Vol.19-2(2024年11月)
巻頭言
取締役社長
溝口 健一郎
ノーベル生理学・医学賞受賞者であるポール・ナースは、著書『生命とは何か』において、生命を三つの原理で定義している。1. 自然淘汰(とうた)を通じて進化する能力がある、2. 「境界」を持つ物理的存在である、3. 化学的・物理的・情報的な機械である、の三つである。一般的には、1は「自分の複製をする」、3は「代謝を行う」と言われることが多いが、ナースは生命の個体としての側面だけでなく、種を超えて連綿と続く・・・
特集レポート
ヘルスケアからものづくりへ広がるバイオトランスフォーメーション
研究第三部 主管研究員 宮ア 祐行
研究第三部 産業グループ 副主任研究員 西村 啓志
バイオ分野においてAI(Artificial Intelligence)などのデジタル活用が進み、バイオ技術は基礎研究から社会実装へ進展しつつある。バイオ医薬や遺伝子治療などの医療革新とそれを通したウェルビーイングへの貢献、微生物の産業利用によるプラネタリーバウンダリーへの対応やサーキュラーエコノミーの実現など、グローバルな課題解決に向けた進化が期待される。
寄稿
Accelerating the Tech-driven Bioeconomy: The Catalytic Role of a Global Policy Framework
Brynne Stanton, PhD
Lead, Bioeconomy
World Economic Forum
The bioeconomy provides solutions to urgent world challenges. From curing diseases to the production of chemicals and fuels to sustainable food production, the bioeconomy is everywhere. As digital technologies advance alongside the ability to read, write, edit and, increasingly, functionalize DNA, ・・・
千葉大学大学院 社会科学研究院 教授
長根 裕美
バイオエコノミーやバイオトランスフォーメーション(BX)という概念が広まりつつある。いずれもバイオテクノロジーをテコに社会や経済を改善しようというものである。本稿では、バイオテクノロジーの進展が社会・経済にもたらすインパクトやその推進における産学官の役割について、バイオテクノロジーの開発と普及という観点から、経済学的に検討する。またBXの守備範囲は広範にわたるため、ここでは健康・医療分野に焦点を絞る。
鹿児島大学 学術研究院 法文教育学域 法文学系 教授
桜井 芳生
遺伝子解析により身体的特性や疾病の可能性などが解明されつつあることが知られている。本稿で紹介する遺伝子社会学とは、遺伝子情報の解読により人の社会的特性を科学的・医学的に解釈しようとする学問である。四半世紀前にはすでに欧米で盛んに議論されていたダーウィン進化論から派生した進化社会学(Sociogenomics)は、日本では議論や認知がなかなか進まなかった。これは、日本の社会学におけるバイオフォビア・・・
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門長
油谷 幸代
日本政府は今年6月3日に統合イノベーション戦略推進会議にてバイオエコノミー戦略を決定した。これは2019年に策定されたバイオ戦略について最新の国内外の動向をふまえて改訂し、名称も改めることで、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現」するという目標に向かって施策を強化するものである。バイオエコノミー戦略が決定されたことで、今後、産業界のバイオトランスフォーメーション(BX)が加速化する・・・
超高齢化社会におけるバイオ医療の重要性とその展望:平均寿命と健康寿命のかい離解消へのチャレンジ
京都大学大学院 医学研究科 がん組織応答共同研究講座 特任教授
服部 雅一
日本は1970年に人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%(約730万人)を突破し「高齢化社会」に突入した。その後、高齢者人口は増え続け2024年1月現在3,600万人を超え、総人口に占める割合(高齢化率)は30%に迫ろうとしている。厚生労働省の推計によると、2042年には65歳以上人口がピークを迎え3,878万人となると予測されている。75歳以上人口も増加の一途をたどり、2057年には人口の4・・・
ビジネスの最前線から
荻野 剛
General Manager, Molecular Research & Diagnostics Division,
Hitachi High-Tech America, Inc.
日立ハイテクは、25年以上にわたり米Thermo Fisher Scientific社(旧Life Technologies社)と協業し、キャピラリ電気泳動DNAシーケンサなどの遺伝子解析装置を開発していました。その後、2013年には日立ソリューションズと共同でゲノムマッピング技術を保有する米OpGen社とヒトゲノムデータ解析ソリューションの開発に着手し、2016年には社内にバイオ関連分野での新し・・・
機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。
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