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外部寄稿

金融機関と他業態の企業間のエコシステムが築く新たな社会イノベーション

    国内金融機関を取り巻く環境は大きく変わっており、金融機関が今後ビジネスを持続的に拡大させるために求められる成長戦略も大きく変わりつつある。特に金融機関の新たな成長戦略として、非金融ビジネスの展開と金融機関以外の業態の企業(以下、他業態の企業とする)との連携を推進している。一方で、他業態の企業においてもサービス拡充、取引先との関係強化を目的に金融サービスの提供を行う企業が増加している。他業態の企業の金融サービスへの進出は、金融機関において脅威となる場合もあるが、これらの企業を支援、連携することによって新たなビジネスモデル、さらには新たな社会イノベーションの創出が期待されている。本稿では、金融機関と他業態の企業の双方の背景、目的を踏まえ、エコシステムによる新たな社会イノベーション創出に向けての展望と課題をみていく。

    1. 国内金融機関を取り巻く環境

    まず既存の国内金融機関側の取り巻く環境、そして新たなビジネスモデルとして、他業態の企業との連携に向かう目的を見る。

    1.1 国内金融機関が直面する課題

    国内は、少子高齢化による市場縮小、および労働人口減少といった各業態で共通の経営課題に直面している。特に国内金融機関に限定した場合でも国内市場縮小に加えて、依然として低く抑えられたままの金利政策によって既存金融ビジネスは伸び悩みが懸念されている。また、他業態の企業と同様に人材不足の課題も抱え、大量の営業店舗、営業担当者を武器とした人海戦術的な営業スタイルの継続は困難になり、ビジネスモデルの見直しが余儀なくされている。一方で、小売業、サービス業、情報サービス業の有力企業は自社グループの「経済圏」を拡充する目的で金融サービスに積極的に進出している。このように国内金融サービスの競争は、特にリテール分野を中心に激化している。加えて、子供の時からデジタルに慣れ親しんだ「デジタルネイティブ世代」が消費者の中心となる30〜40歳代になっていることから、金融機関の提供するサービスにおいても、国内外の洗練されたサービスと同等のデジタルチャネルによるユーザーインターフェース、顧客エクスペリエンスが期待されている。このような状況の中で国内金融機関もデジタルチャネルの高度化、デジタルを活用した新しいビジネスの展開が必須となっている。

    1.2 国内金融機関の新たな成長戦略

    国内金融機関を取り巻く経営環境は大きく変わる中で、国内金融機関が今後生き残り、ビジネスを持続的に拡大させるために求められる成長戦略が大きく変わりつつある。国内金融機関の新たな成長戦略とは、経済環境の変化を踏まえ、デジタル化によって既存金融ビジネスのチャネル/サービス/商品の刷新、そして非金融を含む新規ビジネス展開を推進し、これらを有機的に連携させることで持続的な収益拡大を図るものである。つまり、国内金融機関は、デジタルチャネルも組み合わせた多様なチャネルで金融/非金融分野を組み合わせた、各社で優位性のある商品/サービスを展開することが新しい成長戦略として求められる。そのためには、自社単独でのサービス提供、チャネル体制構築は困難であり他社との連携が必須となる。特に他業態の企業との連携が、今後の顧客基盤開拓、非金融サービス展開には重要となる。すでに顧客基盤獲得などを目的に、本来脅威となる金融サービスの提供を模索する他業態の企業向けにBaaS*1、または組込型金融*2を提供し、支援を開始している。その一方で、金融機関が構築したデジタルプラットフォームに他業態の企業の参加を促す取り組みも増えている。

    *1
    「Banking as a Service」の略で、銀行の機能をAPIで提供し、非金融企業が自社サービスに送金や口座開設などの金融機能を組み込める仕組みを指す。
    *2
    非金融企業がAPIを通じて決済・融資・保険などの金融機能を自社サービスに統合し、金融サービスを提供する形態を指す。

