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株式会社日立総合計画研究所

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バッテリー動的データの連携

研究第一部 政策・環境グループ
氏名:小林玲緒

1.バッテリー動的データの意義と求められる背景

バッテリー動的データとは、EV(電気自動車)用バッテリーの製造者、型式、原材料など、ある時点の製造・出荷状況を記録した静的データと異なり、バッテリーの利用・走行時の性能測定など、状態変化に関わる情報を含むデータを指します。具体的には、動的データは、(1)バッテリーの健全性1と性能(容量および出力電力の状況と低下率など)に関するデータと、(2)電圧、電流、温度などの使用状況に関するデータを含みます。これらの動的データは、EVにおいてバッテリーの制御と状態測定の機能を持つ、車載のバッテリーマネジメントシステムにより収集されます。
現在、EVには主にリチウムイオン二次電池が搭載されています。リチウムイオン二次電池のサプライチェーンでは、原材料の調達段階では、資源が特定地域に偏在し、かつ大量に使用するコバルト、ニッケル、リチウムの供給途絶リスクや、鉱物の採掘・加工プロセスにおける人権侵害・環境汚染リスクが存在し、製造段階ではバッテリー製造プロセスにおける大量のエネルギー消費による多大な温室効果ガス排出の問題が存在します。今後バッテリー需要の急増が見込まれる中で、生産された製品の大量消費・大量廃棄への一方向型ではなく、資源循環型の経済モデルに移行する必要があります。
循環経済では、利用者が製品を可能な限り長く利用するとともに、事業者が利用を終えた製品を再生して、新しい利用者が使う、という製品ライフサイクルを構築することが重要です。例えば、利用段階ではバッテリーをできるだけ「長寿命化」して利用期間を長くすることにより、買い替え製品の生産を抑制し、さらにバッテリー生産に使用される鉱物資源やエネルギーを削減することが重要です。また利用終了段階では、できるだけEV全体の再利用や、バッテリー単体の再利用、転用、リサイクルを促進することにより、廃棄物を発生させない「再生促進」が求められます。このような循環経済の実現のために、製品に関する静的・動的データの重要性が高まっています。

1
健全性はSOH(State of Health)と呼ばれ、バッテリーの利用開始時の満充電容量に対する測定時の満充電容量の比率を%で表したものです。100%から容量低下率を引くことでも算出できます。

2.再生促進における動的データの連携の必要性と仕組み

バッテリーの循環経済の実現に向けた長寿命化と再生促進の取り組みのうち、長寿命化では、健全性のデータに基づき劣化を引き起こす過度な充放電を回避したり、使用状況のデータに基づき異常を検知・予知することで故障を抑制したりするなど、利用者自身が動的データを活用した運用により製品を長く使うことが想定されます。ここでは、自動車機器メーカーや計測機器メーカーが提供する、車載のバッテリーマネジメントシステムから得られる電圧・電流などに基づく寿命予測などのデータ分析サービスの利用が考えられます2
一方で再生促進を社会で広く実現するためには、利用者だけでなくバッテリー再生事業者など、利用終了後のバッテリーの流通過程における関係者が動的データを連携・活用して取り組みの効率性を高めることが重要になります。以下、再生用途選別における健全性データの活用を例に、期待される動的データ連携の仕組みを説明します。
現在、バッテリー再生促進の取り組みでは、利用者からディーラー・中古車事業者を経由して使用済みバッテリーを引き受けた再生事業者が、診断を行い健全性データを取得しています。そして取得した各バッテリーの健全性データを基に、車載への再利用、産業など別用途への転用、二次材料へのリサイクルといった再生用途の選別を行います。しかし、個々のバッテリーの健全性を診断するためには、専用の検査装置やバッテリー1個当たり2〜4時間の検査時間を要します。これに対して、バッテリーの利用終了時の健全性データを利用者から再生事業者に連携できれば、従来実施していた全ての診断を改めて行う必要がなく各バッテリーの再生用途を選別することが可能となります。
具体的なデータ連携方法として、関係者によるデータの登録・閲覧がインターネットを通じて直接可能なデータ連携基盤の構築が挙げられます。例として、自動車メーカーのコネクテッドカーシステムを経由して健全性データをネットワークを介して安全にデータ連携基盤に登録することで、バッテリー再生事業者が直接そのデータを閲覧することが可能になります。

