外部寄稿
近年、生成AIを始め、デジタル技術の目覚ましい発展により、データセンター需要が急激に拡大している。従前、データセンターの電力消費は1棟あたり数メガワットであったが、近年増加しているハイパースケールデータセンターは30〜70MWと10倍の電力を消費する。さらに、今後増加が予測されるAIデータセンターは200MW〜1GWと、100〜300倍の電力需要の消費が見込まれている。データセンターの立地は通信・電力・交通アクセス・地盤などの各種条件に適した土地が選定され、好立地は限定的であることから、特定の地域にデータセンターが集中する傾向がある。電力インフラの視点では、発電所などの供給力確保の問題だけでなく、基幹系統送電線・変電所といった流通設備の設備容量不足の問題も生じる。
本稿では、海外事例と比較しながら、データセンターを中心とした日本のデジタル産業における電力消費の現状と課題について述べたい。
世界各地でデータセンターが増加しており、電力系統制約や電源不足の課題が顕在化している。国際エネルギー機関(IEA)の取りまとめでは、2024年のデータセンターの電力需要量は世界で推定415TWh、電力需要全体の1.5%を占める*1 。北米では米国東海岸を中心に、西海岸(オレゴン州・アリゾナ州)、テキサス州でデータセンターの導入が進んでいる。そのうち、ワシントンDC近郊のバージニア州は、導入されているデータセンターのIT設備容量が4,694MWと、世界で最もデータセンターが集中している地域である。日本でも、東京では1,028MWのデータセンターが導入されており、東京電力パワーグリッドによると、現時点で9,500MWものデータセンターが接続申し込み手続きを行っているという。データセンターは通信・電力・交通アクセス・地盤といった多くの条件をクリアした土地に建設する必要があり、条件に合致した土地が限られることから、立地が集約する傾向にある。
なぜ今、これほどまでにデータセンター市場が急拡大しているのだろうか?複数の理由が挙げられる。まず、社会のデジタル化に伴い、官公庁・自治体・企業ではクラウドサービスの導入が急激に進んでいる。当然ながら、クラウドサービスを支える大規模データセンターも拡大が必要になっており、市場拡大の主要因となっている。また、近年ではChatGPTに代表されるAIの普及拡大により、高度な機械学習モデルの学習・推論に莫大(ばくだい)な計算資源が必要になっており、AIデータセンターの需要が増加している。ChatGPTはGoogle検索に比べて電力消費が10倍であるほか、NVIDIAのAI用高性能GPUサーバーであるDGX B200の最大消費電力は14.3kWであり、汎用サーバーに比べて15〜30倍の電力を消費する。これに伴って、データセンターの1件あたりの消費電力も増加傾向である。東京電力パワーグリッドに対して接続検討を問い合わせしているデータセンターの想定消費電力は、2018年から2021年は平均5万kWであったが、2022年から2023年は平均8万kW、2024年は平均13万kWに増加している。また、既存データセンターの提供能力を縮小し、GPUサーバーを導入するケースも見受けられる。
続いて5G通信ネットワーク網とIoT市場の拡大である。高帯域・低遅延の接続が可能になったことで、リアルタイム処理が求められるシーンが増加している。産業分野ではIoTの進展に伴い、取り扱われるデータ量が増大している。工場における製造装置稼働状況・歩留まり率のリアルタイム分析やヘルスケア分野における遠隔モニタリングなど、即応性が求められる用途が増加し、ローカル・エッジデータセンターの需要が高まっている。また、IoT市場の拡大に伴い、センサーやデバイスで収集されたデータが飛躍的に増加している。NetflixやYouTube、TikTokのような動画メディア、オンライン動画配信サービスの拡大もトラフィック増大やデータセンター需要拡大の主要ドライバーと言えよう。
