるものが輸送分野と同じ程度の比率ですから、森林破壊を止めるだけで格段にGHG排出を減らすことができます。森林破壊の原因は、特に熱帯雨林の場合、パームオイル、アカシアパルプ、大豆、畜産などグローバル・コモディティ(一次産品)の生産によるものです。世界人口の増加に加え、中産階級の牛肉消費量の増加など豊かさを求める人間の活動が、森林破壊を起こしています。こうした動きに歯止めをかけるためには、サプライチェーンの持続可能性に着目することが必要です。生産、加工から、それを扱う流通企業までサプライ・チェーンに連なるアクターが一つのグループになって取り組む必要があります。これを「サプライチェーン・アプローチ」と言います。例えば、パームオイルですが、生産の5割を占める小規模農業従事者は自分たちの生活のために違法な乱伐採を続けています。従って、キャパシティ・ビルディングやノウハウの伝授、持続可能な生産方法に移行するための資金援助といったアプローチも同時に行う必要があります。これに加えて、違法伐採されたパームから作られたオイルは買わない、といった消費者活動の推進が考えられます。難しいのは中国やインド市場ですが、その対応にもマルチ・ステークホルダーのプラットフォームが生きると思います。現在、このような連携の動きが進みつつあります。もう一つお話したいのが、都市開発への取り組みです。経済活動の7、8割は都市で行われ、GHGの7割が都市から排出されます。そのため、行政の長や都市計画をデザインする人たちに、中長期的な環境負荷軽減を考えた都市づくりをしてもらうことが重要になります。GEFは、それをサポートする「持続可能な都市プログラム」を支援しています。都市の団体などとネットワークを組む新たなアプローチで取り組んでいます。

白井:今年のSDGsやCOP21の決定が次の社会と地球環境に大きく影響すると思いますが、SDGsの採択などによってGEFの取り組みが今後変わることもあるのでしょうか。

石井:SDGsは非常に重要な試みです。先進国も途上国も一緒に取り組むこと、SDGsの17個の目標が世界に広く認識されていることは評価すべきでしょう。海洋や森林、都市開発など、GEFが重視している課題もSDGsの議論に盛り込まれていますから、それを全世界に進めることができれば、一歩前進します。国連自身より実際に取り組む加盟193カ国の人々に“Congratulations (おめでとう)!”と言いたいですね。ただ、挑戦はこれからです。どのように実行に移していくのかが、今後の大きな課題だと思います。GEFは途上国の地球環境保全を支援する信託基金ですから、現場のアクションを盛り立てていくのが仕事です。資金自体は大海の一滴ですので、先ほど申し上げた持続可能な都市プログラムや、さまざまな機関との連携により効率的で効果の高いアクションを起こし、その一滴をうまく活用してほしいと思います。途上国自身がアクションに参加できるように、キャパシティ・ビルディングなどの側面支援が重要になるでしょう。

急速に経済発展した中国の役割

白井:戦後は世界銀行やIMFのフレームワークで途上国支援が行われてきました。中国は、いろいろな制約がある中で80年代から奇跡的な成長を遂げてきたわけですが、ここにきて成長率が落ちています。中国の経済発展についてどのようにお考えですか。

石井:中国は発展すべくして発展したと思います。日本やシンガポールなどと発展の形態が似ていると思います。労働や資本などのインプットを拡大してきた重厚長大型の発展形態と言えます。今、これまでのやり方が限界にきていることを一番感じているのは中国自身で、その解決策を見つけようと必死になっているのではないでしょうか。先に紹介した「生態文明」という概念は、まさにその試みの証左だと思います。中国はGEF設立当初からのメンバーですが、GEFに期待したのは最初から資金ではなく技術革新への支援やノウハウの提供でした。中国の環境保全に向けた諸活動には興味深いものがたくさんあり、ビジネスをするには面白い国です。中国は今後さらに環境保全活動と持続的開発を推進したいと考えていますし、われわれも同じ立場です。金融のグリーン化を掲げ、金融制度全体で持続可能な経済活動への方向転換を推進すべく、中央銀行や市中銀行、開発銀行といった金融機関の改革に本格的に取り組んでおり、かなり期待ができるのではないでしょうか。技術開発に関しても多額の研究費用を使っていますし、技術革新力は相当高いレベルに到達しています。