    2. 他業態の企業における金融サービス展開

    次に、金融サービスを提供する金融機関以外の企業側の観点から、提供の背景/目的、提供企業の業態ならびに提供方法の変化を見る。

    2.1 金融サービス提供の背景

    他業態の企業において、金融サービスを提供するケースが増えている。その背景として規制緩和、ならびにテクノロジーの発展が挙げられる。これらによって自社サービスの付加価値化を目的とした金融サービス提供が可能となる。特に規制緩和に関して、資金決済法の施行、銀行法の改正によるFinTechスタートアップ企業の事業拡大に向けたAPI(Application Programming Interface)の開放など、金融機関以外で金融サービスの提供をめざす企業への規制緩和が進んでいる。またテクノロジー面では、スマートフォンアプリなどによるデジタルベースでのユーザーインターフェースの向上に加えて、迅速かつ柔軟にシステム構築可能なクラウドの利用拡大、その他API、ブロックチェーンによる高セキュリティを確保したシステム連携の円滑化などが挙げられる。したがって、従来他業態からの金融サービス提供する場合に必須だった新規金融機関の設立、または金融機関の買収以外の方法による金融サービス提供が可能となっている。

    2.2 金融サービス提供企業の業態の変化

    金融サービスの展開で先行した企業は、大手流通業、情報サービス業、通信事業者である。自社が保有する顧客基盤をベースにした自社の中核事業の補完、または新たな収益源の構築を目的に、リテール向けの決済から提供を開始し、現在は資産運用、融資、保険などにビジネスを拡大している。次いで、運輸業、社会インフラ事業者の大企業においても自社の顧客囲い込みを目的に自社が保有する顧客基盤を活用し、決済サービス展開、資産運用、保険などにビジネスを拡大している。その他、これまで金融サービスの提供に消極的だった製造業、中堅中小規模の流通業、サービス業、運輸業でも、顧客向けだけではなく、取引先または従業員支援を目的に金融サービスを開始する企業が増えている。具体的には、製造業における取引先向けサプライチェーンファイナンス、または流通業、サービス業、運輸業における従業員支援を目的としたクレジットカードサービス提供などがある。このように金融サービスの提供企業は一部の業態の大企業から幅広い業態の企業に拡大しており、かつその対象も顧客となる一般消費者だけではなく従業員、取引先企業などに広がっている。

    2.3 金融サービス提供方法の変化

    規制緩和およびテクノロジーが発展する前は、他業態の企業が金融サービスを提供する場合には、新規の金融機関の設立または金融機関の買収しか方法がなかった。しかし、新規に金融機関を設立する場合、大規模な基幹系システム構築と事業免許の取得で金融庁など当局の審査が必要となることから、莫大(ばくだい)な費用と長期間にわたる準備期間が避けられない。一方、金融機関を買収する場合も高額な買収費用に加えて、自社戦略に合う適切な被買収先を探すことは困難であり、同様に長期化する場合が多い。しかし規制緩和、テクノロジーの進化によって金融機関からBaaS、または組込型金融の提供を受ける形で金融サービスの提供が可能になったことから、比較的コストを抑えて、早期に進出が可能になっており、金融サービス提供を開始する企業が増加している(ただし、銀行代理店、保険代理店などの届け出が必要)。一方で、金融機関側も非金融事業に進出を図るケースが増えていることから、他業態の企業の支援を受け、サービス提供を行う事例も増えている(例:情報サービス業など)。したがって、他業態の企業が金融機関の支援を受けて金融サービスを提供するだけではなく、金融機関が構築したデジタルプラットフォームに他業態の企業が参画する、または非金融ビジネスに参入しようとする金融機関を支援するなど、双方向で連携が開始している。さらに今後は、金融機関とエコシステムを構築し、新たな社会イノベーションの創出をめざす動きも始まっている(図1)。


    資料:IDCジャパン作成
    図1 金融機関と他業態の企業との連携の状況

    3. デジタルテクノロジーによって融合する金融機関と他業態の企業

    ここまで金融機関と金融サービスを提供する他業態の企業の動向について見てきたが、他業態の企業による金融サービスの提供、および金融機関と他業態の企業とのエコシステム構築を円滑に行うためには、規制緩和だけではなく最新テクノロジーが重要な役割を担っている。この章では金融機関と他業態の円滑な連携を可能にするテクノロジーとそのテクノロジーを活用したユースケースを示す。

