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株式会社日立総合計画研究所

社長コラム

取締役社長 白井均のコラム

第12回:「AI × IoT」の社会科学的考察

 AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)といった新たな技術革新が社会を大きく変えるのではないかと注目を集めています。
 AI の研究は既に50 年以上の歴史があり、過去にも注目されたことがあります。今回は3 度目のAI ブームと言われていますが、最新鋭のAI は、音声や画像も含め、膨大な情報を認識し、自ら学習し、自律的に進化する機能が注目されています。
 IoT とは、あらゆるモノがインターネットにつながることですが、その際インターネットにつながるモノ、すなわちさまざまな製品も自ら情報を収集、解析し、ネットワークを通じて相互にやり取りできるようになります。では、AI とIoT によってわれわれの社会はどう変わっていくのか、ここでは社会科学的な視座でその意義を考えてみましょう。
 われわれが日々活動する経済社会には、依然としてさまざまな無理、無駄、ミスマッチが残されており、不便、非効率、不公平を感じることが多々あります。最大の理由は、経済活動を支える組織、企業、産業の間にさまざまな障壁が残されており、必ずしも合理的、効率的に「つながっていない」ためです。例えば、われわれが生活する都市や街を考えても、交通は鉄道、地下鉄、バス、個人の自動車などさまざまな手段によって構成されています。これらを最適に「つなぐ」仕組みがあれば、利便性は飛躍的に向上します。健康管理も医師、病院、保険会社、社会保障を担う公的機関の間が有機的につながれば、予防から治療までより効果的、効率的なケアが可能になります。
 AI、IoT は組織、企業、産業の壁を越えて経済社会に新たな「つながり」を形成します。IoT によりリアルタイムで情報を「収集」し、組織、企業、産業の壁を越えて「共有」された情報をAI によって「解析」「活用」することができれば、無理、無駄、ミスマッチを限りなくゼロに近づけ、最も合理的、効率的に「つながる」ことが可能となります。こうした取り組みを重ねることにより、社会システム全体の生産性も飛躍的に高まります。
 日々の経済活動は、個人や企業などの経済主体が相互に連携、協力して目的達成のために活動することによって成り立っています。その際、各経済主体は目的達成のために最も適した信頼できる相手を見つけ出し、適切な対価で成果を上げることを相互に合意する必要があります。これら一連の活動にはそのために費やした時間、労力に応じてコストが発生します。これはトランザクションコストと呼ばれます。いわば「つながる」ことに要するコストです。
 トランザクションコストは、①アクセスコスト(最も適切な取引相手を探し、相手と接点を持つために必要なコスト)、②インタラクションコスト(モノ、サービスを取引する相手が信頼できるかの確認、取引に合意するための交渉・調整などにかかるコスト)、③ディストリビューションコスト(モノ、サービスを相手に届けるために要するコスト)によって構成されます。トランザクションコストは、一般に取引コストと訳されますが、企業間の契約の際に発生するコストだけを意味するものではありません。同じ企業の中でも、A 部門とB 部門が連携してプロジェクトを進めるといった場合も、何らかの時間や労力がコストとして発生します。AI、IoT、ビッグデータなどの技術革新は、情報の収集、共有、分析にかかる手間を劇的に引き下げるため、トランザクションコストも大きく低下させます。
 トランザクションコストの低下は、既存の産業の枠組みも越えた産業の融合、再編をもたらし、やがて経済社会全体の効率化、最適化に向かいます。従来は企業や産業が異なれば、情報やデータは共有、活用されなかったため、どこかで必ず無駄、ミスマッチ、非効率が発生しましたが、今後は、複数の産業が融合、再編され、新たなサービスが提供されていきます。
 サービスの供給者が限られ、寡占状態にある社会システムは数多く存在します。その場合、供給者が圧倒的に多くの情報を保有するのに対し、利用者に与えられる情報や選択肢は限られます。利用者にも情報が共有化されるようになれば、供給者側は、利用者のニーズに対応したサービスを設計するようになり、サービスを利用する企業や個人は、より効率的で価値あるサービスを選択することができます。
 時間や労力などトランザクションコストの削減が進めば、サービスの利用者は①必要な時に、②最適なサービスを利用し、③利用したサービスの量と価値に応じて支払うことが一般化していくでしょう。こうした流れが進めば、企業や個人はやがて自らモノを所有しなくても、使いたい時にサービスを購入すればよい、と考えるようになるでしょう。
 「つながる」ことによって効率性、利便性が向上する分野は数多く残されていますが、「つながる」ためには、制度や仕組みの変革も不可欠です。制度や仕組みは、現状の産業構造、企業間の関係に基づいて作られているため、新たな環境に対応した制度改革、規制緩和を官民合意のもとで進めることが必要です。
 日立総研では、社会システムにおける無理、無駄、ミスマッチの極小化への挑戦によって、サービスの水準と効率を高める「Innovation to ZEROs 革命」を提唱しています。少子高齢化が進展する結果、労働力人口の減少と貯蓄率低下が避けられない今後の日本において、いかに経済活力を維持するかは最も重要な政策課題です。エネルギー、環境にも配慮し、高いサービス価値を提供する新たな社会システムを日本から世界に展開することができれば、経済活性化につながるだけでなく、新たな国際貢献にもつながるでしょう。