研究活動などを通じ構築したネットワークを基に、各分野のリーダーや専門家の方々と対談
世界銀行グループが目標としている「貧困の撲滅」と「繁栄の共有」の実現に向け、アジア、アフリカなど開発途上国への民間投資が注目を集めています。一方、企業や金融機関は投資で直面する政治的リスクは慎重にならざるをえません。今回は、開発途上国への投資促進を目的に、新興国の政治的リスクから生じる損失に保証を提供する世界銀行グループの多数国間投資保証機関(MIGA/本部:ワシントンD.C.)の本田桂子長官にお話を伺いました。
多数国間投資保証機関(MIGA)長官CEO
ベイン・アンド・カンパニー、リーマンブラザーズ、マッキンゼー・アンド・カンパニーのディレクター(シニアパートナー)をへて現職。
また、一橋大学大学院客員助教授(国際企業戦略研究科金融戦略コース)、中央大学会計大学院非常勤講師、早稲田大学客員教授、内閣府 規制改革・民間開放推進会議メンバーをつとめた。
著書として、『マッキンゼー合従連衡戦略』(1998年、東洋経済新報社)、『マッキンゼー 事業再生―ターンアラウンドで企業価値を高める』(2004年、ダイヤモンド社)(いずれも共著)。
訳書として『企業価値経営』(マッキンゼー・アンド・カンパニーほか著、2012年、ダイヤモンド社)
白井:多数国間投資保証機関(MIGA:Multilateral Investment Guarantee Agency)は世界銀行グループ(以下、世銀グループ)の一員で、開発途上国への対外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)促進のため、戦争・テロ・内乱や国有化・収用、投資先政府の契約不履行などの政治的リスクに関して投資家や金融機関に保証を提供する機関と伺っています。最初に、MIGA が設立された背景、歴史的経緯をご紹介いただけますか。
本田:現在は、民間投資が政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)をかなり上回っている状態ですが、今から20~30年前、MIGAが設立されたころはまだODAが一般的な時代でした。そのような中で、もっと民間投資を活用できないものか、という意識が高まりました。しかし、民間サイドにしてみると、やはりいろいろなリスクがある。そこで、政治的リスクを一部保証し、民間投資を促進する国際機関、MIGAが設立されました。当初は海外投資家によるエクイティ(equity = 株式)投資(新規投資の他に既存プロジェクトの拡張、近代化、改善、強化に関連した投資なども含む)に対し、政治リスクを保証しておりました。現在は、政治リスク保険を銀行をはじめとする有利子負債の、だし手に提供するとともに、開発効果の望めるプロジェクト遂行にあたり、政府等に対して、民間金融機関が貸し出しを行う際に、債務不履行の保証も提供しています。2 0 0 8 年の金融危機以降、銀行の資本規制が厳しくなっている影響もありますので、規制への対応を含めてお手伝いし、業容を拡大しているところです。
白井:MIGAは基本的にクロスボーダー型投資を保証の対象とされています。世界を見ますと、環太平洋戦略的経済連携協定(TTP:Trans-Pacific Partnership)の交渉が合意に至り、アジア、アフリカなど、世界各地で自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)、関税同盟などの地域連携が進んでいます。MIGAが設立された当初に比べ、クロスボーダー型インフラ投資にも新たな動きが見られるのでしょうか。
本田:MIGAが設立された27年前と現在との比較はしていないのですが、等比級数的にクロスボーダー型投資が伸びたのは間違いないと思います。それはここ10年くらいの状況を見ても明らかです。しかしながら、現在の発展途上国向け投資を見ると、約7割が投資適格であるトリプルB以上の国向けで、こうした国々への民間のクロスボーダー型投資は増加しているのですが、それに満たない格付けの国への投資は、あまり多くありません。
白井:日立のように新興国でインフラビジネスを展開している民間企業も、さまざまな問題に直面します。一つの国でも大変なところを、クロスボーダー型投資ということになれば各国間の利害調整など、さらに難しい課題に直面すると思います。そういった諸問題への対応も含め、MIGAの果たす役割について、具体的な事例を交えてご紹介いただけますか。
