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Voice from the Business Frontier

AIスタートアップの最前線

    Dinesh Wadhawan氏

    Dinesh Wadhawan

    Head of Corporate Venturing Office North America
    Hitachi America, Ltd.

    デリー大学卒業
    IT業界でキャリアをスタートし、MicrosoftのManaging Director、スタートアップの企業経営などを経て、2016年より Hitachi America, Ltd. の研究開発部門に参画。2022年より現職。

    Q1. CVO-NA(Corporate Venturing Office North America)のミッションと、ご自身の役割についてお聞かせください。

    私の所属するCVOは、イノベーション成長戦略本部の一部門で、北米、日本、欧州に拠点を構えています。
    私は20年以上シリコンバレーに住んでおり、さまざまなスタートアップやベンチャーキャピタルとのネットワークを築いた経験を生かし、CVOにおける北米の責任者を務めています。
    CVOの役割は、一つ目に日立ベンチャー社*1のファンドが出資しているスタートアップを日立の各ビジネスユニット(BU)に紹介し、BUの中長期の事業戦略がめざす重要な製品・ソリューションの実現に貢献することです。二つ目に、スタートアップ、BU、そしてBU のお客さまとの間の協力関係を強化することです。
    一つ目の役割は、具体的には BU のイノベーションリーダー(CEO、CTOなど)との定期的な会議を通じて、求められる技術や、BU とそのお客さまのニーズを把握した上で、CVOがコネクションを持つスタートアップを紹介することです。その際、技術の観点だけでなく、 BUの製品・サービスの売り上げの拡大にどのように貢献するか、協業形態などについても提案します。また、BUのニーズに合うスタートアップを新たに探索してアプローチすることもできます。
    スタートアップの紹介については、私とBUの間の情報共有だけでなく、マーケティングプログラムとして、BUの方を招いて、日立ベンチャー社が出資するスタートアップとミーティングをする機会を設けています。
    二つ目の役割は、私が以前所属していた日立の研究開発部門との連携にもなりますが、BUがお客さまとの協創を進める事前の検討段階として、日立のデータサイエンティストなどと連携しお客さまの課題について、日立とスタートアップの技術によって解決できるかを検証することです。課題解決に貢献できると判断すれば PoC(Proof of Concept)、PoV(Proof of Value)を提案・実施して、商用化につなげます。このプロセスにおいてCVOはBUと伴走して、お客さまとの関係性の強化を支援しているのです。

    *1
    日立の戦略的コーポレートベンチャーキャピタル部門。日立と戦略的に関連性の深い、モビリティ、ヘルスケア、スマートライフ、産業、エネルギー、IT などの社会課題に取り組む革新的スタートアップ企業に投資。

    Q2. 北米地域におけるAI関連のスタートアップのトレンドについてお聞かせください。特に、最近注目される AI スタートアップについて教えてください。

    AIスタートアップの世界では、生成AIを中心に技術革新が進んでいます。この流れは、半導体からITインフラ、ミドルウエア、アプリケーションの全階層にわたり変革をもたらしており、各層で新しいリーダーが台頭するパラダイムシフトが起こると予想されます。
    生成AIは、カスタマーサービスから始まり、ソフトウエアエンジニアリング、マーケティング・販売、R&D、サプライチェーン、そして財務に至るまで多岐にわたる業務に適用されています。特にソフトウエアエンジニアリングと R&Dでは、生成AIの利用により開発時間の短縮が図られており、これは従来のAI技術と比べても注目される新しいトレンドです。
    テキスト生成領域では、OpenAIのGPTシリーズやGoogle DeepMind、Meta、Alibabaなどの大手とともに、AnthropicやTabnineなどのスタートアップも活動を活発化しています。また、DreamFusionやNVIDIA GET3D、Shape-Eといったモデルによる3Dオブジェクト生成も進展しています。大規模言語モデル(LLM)は高額な開発費用を要するため、多くのスタートアップはLLMのオープンソースをカスタマイズして、独自のアプリケーション開発に応用しています。
    さらに、ITインフラの運用効率向上やロボティクス分野の自律制御においても新たな試みが始まっていますが、これらはまだ初期段階であり、具体的な成果は将来に期待されます。シリコンバレーのベンチャーキャピタルは、これらのトレンドを追いかけ、生成AIの適用分野ごとに数億ドル規模のファンドを立ち上げています。ベンチャーキャピタル1社当たりの資金供給能力は100億ドルから120億ドルにも及びます。

