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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

Our Iceberg Is Melting :評者:日立総合計画研究所 宮崎真悟

2007年1月11日

危機に直面して発揮されるチーム力

本書は企業・組織論で著名なハーバード・ビジネススクール、ジョン・コッター教授の最新作である。コッター教授の唱える企業改革ビジョンは世界的に有名であり、『企業変革力(日経BP社)』や『ジョン・コッターの企業変革ノート(日経BP社)』などが日本でもビジネス書のベストセラーにランクされている。なお、本書の和訳は現時点では出版されていない。

本書のストーリーははるか昔の南極で展開する。好奇心旺盛で観察力の鋭いペンギンのフレッドは、ある日、自分達の氷山に異変が起きていることを発見する。夏の異常気象で氷山が溶け、氷山の内部では無数の空洞が発生している。現在の空洞は水で満たされているが、冬に入って空洞内の水が凍ると閉じ込められた水は徐々に体積を増加し、その力で氷山がバラバラに崩れる可能性がある。冬まであと2カ月だが、氷山が崩壊すれば間違いなくペンギン一族の終わりである。さて、この危機をみんなにどう伝えるべきか。果たして、自分の説明をみんなは信じてくれるのだろうか。フレッドは氷山が直面する危機を全てのペンギンに説く。しかし、これまで危機に直面したことのないペンギンは説明に耳を貸そうともしない。それでも、危機感に駆られたフレッドは熱心に説明を続ける。幸いにもフレッドは自分の考えを信じる数匹の仲間を見つける。この仲間は氷山に迫る危機を充分に理解し、チームとして最後まで懸命に解決策を模索する。さまざまな対策が講じられたが、冬が到来するまでの時間は限られているため、全ペンギンを他の氷山に移住させる以外に方法はない。フレッドとそのチームは新天地を発見する探索団を結成し、全ペンギンの移住を試みる。しかし、危機が確実に生じるかが不透明な段階では、全ペンギンは簡単に行動しようとはしない。しまいには移住に対する反対者も多く出てくる始末である。新天地を探索するペンギンの食料は誰が負担するのか、移動の途中でアザラシに襲われた場合はどうするのか、本当は氷山は崩壊しないのではないのか。まさに人間社会と同じ構図である。しかし、氷山が崩壊すれば一族の最後であることは間違いない。さて、その後氷山とペンギン一族の運命はどのようになったのか。詳しいストーリーは是非とも原文をご覧いただきたい。

本書はスペンサー・ジョンソン著『チーズはどこへ消えた?(扶桑社)』と類似する部分が多い。両書ともに動物を用いて人間の行動を巧みに模写する点では共通している。しかし、『チーズ』ではネズミ1匹の行動力を主題としている一方で、本書は危機に直面したペンギンのチーム力を主題としている。本当の危機に対応するためにペンギンならぬ人間が行うべき行動は何か。これが本書の主眼である。

本書では危機を回避し、組織を変革するための行動として以下の8ステップを提唱している。

  1. 迫り来る危機を察知し、周囲に認識させること。
  2. 危機に対応する有能なチームを結成すること。
  3. 危機回避を示すビジョンや戦略を策定すること。
  4. 策定したビジョンや戦略を周囲に理解させること。
  5. 外部の関係者が危機回避に向けて動き出せるような体制を構築すること。
  6. 短期的な成果を上げること。
  7. 最後まで成果を追求し続けること。
  8. 従来の慣習を打破し、新しいアプローチを根付かせること。

これらの行動は危機に対して迅速かつ適切に対応するためには必要不可欠である。近年は自然災害、テロ、地政学的要因などへのリスク対策が急務とされているが、これらはスケールが大きいこともあって実際には具体的な対策が取られることが少ない。また、企業経営におけるリスク管理は当然ながら重要であるが、迫り来る危機を察知しながらも実際には明確な対策を立てていない企業が多い。さらに、危機管理は国家や企業のみならず、我々の日常生活においても重要である。病気や事故、家庭内不和、子育て、ご近所付き合いなど挙げるとキリがないが、我々は日常生活で何らかの危機に直面していることを常に認識しながらも、実際には何の対策も施していないことが多い。本書は我々を取り巻くさまざまな危機への具体的な対策の必要性、そしてその際に発揮されるチーム力の重要性を改めて思い起こさせる良書である。

本書は平易な英語で書かれていることに加え、文量も少ないので気軽に読むことができる。数ページごとに描かれている色鮮やかな挿絵を見ても楽しい。通勤途中あるいは週末の気分転換として、子供からお年寄りまで楽しめるオススメの一冊である。

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