陸上風力が大量に導入され、電源構成に占める再生可能エネルギーの比率が高いアイルランドでは、データセンター需要による影響が深刻化している。アイルランドの人口は515万人、最大需要電力は555万kWと、人口・系統規模は北海道に近い。この地域にGoogle、Amazonなどの米IT企業がこぞってデータセンターを開発している。シンクタンクBitpowerによると、2017年にアイルランドのデータセンターの電力需要は42万kWであったが、2023年には3倍近くとなる126万kWに成長した。データセンターの電力需要は非常に負荷率が高く、ほぼベースロードである。アイルランドの最小需要電力は260万kWであり、最小需要電力発生時はおよそ電力需要の半分はデータセンターが占めている計算となる。
これだけ大量の需要が増加すると、当然ながら送電系統容量不足や供給力不足の懸念が生じる。2021年、アイルランド公益事業規制委員会(CRU)と送電系統運用者のEirGridは、冬季における需給ひっ迫の可能性について言及し、2022年以降に冬季の供給力が不足する可能性を指摘した。CRUは今後建設されるデータセンターの建設許可にあたって、立地条件や自家発電設備の保有状況を評価するほか、需給ひっ迫時にはディマンド・リスポンス(DR)創出を求める方針を明らかにしている。実際に2022年夏からアイルランドでは、夏季・冬季の夕方、風力出力が低迷したタイミングで需給ひっ迫が頻発しており、9基のガス焚き緊急設置電源を新設することとなった*2*3 。電力需給ひっ迫を受け、Microsoftはダブリンで計画中のデータセンターに170MWの天然ガス自家発電設備を併設することとなった *4。
系統容量不足も深刻である。アイルランドと同じくデータセンターの増加が顕著なノルウェーでは、防衛大手Nammo社が工場を拡張しようとしたところ、TikTokを運営するByteDanceが既に同一送電線でデータセンターの新規連系を申し込んでおり、工場拡張を断念せざるを得ない事態に直面している。同社はウクライナ軍向けの砲弾を生産しており、通常時の15倍以上の注文を受けている。Nammoの工場拡張断念の影響もあり、ウクライナ軍は戦争に必要な砲弾を調達できず、各国政府の砲弾提供に依存することとなった。ノルウェーではこのほか、TSO(送電系統運用者)であるStatnettに対してGoogleが860MWのデータセンター連系を申し込んでおり、更なる系統容量不足・供給予備力の減少が予想される。
このように、多くのデータセンターを誘致する際には、必ずバックアップとなり得る何らかの制御可能な電源確保と系統新設が課題になると考えられる。日本でもGX・DXに伴い、電力需要が変化していく可能性がある。最も容易に出力制御ができる火力電源の確保については相当慎重な判断が必要になると考えられる。
日本でもデータセンターが集中する地域において系統増強の動きが相次いでいる。2023年以降に事業開始予定のデータセンターは4,139MW程度であるとみられるが、うち東京電力パワーグリッド管内は2,555MW、関西電力送配電管内は1,023MWとみられる。東京電力パワーグリッド管内では千葉県印西市、大手町・有明・塩浜エリア、唐木田・相模原・昭島エリアに、関西電力送配電管内は梅田・淀屋橋、箕面市彩都、けいはんなエリアに集中している。
印西エリアには建設中・計画中のデータセンターが28カ所、1,190MW存在すると推定され、電力需要の増大が最も大きいとみられている。このエリアにおいて東京電力パワーグリッドは24年6月に千葉印西変電所(275/66kV)を新設したほか、千葉印西線(275kV)の新設、千葉ニュータウン線(154kV)の新設、千葉ニュータウン変電所の新設、新京葉変電所(275/154kV)の変圧器増設、木下線(66kV)を154kVへ昇圧、千葉印西変電所と印西線(66kV)を接続する連絡線の新設など、多くのインフラ整備を行っている。
次に昭島エリアである。2023年1月にJR昭島駅北側にあるゴルフコースが閉鎖され、2026年から29年にかけて物流施設・データセンターが相次いで竣工(しゅんこう)する見込みである。東京電力パワーグリッドはこのエリアでも大型のインフラ整備を行っている(昭島北線(154kV)の新設、昭島北変電所新設、豊岡変電所(275/154kV)の変圧器増設、新飯能変電所(500/275kV)の変圧器増設)。特に新飯能変電所の増設容量は1,500MVAと非常に規模が大きい。現在、我々が昭島市・青梅市およびその周辺でつかんでいるデータセンター需要は405MWである。豊岡変電所の変圧器増設容量が450MVA、昭島北変電所の変圧器新設容量が200MVAであることを鑑みると、1,000MW近くの新規電力需要が接続申し込みしていると考えられる。