    Q3. CVO-NAが現在行っている生成AI関連スタートアップとの連携活動を教えてください。

    日立ベンチャー社は、次世代技術の開発に注力している複数のスタートアップへの投資を、実際に行っているか、または検討しています。
    アプリケーション分野では、Archetype AI、Xaba、Makersiteの3社が革新的な技術を開発しています。
    Archetype AI は小売業の店舗や物流倉庫の現場で利用される画像や音声データを分析するマルチモーダルの生成AIモデルを開発中です。製造や物流現場で現場監督者の意思決定の支援を行うことが可能で、安全性の向上や効率化が期待されます。Xabaは製造業向けに、産業ロボットや3Dプリンタのプログラミングとエンジニアリングを自動化するソフトウエアを開発しており、製造現場の生産性を向上させることをめざしています。Makersiteは、Product Lifecycle Intelligenceというソフトウエアを開発し、CAD*2、PLM*3、ERP*4、そしてサプライヤー情報を含むBOM*5データを、機械学習を利用して分析、製品設計や材料選定の最適化をサポートしています。
    一方で、セキュリティ対策を扱う企業としても注目すべきスタートアップがあります。Trustwise AI が生成AIによるハルシネーション(質問に対して、いかにも事実のような虚偽の回答がなされる現象)の検出とデータ漏えい防止技術を開発し、企業のデータ保護を強化しています。また、StrikeReadyは複数のセキュリティ層を統合的に監視し、インシデント発生時に迅速な対応を可能にするThreat Intelligent Engineを提供しており、事前の防御や危機回避に貢献しています。
    Archetype AI、Xaba、Makersiteは産業領域での生成 AI の応用において、日立の既存の事業や顧客ベースとの高い親和性を持ち、これが新たな価値創出の大きな可能性につながると確信しています。さらに、Trustwise AIとStrikeReadyは、ミッションクリティカルな業務(年中無休で停止することなく運行を要求される基幹業務)におけるセキュリティの面から見ても、極めて重要です。
    その他に私が現在注目している次世代技術としては、産業システムで重要な構成要素となるマイクロコントローラや自動運転車両が挙げられます。人間の脳神経系の構造に対する理解をCPUアーキテクチャに適用することで、CPUのパフォーマンス向上をめざす企業にも注目しています。

    *2
    Computer Aided Design
    *3
    Product Lifecycle Management
    *4
    Enterprise Resource Planning
    *5
    Bill Of Materials

    Q4. 日立グループと生成AI技術を有するAIスタートアップとの連携への将来的な期待についてコメントをください。

    CVOの主な役割は、BUを支援し、顧客基盤を拡大、製品およびサービスの普及を促進することです。ここで重要となるのは、顧客体験の向上と製品・サービスのラインアップ拡大です。お客さまに対して単体製品を提供するだけでなく、複数の製品・サービスを組み合わせてサービス価値を提供することにより、お客さまの事業価値を高めていきます。これによって日立が、お客さまにとっての戦略的なパートナーとして認められるのです。
    この取り組みにおいて、CVOは生成AIを含むさまざまなスタートアップとの協業を積極的にサポートしていきます。日立の広範な顧客基盤へのアクセスはスタートアップにとってもメリットであり、両者にとって有益な関係を構築することが可能です。
    生成AIは、新興の領域ですが、2027年をターゲットとする日立の次期中期経営計画に向けて、戦略的投資分野を特定することが重要です。CVOとしては、技術およびスタートアップのトレンド、競合他社の動向を分析し、その情報を日立内部やお客さまに積極的に提供し続けます。これらの活動を通じて、日立の企業価値向上に貢献していきます。

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