本田:先ほども申し上げたように、MIGAは二つの事業分野に取り組んでいます。一つは「政治リスク保険」です。例えば、配当や融資の返済金などを他の通貨に交換できなくなる「通貨の兌換停止」、送金できなくなる「送金制限」、所有権や支配権などが国有化されてしまう「収用」、当該政府が投資家との契約に違反する「契約不履行」、債務または保証の支払いを怠る「政府の債務不履行」、戦争や内乱などにより資産が破壊されたり事業が中断したりする「戦争・テロ・内乱」のリスクをカバーしています。もう一つは、最近新たに始めた「信用保証事業」です。国や一部の地方公共団体、政府関連企業のローンの信用保証もしています。
本田:「政治リスク保険」では、日立建機さんのザンビアでの事業に保証を提供しています。今年8月には現地を訪れて事業の内容を拝見しました。ザンビアには大きな銅山があり、そこに建設機械を納入しているということでしたが、納入後、使用しているうちにいろいろと補修箇所が出てきます。その際、今までは南アフリカまで運び、そこでメンテナンスを行ったうえで現地に戻していたそうです。しかしかなりの距離があるため、ザンビア国内でメンテナンスができるように工場を作られ非常に好調のようでした。これから業容拡大される予定だそうです。日立建機さんが心配されたのは、紛争、国有化などのリスクでした。その点をMIGAが全面的にバックアップし、その旨を、政府、財務省、中央銀行総裁にもお伝えして進めています。
白井:MIGA が保証の対象とする国は、いろいろな資料を拝見しますと、財政的・経済的に有望であり、環境面にも配慮し、投資受け入れ国の労働基準と開発目的に適合することが必要とあります。先進国から見れば当たり前のことですが、開発途上国、新興国にとってはなかなかハードルが高いようにも見えます。実際にはどのような審査、プロセスを経て、保証の最終的な判断をされるのでしょうか。
本田:プロセスとしては、まず申込書をいただき、開発効果を実現できるかをチェックした後に現地へスタッフを送り、環境面、社会面、開発効果などについてデューデリジェンス※を行います。事業としてある程度の収益を上げられなければ民間投資家が引き揚げてしまいますので、その点も調査します。案件は全て取締役会を通さなければなりませんので、その判断を待ってからスタートします。モニタリングと呼んでいますが、案件の推進途中に現地を訪問して確認も行います。環境面はどうなのか、社会面はどうなのかというような内容をヒアリングし、何か問題を抱えているときにはMIGAの専門家が解決策を探っていきます。ザンビア、コートジボワール、ミャンマーなど各地で、似たような問題が起きることが多いので、MIGAでは「こういうとき、他社はこのような調整をされていました」といった情報をお伝えし、対応していただきます。プロセスを踏んでいく際、全く問題のない案件はありません。問題が起きるたび一つひとつ対応していきます。MIGAから「これについては、こういう措置を取られてはいかがですか」というように提案をしながら、うまく調整していただくことで案件が成立します。MIGAには大企業のお客さまも多いので、社会的責任をきちんと果たしていただくための支援にも取り組んでいます。
白井:世界銀行傘下の機関ということで、世界銀行(以下、世銀)との役割分担、連携も重要だと思います。実際には、日々どのように協力しながら進められているのでしょうか。
本田:世界銀行総裁はMIGAの総裁でもありますが、日常業務はMIGAの中で管理しています。世銀との連携は、合同役員会が週に1回から2週間に1回のペースで行われます。私もメンバーなので、今朝も7時半から会議に出席してきました。何か問題があれば、この合同役員会で情報を共有することがまず一つです。MIGAは各国に事務所を持っているわけではありませんが、世銀はほぼすべての国に事務所がありますので、カントリーディレクターと呼ばれる各国の代表者がうまく間に入って業務を推進しています。先ほどお話したザンビアにはドイツ人女性のカントリーマネージャーがいます。彼女は日立建機さんの案件内容をしっかり把握し、何か問題が起きたときには政府と話をするという万全の支援体制で取り組んでいます。
白井:世界の成長エンジンといわれるアジア地域に目を向けて少しお話を伺いたいと思います。近年、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of South-East Asian Nations)による経済統合、東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)、あるいはTPPなど、さまざまな動きが進んでいます。例えばASEANの経済統合が進めば、カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスといったメコン地域諸国をつなぐインフラ整備など、クロスボーダー型投資においても新しい動きが出てくるのではないでしょうか。MIGAが特にアジア地域で力を入れておられる分野や取り組みがありましたら、ご紹介ください。