    3.1 採用が進むデジタルテクノロジー例

    金融機関と他業態の企業との連携を支援するデジタルテクノロジーとして、パブリッククラウド、ブロックチェーンを以下にみていく。

    • パブリッククラウド:すでに金融機関を含む多くの企業で運用負担軽減を目的に既存システムのクラウドシフトが進展しているが、併せて新商品/サービス提供のためのシステムの円滑な構築、連携も目的とされている。レガシーシステムでは新たなシステム構築、連携には多大なコスト、時間がかかったが、クラウドベースのシステムによって迅速かつ柔軟な構築、連携を可能にする。これによって、自社開発のシステムだけではなく他社との連携、ならびに新たなデジタルビジネスモデル推進の円滑化が可能になる。さらにセキュリティを考慮し、社内外のシステム連携を円滑に行うために、API連携基盤の利用も増加しているが、これによってBaaS、組込型金融、データ共通基盤の構築を円滑にしている。
    • ブロックチェーン:金融機関を含む一部の企業では採用を開始しているが、これにより高セキュリティを維持しながら複数会社間での取引、情報共有を可能にしている。企業ではスマートコントラクト*3などの事例にとどまるが、銀行では外国貿易業務における信用状*4の電子化、損害保険では外国貿易保険の電子化が開始されている。また、信託銀行、証券会社では、デジタル証券取引(トークン化*5)の基盤の構築が加速しており、不動産、債券のデジタル証券化が始まっている。これらの事業ではすでに他業態の企業も参画しており、エコシステム構築が開始している。今後も、銀行における暗号通貨/ステーブルコイン*6などよる決済基盤整備、証券でのデジタル証券のメタバース/Web3での活用、さらには各金融機関でKYC(Know Your Customer、本人確認)での採用が模索されている。これらの分野でも、他業態の企業の参画、共同事業化が模索されている。

    3.2 デジタルテクノロジーを活用したユースケース例

    上記で取り上げたデジタルテクノロジーを活用して、金融機関と他業態の企業が連携するユースケースを以下にみていく。

    • BaaS/組込型金融:BaaSは銀行機能のすべてもしくは一部を他業態の企業に提供するサービス、組込型金融は銀行以外の金融機能(保険、証券、カード)をすべて、もしくは一部を提供するものと一般的には定義される。これらのサービス提供によって、サービス利用収入の他、提供する金融サービスを通じて集積されるデータの活用も可能になる。すでに銀行、保険会社、カード会社を中心に提供を開始しており、流通業、サービス業、社会インフラ業など広範囲の業態の企業で金融サービス展開の事例が増えている。現状の採用企業は、自社の事業、または顧客サービスを補完する目的で金融サービスを提供する場合が多い。また、利用サービスも金融事業全体ではなく、本人認証、決済サービスなど一部の形態のみ利用可能なケースもあり、今後も利用企業、利用目的に多様化が見込まれる。
    • データ利活用高度化:金融機関では集積したデータを自社内/グループ内での活用だけではなく、新規ビジネスでも活用を開始しており、メガバンク、カード会社ではオンラインマーケティングに強みを持つ企業と連携して、広告、マーケティングサービスなどでの社外向けビジネスを開始している。また、損害保険では、テレマティクスサービスを通じて入手した運行データなどの自社が保有する情報を加工し、リスクマネジメントなどに有効なデータの提供を積極的に行っている他、生命保険でも同様に健康増進型サービスを通じて入手した健康情報と保険データを連携して、流通業、サービス業などとの新たな健康支援サービス開発につなげている。今後、生成AIの活用によってデータ基盤整備の重要性がさらに高まることから、金融機関と他業態の企業間でのエコシステム構築の大きな促進要因になるとみている。
    • デジタル債券/暗号通貨:ブロックチェーンを活用したデジタル証券によって、低コストで有価証券を発行、取引することが可能になった。現在、不動産、社債の取引が中心だが、今後は非上場株式などオルタナティブアセット*7での取り扱いが見込まれる。特にデジタル証券は、投資家と投資先との双方向のコミュニケーションが可能になる特徴があり、ファンエコノミー(消費者自身が商品/サービスの情報発信や生産活動にも参加することで、新たな価値創造に寄与する経済モデル)の促進が期待されている。また、銀行では、ブロックチェーンを活用したステーブルコイン(法的通貨を担保にすることで価格を安定させる暗号通貨)を活用した決済サービス提供を模索しており、これによって安価な国内外の決済サービスの提供が可能になる。なお、これらのユースケースは、Web3/メタバース経済圏での活用も検討されており、金融機関、他業態を含んだ新しいデジタルエコノミーの推進役になることが期待される。
    *3
    ブロックチェーン上で自動実行される契約で、事前に定義された条件が満たされるとプログラムにより処理が行われる仕組みを指す。
    *4
    輸出入取引で用いられる銀行発行の保証書で、輸入者の支払いを銀行が保証し、輸出者の信用不安を軽減する手段を指す。
    *5
    資産や権利をブロックチェーン上のデジタル証券(トークン)として表現し、分割・取引・所有権管理を可能にする技術的手法を指す。
    *6
    法定通貨などの資産に価値を連動させることで価格変動を抑え、安定した価値を持つよう設計された暗号資産の一種を指す。
    *7
    株式や債券以外の資産で、不動産・ヘッジファンド・未公開株・コモディティなど伝統的資産と異なる投資対象を指す。

