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株式会社日立総合計画研究所

社長コラム

社長 嶋田惠一のコラム

[バックナンバー]白井社長コラム 第4回:世界のホテル伝説

世界には、そのサービスをめぐり伝説をもって語られるホテルがあります。必ずしも高級ホテルというわけではなく、長い歴史と伝統の中で宿泊客に驚きと感動を与えてきたホテルです。伝説とは例えば以下のようなものです。

欧州のあるホテルでは、初めての宿泊であってもロビーに到着すると、「○○様、ようこそ当ホテルへお出でくださいました」、と名前で呼ばれて歓迎を受ける。タイのあるホテルでは、宿泊客が、部屋でシャワーを浴びた直後にわずかな時間だけ部屋を離れて戻ってきてみると、既に浴室はきれいに掃除されバスタオルも新しいものに入れ替えられている。シンガポールのあるホテルのレストランで食事中の女性が、冷房が多少効きすぎかな、と感じた次の瞬間にはスタッフがシルクのショールを持ってきてくれた。米国のあるホテルで結婚記念日に夫婦で宿泊したら、何も伝えていないのに、部屋には祝福の花束が届けられていた。東京のあるホテルでは、ホテルの従業員だけでなく廊下を歩く宿泊客もあたかも昔からの知り合いであるかのように互いにあいさつを交わす。
伝説が本当か、すべて確かめたわけではありませんが、これらのホテルは名前を聞けば、なるほどと多くの方は納得することと思います。

話は変わって、今からさかのぼること約10年前、情報技術の革新により「ユビキタス情報社会」が到来すると当時盛んに言われました。
それまでほとんど耳にすることのなかった「ユビキタス」という言葉でしたが、一時は流行語になるほどメディアでも取り上げられました。いかにも専門的で難解そうな「ユビキタス」のありがたさを、一般の人にもわかりやすく伝えるために、「いつでも、どこでも、誰でも、さまざまなサービスを利用できる社会」、という表現が使われました。
IT企業の側も、「ユビキタス」という難解な言葉の本来の意味を一からお客様や利用者に解説するよりも、「いつでも、どこでも、誰でも」は、はるかに短時間でそのメリットを理解いただけると感じていたと思います。
ところがある日、事の本質はそう単純ではないことを考えさせられる出来事に遭遇します。ある新聞社主催のユビキタス情報社会に関するセミナーで講演を依頼され、30分ほどお話した後、会場との質疑応答の時間に入ると、最初に手を挙げたのは50代半ばくらいの頭から足元まで紳士然とされた方でした。
「私は30年以上、ホテルで仕事をしてまいりました。本日のお話は『いつでも、どこでも、誰でも、利用できるサービス』、ということでしたが、私がこれまで考えてきたサービスとは少し異なるような感じがいたしました。私は、お客様にとって最高のサービスとは、『今だけ、この場所でだけ、あなたのためだけに、ご提供するサービス』、と感じていただけるものだと信じております。」
この方は、都内のある著名なホテルで長年コンシェルジェをされている方でした。セミナー終了後、30分ほど、この方のサービスに関するお考えを伺うことができました。その際のお話をきっかけに、その後の出張や海外駐在などを通じて、世界の「ホテル伝説」に関心を持ちました。
冒頭で紹介したサービス伝説にもマニュアルや仕掛けがあるのでしょう。訓練されたスタッフによって、確立されたシステムとしてサービスが提供され、宿泊客には感動を与え、それがホテルのステータスの基盤となっているものと推察されます。

情報社会は、今やユビキタスの時代を超えて、ビッグデータの活用という新たなステージを迎えています。膨大なデータの解析によって「今だけ、ここだけ、あなただけのためのサービス」を提供できる基盤は整いつつあります。一方で、ホテルのサービスとの比較で考えるならば、超えなければならない課題も残されています。
例えば、たとえプライバシー保護がきちんと担保されていたとしても、「今だけ、ここだけ、あなただけのためのサービス」に、何となく薄気味悪さを感じる人はいまだ多いという現実があります。また、驚きを超えて感動を与えるような次元のサービスまで、果たしてITを基盤に提供可能なのか、言わばITがヒューマンの領域にどれだけ迫ることができるのか、に関しても今後の課題かもしれません。

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