本田:おっしゃるように近年のアジアはまさしく世界経済の成長をけん引していますし、開発の世界では優等生的な位置を占めていると思います。だからといって、全く改善の余地がないかというとそうではないと思います。MIGA、世銀グループの目標は二つあります。一つは「貧困の撲滅」、もう一つは「繁栄の共有」です。私どもは1日1ドル90セント以下で生活している人々を極端な貧困状態と定義しています。アジアもそうした人々がかなりいる状況ですので、その支援に力を入れています。さらに重要なのは、経済の二極化が進んで貧富の差が激しい国も多く、そのギャップを埋めていくことだと思います。近隣諸国をつなぐインフラ整備の話も出ましたが、地域的な観点からいえば、一つの国ではなく複数の国で、例えば発電余力のある国から近隣国に送電するなどの施策にも取り組んでいきたいと思います。これこそ多国間取引のできる世銀グループならではのだいご味だと感じます。一つひとつの国に向けた投資においても支援が足りない国がたくさんありますので、そのサポートにも力を入れていかなければなりません。このような取り組みには、やはり世銀グループ全体の連携が重要になります。世銀と、世銀グループのIFC、MIGAが連携し、国ごとの現状把握、事業計画のすり合わせを行い、世銀グループ全体で目標に取り組んでいます。
白井:今お話されたほかにも、MIGAが力を入れていきたい分野や取り組みがありましたらお聞かせください。
本田:MIGAの保証を受けたプロジェクトは、雇用創出をはじめ、給水、電気供給などのインフラ整備、金融システムの強化、税収確保、技術やノウハウの移転、環境に配慮した資源活用に貢献しています。制度や政策実行能力に弱さのある低所得国、紛争によって厳しい状態にある貧困国を世銀ではFragile and Conflict-Affected Countries Groupと定義しており、MIGAも支援していければと考えています。
白井:話題をアフリカに移したいと思います。本田さんとは以前、世界経済フォーラムでご一緒させていただきました。そのときにお話を伺って驚いたことがいくつかあります。アフリカではまだ内戦が続いているのかと思っていたのですが、ほとんどの国で内戦が終わりつつあり、それとともに各地域で連携の動きも出ています。一方で、いまだに貧しい国が多いのも事実です。そういう意味ではMIGAに期待される役割も大きいと思いますが、特に注力されていることは何でしょうか。
本田:サハラ以南アフリカへの支援は世銀グループにとって最優先課題であり、MIGAの保証はこの地域の開発に海外からの直接投資を誘引する重要な役割を担っています。MIGAの取り組みは二つあります。一つはインフラ整備です。これはアジアに比べて遅れています。サハラ以南アフリカの発電能力は、かなりの部分が南アフリカにあります。あれだけ大きな大陸ですから国もたくさんあるのですが、まだ発電容量が小さく、道路の整備も進んでいないので、力を入れていきたいと思います。もう一つは、プロジェクトの続行をサポートすることです。最近、資源価格の下落が大きいために、民間の投資家も新規投資は様子見の動きになり投資が停滞しています。アフリカは資源依存度が高い国が多いので、MIGAの後押しで何とかプロジェクトを続行できるように手を尽くしています。具体的には、資金調達コストを若干、圧縮する方向でプロジェクトを見直していただいて、続行が可能かどうか、いくつかの案件においてご相談しているところです。
白井:経済的に一番豊かな南アフリカでもまだ電気が不足している地域があります。隣国にはより貧しい国がたくさんあり、インバランスが生じています。内戦が終わったとはいえ、まだまだ大変な状況です。連携するにしても課題がたくさんありそうですが、新たなアプローチとしては何が考えられるでしょうか。