    4. エコシステムによって築かれる社会イノベーション

    今後、金融機関と他業態の企業との連携が進展し、エコシステム構築が見込まれる。また、このエコシステムでは、単なる参加企業の生産性向上だけにとどまらず、新たなビジネスモデルの創出、ならびに社会課題解決に向けた社会イノベーションの創出も期待できる。本稿の最後として、エコシステムによる社会イノベーション創出事例をみていく。また、エコシステム構築で立ちはだかる課題にも触れる。

    4.1 エコシステムによる社会イノベーション創出事例

    金融機関と他業態の企業とのエコシステム構築による社会イノベーション創出が想定される分野を紹介する。なお、金融機関とのエコシステム構築は各業態の企業で見込めるが、特にエコシステム連携事例の増加が見込まれ、かつ社会イノベーション創出が期待される業態として、自動車製造業、ならびに運輸業を中心として事例をみていく(表1)。

    • プラットフォームの拡大:自社が保有する顧客データ、サービスを中核としたプラットフォームを構築し、他の金融機関、他の産業分野の企業とエコシステム連携を行うことでサービスの拡充、さらには社会イノベーションの創出を図る。例えば、テレマティクスサービスにおける自動車会社と損害保険会社の連携に加えて、自動車購入、事故発生時対応での利便性拡大に向けた自動車修理工場、自動車ローン会社などを含むエコシステム構築が進みつつある。さらには地方自治体、警察署などもエコシステムに参画することで、地域の交通安全維持に寄与することが期待される。また、自動車会社を含め多くの製造業が構築する取引先とのサプライチェーンに銀行が参画するサプライチェーンファイナンス*8の提供が開始されようとしているが、このような取引先支援に加えて、温暖化ガス排出量測定において削減を支援するソリューションベンダー、ならびにESGファンド投資先とも情報連携することで、温暖化ガス排出量削減に寄与することが見込まれる。
    • 「スーパーアプリ」展開:消費者の生活スタイルの変化に伴い、金融機関を含め多くの業態の企業がデジタルチャネルへのシフトを本格化させている。現在ではスマートフォンアプリが普及し、各種手続きの一元化、他社と連携した利便性の向上が進んでいる。その中でも金融サービスを流通、運輸、医療などの各サービスと一体化する「スーパーアプリ」化を模索する企業が増加している。大手通信事業者、情報サービス事業者などで先行する動きがある他、一部の大手銀行でも自社のバンキングアプリをベースとした「スーパーアプリ」の提供を模索している。なお、今後、この分野でビジネス拡大が見込める業態として、大手鉄道会社、航空会社などの運輸業がある。これらの業態の企業ではすでに顧客向け会員サービス、決済サービス、関連会社の流通業/サービス業を抱えている他、直近では金融機関と連携してBaaS、または組込型金融の提供を行っている。これらの運輸業は年齢層を問わず数多くの利用者がいることが特徴であり、運輸業のアプリケーションが中核となった「スーパーアプリ」が提供されることで、沿線住民への包括的なサービス向上だけではなく、MaaS(Mobility as a Service)などの高齢者支援などの社会課題解決に寄与すること期待される。
    • 地方創生支援:国内は少子高齢化が進展しているが、特に地方で深刻化しており、過疎が進展する中でどのようにして地方を活性化するか、社会インフラを維持するかが重要な課題となっている。すでに政府も「地方創生」を重要政策として施策を開始している他、地方自治体、地域の企業、金融機関において取り組みが進められている。特に地域金融機関を中心に、地域の企業への経営支援の他、地方自治体と連携した観光事業支援、地域での消費活動活性化支援などの事例も増えている。金融機関が地方自治体、地域の交通機関と連携した観光支援型MaaSを提供する取り組みが開始している他、ブロックチェーンなどを活用した「地域通貨」の展開を地域の交通機関、地方自治体、商工会議所などと連携して開始するケースも増えている。特に地方において地域金融機関と地域の交通機関を担う運輸業の影響力は大きいことから、この二者が中心となってエコシステムを構築することにより地方創生という社会課題解決に向けた大きな効果が期待できる。
    表1:金融機関と自動車会社、運輸事業者などとのエコシステムによる社会イノベーション創出
    分野 企業名/団体名 提携金融機関 サービス名/概要
    プラットフォームの拡大 トヨタ自動車 あいおいニッセイ同和損保など 「トヨタコネクテッドカー保険」
    本田技研工業 損害保険ジャパン、東京海上日動火災、三井住友海上火災 「Honda コネクト保険」
    「スーパーアプリ」化 日本航空 三井住友海上火災など 「JALの保険」(組込型保険)
    全日本空輸 損害保険ジャパンなど 「明日へのつばさ」(組込型保険)
    東日本旅客鉄道 楽天銀行 「JREバンク」(BaaS)
    地方創生支援