データセンターによる局所的電力需要の増加は、関西電力送配電管内けいはんなエリアや箕面市彩都でも観測されている。けいはんなエリアでは新生駒変電所(275/66kV)の変圧器増強(300MVA)のほか、新生駒祝園連系線新設、祝園線新設が予定されている。彩都エリアでは西大阪変電所における引出設備(77kV)の新設以外の設備整備は観測されていない。けいはんなエリアで確認されているデータセンター容量は217MW、彩都エリアは250MWであるが、今後データセンターが増加した場合にはさらなる設備増強が必要になる可能性がある。
他方で、足元では世界的に変圧器不足が深刻化している。昨今の再生可能エネルギー利用やデータセンター新設に伴う需要の急増が主要因であるが、加えて、COVID-19パンデミックによる生産縮小・人員不足・生産ライン不足に伴う生産能力不足、変圧器鉄心に使用される方向性電磁鋼板(GOES)の供給不足、米国の電力流通設備老朽化に伴う変電所変圧器の更新ニーズ増大、2024年12月にトルコで発生した変圧器メーカーにおける一斉ストライキによる操業停止などの影響も挙げられる。変圧器不足を背景に、データセンター新設は既存系統の空き容量の取り合いになっている。
問題は供給力である。2024年5月、OpenAIのサム・アルトマンCEOが会長を務めていた原子力スタートアップのOkloがSPAC上場を果たし、ビル・ゲイツ氏がTerraPowerと共同で次世代ナトリウム冷却高速炉の建設に着手するなど、原子力電源への期待が高まっている。しかしながら、原子力電源の開発には手続きや合意形成に多大な時間と労力を要し、建設コストも高い。データセンターは数年で立ち上がってしまうため、時間軸でのギャップが生じる。筆者は複数のLNG関係者を通じて米国の天然ガス関係者の近況を伺っているが、いずれも「極めて鼻息が荒い」といった評価であった。米国ではこの需給ギャップを埋める供給力として天然ガス火力発電所への期待が高まっている。実際、テキサス州では天然ガス火力発電所の新設プロジェクトに対する支援制度を創設したところ、50億ドルの予算に対して389億ドルの融資申請が殺到している。当面米国では、データセンターの電力需要を再生可能エネルギーとガス火力の組み合わせで手当てすることになるだろう。
日本でも、供給力不足の課題は指摘できる。政府は原子力発電所の利活用を掲げている。原子力発電の活用は供給力確保に加えて、エネルギー自給率向上・脱炭素電源の確保の観点から非常に重要である。他方で、再稼働が見込まれる原子力発電所は限られているほか、新設には20年以上の時間を要する。また、脱炭素の潮流を受け、炭鉱投資が激減しており、2030年頃から多くの日本の石炭火力が依存する豪州の一般炭生産量は急減する見込みである。これら課題を鑑みると、現実的には当面の間は再生可能エネルギーとLNG火力発電所の組み合わせに頼らざるを得ず、再生可能エネルギー・LNG火力発電所の開発拡大が肝要であると考えられる。他方で、LNGも当然CO2を排出する化石燃料であり、長期的には脱却が必要である。2040年代後半以降の脱炭素電源確保の観点から、原子力電源の新設・リプレースが肝要であると考えられる。今次のエネルギー危機で各国は化石燃料確保の課題に直面し、国民生活に多大な影響が生じた。脱炭素の議論は、国民生活への影響を考慮した上で、時間軸を意識しながら議論する必要がある。データセンターの拡大といった社会構造の変化を鑑みた上で、2030年代、2040年代にはそれぞれ異なる打ち手が必要になると考える。
松尾 豪(まつお ごう)
合同会社エネルギー経済社会研究所 代表取締役
昭和61年生まれ。再エネ発電・小売電気事業者のイーレックス、アビームコンサルティングなどを経て、現職。電力・石油・機械業界に対する事業コンサルティング・アドバイザリーなどに従事。大型電気システムに関する国際評議会(CIGRE)会員、電気学会正員、公益事業学会会員。
執筆者紹介
松尾 豪
合同会社エネルギー経済社会研究所
代表取締役
機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。
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