本田:やはり、民間投資家の層を拡大したいという気持ちは強いです。比較的所得の高い国にはMIGAの信用保証を提供し、欧州だけではなく今までアフリカに投資をしてこなかった、米国や日本を含むアジアの大手銀行からも資金を呼び込んでいくことを考えています。また、これまで以上に踏み込んだ形で保証を提供するケースもあります。現在、市場では官民が連携して公共サービスを提供するPPP (Public-Private Partnership)が拡大しています。例えば発電事業において、PPPを実施する際は、民間投資家が電力発電事業を行い、各国の電力会社に購入してもらい送配電するケースが多く、電力購買契約を結びます。契約がきちんと執行されるように、MIGAは契約履行保証を提供しているのですが、投資条件設定が難しい国にも踏み込んで実施しています。例えば、コートジボワールにアフリカ開発銀行の本部があるのですが、内戦により一時的にチュニジアに移転していました。内戦終結後すぐ、同行がコートジボワールに戻る前にMIGAから保証を提供しています。こういった支援の枠を広げる取り組みも積極的に進めたいと思っているところです。
白井:今年はアジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)が中国主導のもとに設立され、日本でも大変注目を集めています。当初、日本はAIIB設立をクールに見ていたのですが、出資国は50カ国以上にのぼり、予想以上にたくさんの国が出資を決めました。マスコミの影響もあるのかもしれませんが、戦後の世銀、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)体制への挑戦という見方もあります。AIIBの設立を中心とした最近の中国の動向について、世銀、MIGAではどのように捉えていらっしゃいますか。
本田:世界的な観点から捉えると、資金の需要に対してまだ供給が不足している状態ですので、AIIBともパートナーとして協力していきたいと考えています。昨年、北京に行ったときにAIIBと打ち合わせもしてきました。AIIBとしてはMIGAのように保証を提供する機能をすぐにつくる予定はないようですので、機会があれば一緒に取り組んでいきたいということは話しています。
白井:日本のMIGAに対する出資比率は5.1%で、米国に次いで第2位です。開発途上国のインフラ整備や民間企業による投資促進の観点から、日本の果たすべき役割についてどのように考えていらっしゃいますか。また、本田さんは日本政府の立場ではなく国際機関で外から今の日本をご覧になっているわけですが、日頃感じていることをお聞かせください。
本田:現在、日本はMIGAの投資家国別ランキングで第6位です。昔は10位にも入っていなかったのですが、ここ2 年ぐらいで投資額が非常に増えている状態です。日本政府というよりも、日本の投資家に考えていただきたいのは、アフリカは「ビジネスとしても収益の出る機会は十分にある」ということです。政治的リスクなどから「ちょっとアフリカは……」と食わず嫌いにならず、ぜひお考えいただきたいと思います。お付き合いする投資家の中には「アフリカは初めて」という方も大勢いらっしゃるので、そういう方々の後押しをするために、さまざまな保証に関して詳細に分かりやすく情報公開しながら進めていくことが私どもの役割だと考えています。日本の国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)がインドネシアの水力発電に投資される際に、MIGAが保証を提供しました。 JBICが標準的融資を出す場合はインドネシア政府からの債務保証を必要とするのですが、昨今、どこの国もあまり保証を出したがらない傾向にあります。格付けに響く心配があるからです。そこで、JBICにはインドネシア政府からの保証の代わりに、先ほど紹介した MIGAの「契約履行保証」を活用することで納得していただき、インドネシア政府とも話をしてMIGAが保証を提供しました。この他、日本貿易保険(NEXI:Nippon Exportand Investment Insurance)と連携して、ある日本企業に共同保証(送金規制、収用、戦争・紛争による損失保証)を提供する話が現在進んでいます。最近は案件も大型化してきていますので、MIGAにしてもNEXIにしても、ある程度リスクを共有しながら進めていけば、さまざまな形で貢献できると思います。
白井:日本企業も世界各地でインフラビジネスに取り組んでいます。日立もインフラ分野に注力していますが、新興国のインフラビジネスを巡ってはドイツなどの先進国に加えて中国も勢いを増しており、世界のインフラ企業との競争が激しくなっています。インフラビジネスを拡大する日本企業に期待することがありましたらお聞かせください。