    旭川空港を起点とした MaaS 推進事業協議会

    (旭川市、旭川電気軌道、道北バス、日本航空、全日本空輸、AIR DOなど)
    みずほ銀行 旭川空港を中心とした観光推進型MaaS事業の検証
    資料:各社プレスリリース資料よりIDCジャパン作成
    *8
    買い手の信用力を活用して金融機関が代金を立替払いする仕組みを指す。売り手が商品を納入後すぐに資金を得られるように企業間取引の資金繰りを効率化し、サプライチェーン全体の流動性を高める。

    4.2 今後の課題

    ここまで金融機関と自動車製造業、運輸業を中心とした他業態の企業とが連携したエコシステムの構築により期待できるビジネス拡大、ならびに社会イノベーション創出の機会についてみてきたが、その一方で課題も多数存在する。例えば、エコシステム連携基盤をクラウドベースで構築した場合でも、自社の既存ビジネスのシステムがレガシーの場合、柔軟かつ迅速なサービス提供が困難となる。これは金融機関側が課題として抱える場合が多い。また、金融機関と他業態の企業とが連携する場合に、より重要な課題として各社の企業文化の差異が挙げられ、特にセキュリティ分野で深刻である。金融機関側で求められるセキュリティ水準は他業態の企業と比較して高い場合が多いが、その違いを放置すれば、放置されたセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性が起因となってサイバー攻撃を受け、結果として金融機関、参加企業の双方に金銭的被害だけではなく信用面でも大きな毀損(きそん)は避けられない。したがって、金融機関と他業態の企業が両者の企業文化を相互理解し、セキュリティ体制整備などを最適な形に調整することが求められる。その場合、中立な立場のコンサルティングファームなどが調整役として介在することで円滑に進むとみている。

    執筆者紹介

    市村 仁(いちむら ひとし)

    1976年東京生まれ。一橋大学商学部商学科卒業。IDCジャパン株式会社 Vertical & Cross Technologies Researchグループ シニアリサーチマネージャー。
    国内金融機関、および中堅中小企業を中心としたユーザー企業のIT投資動向の調査を担当。年間情報提供サービス「Japan Enterprises and SMB IT Spending Trends」における国内IT市場予測、産業分野別、従業員規模別/年商規模別、地域別、チャネル/地域ベンダー動向などの調査、執筆を担当する他、年1回発行するスペシャルレポート「国内金融IT市場動向調査」の執筆も担当する。その他にカスタム調査として、国内金融業界のIT支出/ビジネス動向に関する調査、講演で数多くの実績を持つ。

    執筆者紹介

    市村 仁

    IDCジャパン株式会社
    Vertical & Cross Technologies Researchグループ シニアリサーチマネージャー

    機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。

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