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白井:中国は、世界銀行やIMFのような従来の枠組みとは異なる国際金融機関を設立しようとしています。新開発銀行(NDBBRICS:New Development Bank BRICS)や、アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)による新興国のインフラ整備支援を進めています。こうした中国の動きをどのように評価されていますか。

石井:AIIB、NDB BRICSの設立は、世界銀行やIMFを中心としたいわゆる「ブレトンウッズ体制」への反逆という受け止め方もあります。しかしその誕生のきっかけは必ずしもそう単純ではないと思います。BRICSの5カ国はまだ発展途上ですから、さまざまな問題を抱えていますが、全体として見れば潤沢な資金があります。しかし、世界銀行などに拠出しても、自分の国にそれほど返ってくるわけではない。自分たちの資金を自分たちで活用したいと考えてもおかしくないと思います。NDB BRICSの設立の背景には、世界銀行のチーフエコノミストを務めた経済学者たち、英国のニコラス・スターン氏や、米国のジョセフ・スティグリッツ氏らのアドバイスがあると聞いています。潤沢な外貨準備を背景にマーケットから資金調達し、レバレッジを効かせて自分たちの望む形でインフラ開発を展開していく。BRICSをはじめとする中進国がそれだけ力をつけてきたということでしょう。ただし、7月に行われたNDB BRICSの開業式典にゲストで出席しましたが、どれだけサステイナブルなインフラ開発を実現できるかは、まだはっきり見えません。サステイナブルなインフラ整備があってこそ、サステイナブルな経済成長につながります。インドでは7割の都市はこれからつくられます。都市のインフラ整備はロックイン効果が非常に大きく、いったん作られたインフラは30年、40年続くことを踏まえて、長期的な視点から都市開発に取り組んでほしいと思います。

白井:環境問題においては、これまではどちらかというと後ろ向きのイメージがあった米国と中国が前向きな発言をするようになりました。

石井:そうですね。それぞれの思惑が違うとはいえ、あの2大国がGHG削減目標で合意できたことは大変ポジティブなメッセージを世界に届けたと思います。

国際援助体系の将来像

白井:かつてIMFに勤務された1990年代と比較して、現在のIMFや世界銀行の援助政策をどのように見ていらっしゃいますか。また今後、どう変わるべきだとお考えですか。

石井:NDB BRICSやAIIBを見ても、今までの国際援助体系とは変わってきています。90年代と現在を比べると、先進国から途上国への資金の流れは、公と民が完全に逆転しています。公的金融機関の役割として資金援助はもちろん重要ですが、資金援助によりその国が発展するための制度改革をどれだけできるかが重要でIMFの資金は大海の一滴ですから、この一滴を受け取る国がどのようにうまく使ってくれるのか。例えば、もっと環境と両立する成長をめざした民間投資を呼び込むとか、制度改革に取り組むとか、知恵の使い方が重要になるでしょう。中国の例があるように、これから公的金融機関に求められるのは知識、情報、技術です。世界銀行やIMF、GEFも含めて、旧態依然のやり方では途上国にそっぽを向かれてしまう。国際機関に求められているものが高くなっていると感じます。 GEFの活動の中でサプライチェーン・アプローチについてお話しましたが、政府ではなく民間企業とCSOがリーダーシップを取り、新しい取り組みを進めています。ユニリーバ・グローバル・カンパニーCEOのポール・ポールマン氏とはGEFのプログラムの件で何度かお会いしたのですが、非常にインスピレーションを与える人です。そういう力のあるリーダーが自らのミッションとして地球環境保全に取り組んでいるのです。また、都市開発においても、前ニューヨーク市長で現在は「都市と気候変動」担当の国連特使であるマイケル・ブルームバーグ氏のように、力のある市長たちが「自分たちのリーダーシップでどんどん取り組んでいかなければいけない、中央政府の対応を待っている場合ではない」という意識を高めています。前に紹介したGEFの「持続可能な都市プログラム」の件で、先日、南アフリカのヨハネスブルクの市長とお会いしました。考え方がとても革新的で、ヨハネスブルクを世界の一流都市にするためのビジョンやアイデアをたくさん持っておられます。このような人たちをサポートするとともに、地球環境保全に関する考え方の枠組みも、時代の変化に対応していかなければいけないと思います。

白井:石井さんは現在、GEF本部のあるワシントンD.C.を拠点に、世界中を飛び回っていらっしゃいます。途上国の開発政策の現場から見た日本の援助政策について、ご意見をお聞かせください。