2
バッテリーの動的データは、容量や電圧といったバッテリーから収集される数値のままでは活用が難しいため、予測寿命などの数値として活用できるようにデータを収集、分析するサービスが、自動車機器メーカーや計測機器メーカーなどの各社から提供されています。例えば、動的データをバッテリーマネジメントシステムからコネクテッドカーサービス用の通信ハードウエアを介して無線でクラウドサーバーに送信し、分析結果を利用者に対して報告するサービスがあります。

3.動的データ連携基盤構築の動向

今後期待される動的データ連携の取り組みとして、EUは「バッテリーパスポート」と呼ばれるデータ連携基盤の導入を2026年に向けて進めています。バッテリーパスポートは、2020年に欧州委員会が提案した「欧州バッテリー規則」に記載されており、自動車・バッテリーメーカーなどの関係事業者がバッテリーパスポートの電子システム上に動的データを記録、アクセス可能とするよう定めています。その中で動的データに関しては、バッテリーの性能と耐久性に関するデータが対象とされています。
また、2018年に米国で設立され、全世界で100以上の企業や組織が参加する非営利アライアンスであるMOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)は、自動車業界でのバッテリーなどの部品に関わるサプライチェーンにおけるブロックチェーン技術開発の推進と標準規格策定を進めており、EUの欧州バッテリー規則にも準拠したバッテリーの標準技術仕様を作成しています。動的データに関しては、2022年4月に「バッテリーSOH(健全性)」の標準的な測定・計算方法を発表しました。今後、欧州のバッテリーパスポートや各事業者のデータ分析サービスなどで、この仕様に沿ってデータが取り扱われることが見込まれます。
日本では、2021年に電池サプライチェーン協議会(BASC)が設立され、自動車メーカーのトヨタをはじめ100社以上の企業が参加しています。2022年5月、BASCは日本版データ連携基盤の構築をめざした「電池サプライチェーンを支えるデジタルスキーム」を提案しました。また、2022年8月に経済産業省は「蓄電池産業戦略」を公表しました。2024年のデータ連携基盤の実装をめざし、BASCの提案や欧州の規制動向も踏まえてシステム要件を検討することとしています。
現時点でデータの連携基盤の社会実装計画が具体化している地域はEUに限られることから、MOBIやBASCのような民間主導のイニシアチブにより、早期に多くの地域で取り組みを開始することが重要となります。

4.モビリティサービスでの先行拡大が期待される動的データ連携

近年、「as a Service」と呼ばれるサービス型事業が自動車業界でも拡大しており、EVやバッテリーを自社所有してサービスの形で顧客に提供するモビリティサービス事業者が出てきています。例えば、EVを複数の顧客が共用できるサービスを提供するEVカーシェアリング事業者や、バッテリー交換型EVを所有する顧客に対してバッテリーの定額利用・交換サービスを提供するバッテリー交換事業者が登場しています。これらのサービス型事業では、売り切り型事業と比較してバッテリー動的データの連携が先行して進む可能性があります。
その理由として第一に、従来の自動車の売り切り型事業と異なり、保有資産であるバッテリーの長寿命化や再生促進は、自社の資産効率の向上につながるということが挙げられます。このため、モビリティサービス事業者に対する動的データの分析や連携に関するインセンティブが大きく、取り組みが進みやすいと考えられます。
第二に、既にモビリティサービス事業でEVの動的データの活用が拡大している点が挙げられます。具体的には、モビリティサービス事業では、利用者の事前予約、EVの所在確認・稼働管理などで、動的データを活用する環境が構築されています。このような情報収集、分析のシステムを活用することで、バッテリーの一次データを基に、健全性データを算出することが可能です。また、モビリティサービス事業者が所有する車種は一般に限定されることから、データ連携・分析に関わる運営コストも抑制することができると考えます。
今後、モビリティサービス事業の拡大やデータ連携基盤の構築によるバッテリー動的データ連携の進展が、バッテリーの循環経済を効率化することが期待されます。

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