本田:日本の企業は、オールジャパンチームでの取り組みを好みますが、最近の傾向としては多国籍チームといいますか、複数の国で編成する動きが広がっています。例えば、先ほどお話したコートジボワールの案件は、フランスや韓国など3、4カ国でチームを編成してプロジェクトを遂行しています。それぞれの企業ごとに得意分野が違いますので、連携効果も高いわけです。ですから、日本企業も多国籍チームを組んで投資を考えていただければと思います。コートジボワールの案件を手掛けた韓国企業の担当者と話をしたことがあるのですが、フランス企業と一緒に働くことで学んだことも多く、従業員にも刺激になっているということでした。ぜひ、オールジャパンだけではなく多国籍チームでの取り組みも視野に入れていただければと思います。
白井:M I G Aの役割やインフラビジネスなどのお話をいろいろ伺ってきましたが、最後に本田さん自身について少しお話をうかがいたいと思います。本田さんはマッキンゼー・アンド・カンパニーのアジア部門で初の女性シニア・パートナーとして活躍された後に、MIGAの長官に就任されました。国際機関ではさまざまな国の人々と一緒に仕事をされているわけですが、日々心掛けておられることがありましたらご紹介ください。
本田:毎日、勉強です(笑)。コミュニケーションをとり分かりやすく伝えることはもちろんですが、いかにスタッフにやる気を持ってもらうかということが非常に大切だと思っています。“あうんの呼吸”では伝わりませんから。
白井:前職のマッキンゼー・アンド・カンパニーでも、当然ながら日本人以外の社員の方々とも一緒に仕事をされていたと思いますが、国際機関というとまた全く違う世界なのでしょうか?
本田:前職は先進国出身のメンバーが多く、なおかつ似たような大学、大学院の出身者が大勢いたので、日常会話は日本語ではありませんでしたが、わりと“あうんの呼吸”ができました。MIGAはもう少しダイバーシティが大きいので、それだけ難しいともいえますが、逆にそこがこの組織のだいご味でもあると思います。今以上に精進していきたいと思っています(笑)。
白井:本田さんはご自身のキャリアの中でいろいろなことを既に達成されてきたかと思いますが、これからMIGAで成し遂げたいこと、夢がありましたらお聞かせいただけますか。
本田:世銀グループに来て実感したのは、日本は第二次世界大戦後しばらく、投資を受ける側であったということです。新幹線は最初、世銀の融資で造られました。それが今やドナー国として、投資をするないしは援助する側になりました。世界の多くの国がそれに続くような、そんな支援をしていけたらと思います。日本が世銀から融資を受けていた時代のことを覚えておられる、特に官庁勤務の年次の高い方々と話をすると、「あのとき、日本は助けてもらったのだから、私たちも何かしなくてはいけない」と言っていただくことがあります。単なる融資だけでなく、何らかの付加価値をもたらし、それが人々の気持ちの中に残るのは本当にすばらしいと思います。10年後、ひょっとしたら20年後かもしれませんが、「あのとき、MIGAの保証があったから今がある。今度は私たちもMIGAのお手伝いをしたい」ということを、今投資している国の若い人たちに言っていただけるような仕事をしていきたいと、スタッフとは話をしています。
白井:世銀の融資で新幹線が造られたことは多くの日本人から忘れられていたのですが、2020年の東京オリンピック開催が決まり、前回の東京オリンピックの歴史を振り返る中で、新幹線の生まれた経緯がメディアでも紹介されるようになりました。そういえばあのころの日本は世銀のバックアップがあったなと……(笑)。
本田:そうですよね。あまり言うと年が分かってしまいますが(笑)。
白井:本日はお忙しいところをありがとうございました。
本田:こちらこそありがとうございました。
MIGA長官をつとめておられる本田さんは、日本の大学や大学院で教鞭を執ったご経験もお持ちです。今回は、MIGAが新興国・地域のリスク保証の点から民間投資を支援する仕組み、アジアやアフリカなどの新興国・地域が抱える開発上の課題、投資促進において日本が果たすべき役割などについて分かりやすくお話ししていただきました。国・地域の枠を越えたクロスボーダー型投資が増える中、貧困の撲滅や繁栄の共有のためには、世界銀行グループ内はもちろんのこと、他の国際機関との連携も求められるというお話を伺い、重要課題に対してパートナーとともに取り組むことの意義を改めて考えさせられました。また、日本企業に対しても、国・地域の枠を越えた多国籍チームを形成して案件に取り組むことで、それぞれの得意分野をより生かすことができるというお話は大変示唆に富むものでした。