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石井:これまでのような先進国対途上国という南北問題の概念を超える動きが目立っています。援助というより、新たな時代の中で持続可能な経済発展のために知恵を出し合う。地球はみんなのものであり、良くするのも悪くするのも共同責任。リーダーが一緒に共同の支援プラットフォームをつくり、その中で資金の足りない途上国に資金を提供するという流れです。そのような中で日本はどのようなリーダーシップが取れるのか。新たにつくられていくマルチ・ステークホルダー・プラットフォームにどれだけ関与していけるかにかかってくると思います。サプライチェーン・アプローチにしても、欧州や米国のリーダーシップが強いのですが、日本が提供できる知恵や技術はもっとあるはずです。混沌(こんとん)とした状況の中でも少しずつ日本のリーダーシップが見えてくるといいですね。

白井:石井さんは財務省や国際機関で重責を担われながらも、英語と日本語で多数の論文を発表してこられました。仕事と執筆活動の両立、モチベーション維持のために工夫されていることがあれば教えてください。

石井:論文を書くことは仕事と一体化していまして、公と私の区別があまりないのです。逆に言えば、好きなことばかりやってきたと思います。人間は好きなことには投資しますし、頑張ることもできます。あえて言うなら、私が大事にしているのは自分への投資です。日本はまだ、会社と自分の関係が基軸になっていることが多いのですが、私は「会社と自分」ではなく、「プロフェッションと自分」だと考えています。財務省の中でも、IMF、世界銀行、現在のGEFでも、基本的に国際開発に携わってきました。そこで求められるプロフェッションに忠実であること。その時々で一番役 に立てそうな職場を自分から探して切り開いて行くことですね。

白井:最後に、これから挑戦したい夢は何でしょうか。

石井:GEFに入って以来、多くの現場を見て、たくさんの研究者と話をしてきました。その結果、「地球環境は本当に大変な局面を迎えている」とあらためて感じます。このような問題にきちんと目を向けず、よくこれまでのんきに暮らしてきたものだと思います。地球環境は、この10年でアクションを取らなければ、30年後は取り返しのつかないことになります。今日実施したことが、明日結果が出るなら分かりやすいのですが、少し先であったり他国のことであったりすると政治的に難しい。環境保全という重要な問題に対して、どうすれば大きなリーダーシップをあちらこちらで育てていけるのか。国のトップというよりも民間企業など、いろいろなところから声が出てきて、さらにそれが一つにまとまっていかなければなりません。消費者調査などの結果を見ると、若い層を中心に意識の変化が表れています。世界中の声が一つの大きな流れとなり、地球環境と人間の発展を考える機会がもっと生まれるといいですね。その中でもっと日本の声やリーダーシップが出てきてほしいと思います。

白井:国際開発、そして環境の分野にはずっと関わって行きたいと。

石井:私の中では国際開発と環境が一体化しています。持続的開発は地球環境を考えなければできませんし、地球環境を考えればどのような持続的開発が重要かわかってきます。GEFで仕事を始めるまでは、私自身そういう意識があまりなかったことは問題だったと思います。世界の人々にもっと国際開発と環境は表裏一体であることを実感してもらえるよう働きかけていくことが大切で、「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)」の設立もそのための試みです。このほかに「フューチャー・アース」「The World in 2050」など、研究センターや大学、技術機関、民間企業、CSO、国際機関などの、グローバル・ネットワークの動きに私自身も参加し、日本の中でもアクションを起こしながら地球の未来、われわれの未来を救えるようになるといいですね。

白井:今回は国際会議に出席するため来日され、多忙なスケジュールの中をお越しいただき、大変ありがとうございました。

編集後記

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今回は、地球環境ファシリティ(GEF)の CEO兼 評議会議長の石井さんから、これまでGEFが取り組んできた途上国での環境保全プロジェクトについて、お話を伺いました。各プロジェクトで最大限の成果を得るために、民間企業やNPOなど多様な機関との連携を重視しており、また単に途上国に対して資金を援助するのではなく、キャパシティ・ビルディング(途上国の能力構築)までも行うという多面的なアプローチを採っていると聞きました。最後に石井さんの「自分への投資」「プロフェッションと自分」という言葉から、飽くなき向上心こそが世界で活躍されている石井さんの原動力になっていると感じました。今後のますますのご発展に期待したいと思います。

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