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株式会社日立総合計画研究所

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「旬」なキーワードについての研究員解説

ブルー・ゴールド

所属部署:政策経済グループ
氏名:宮崎 真悟

「ブルー・ゴールド」とは

「ブルー・ゴールド」とは1999年にNational Post紙が水資源に対して用いた呼称で、20世紀は「ブラック・ゴールド」、すなわち石油が国の豊かさを決定する貴重な商品とされていたが、21世紀は「ブルー・ゴールド」として水資源が存在価値を増すとの意味が込められている。2003年に出版されたカナダ人環境活動家のM・バーローとT・クラークによる著作『ブルー・ゴールド』でその呼称が広く知られるようになった。

ちょっとした統計

地球上の全ての水は約14億km?とされている。このうち大半は海水、雲、極地の氷山であるため、この部分を除くと人類として利用可能な水量は全体の0.5%、すなわち約700万km?に過ぎない。これを分かりやすく言い換えると日本海(海水体積171万km?)の約4杯分にあたる。2000年の統計では、人類が1人当たり利用している水量は年間約740m?、つまり25mプールの約3杯分である。ただし、この中には農業用水70%と工業用水20%が含まれているため、生活用水として残る部分は残り10%である74m?、つまり平均的な家庭用の浴槽(0.24m?)の約300杯が利用されていることになる。この数字に違和感を覚えないだろうか。我々はほぼ毎日のように風呂に入り、シャワーを浴び、必要に応じて洗濯をし、洗車をし、庭の草木に水を与えるなど、さまざまな形で水を利用している。日常における水の利用量を考えると、明らかにこの数字は少ない。
我々日本人は他国と比べて水を大量に利用している。日本の1人当たり生活水年間使用量は137m?(2000年)で、世界平均の約2倍である(ちなみに米国は215m?で世界平均の約3倍である)。一方で、世界人口の約70%は慢性的な水不足に苦しんでいる。特に深刻な地域はアフリカ、中東、南アジアで、1人当たり生活水の年間使用量が極度に少ない国は、アフリカではソマリアの2m?、中東ではイエメンの15m?、南アジアではバングラデシュの18m?などである。

脅かされる水資源

日本は水資源が比較的潤沢であることから水問題に対する関心が乏しいが、世界ではこのように慢性的な水不足が懸念されている。そして、この問題は今後さらに深刻化しつつある。水需要は過去20年間で2倍に拡大しているが、需要拡大の要因の一つは人口である。地球の人口は毎年約8,000万人増加しており、2025年には80億人へ拡大するとされている。また、生活様式の変化に伴う水利用も需要拡大の大きな要因である。例えば、牛肉100g(ハンバーグ1個分)を生産するのに必要な水の量(仮想水)は2m?、つまり家庭用の浴槽(0.24m?)の約8杯分が利用される。さらに、昨今の新興国諸国における工業化を背景とした水質汚染も利用可能な水量を減少させる要因である。新興諸国では農薬、化学肥料、化学薬品、医療廃棄物、放射性廃棄物の90%が処理されないまま放出される場合もあり、利用可能な淡水供給を減少させている。また、最近話題の地球温暖化も貴重な水資源を脅かす要因であり、温暖化に伴う気温上昇により湖や川などの地表水が急速なペースで蒸発している。
人口の75%が地下水に淡水を依存しているサウジアラビアでは、50年以内に地下水が完全に枯渇するという問題に直面し始めている。お隣の中国では、全国の至る個所で井戸が枯れ、川や湖も干上がり始めている。工業用水確保のために水を汲み出した結果、何百万人もの農民が全く水が無い状態にさらされている。国連によると、世界で31の国が現在、このように切迫した水問題に直面しており、10億人以上の人々が清潔な飲料水を利用できず、不衛生な水に媒介された病原菌によって毎年2,500万人の人々の命が奪われているとのことである。

「ブラック・ゴールド」から「ブルー・ゴールド」へ

20世紀は石油が国の豊かさを決定する貴重な商品とされていたが、今後は水資源が石油と同様、あるいはそれ以上に存在価値を増すことが予想される。20世紀は技術進歩に加え石油の利権を求めて紛争が頻発した世紀でもあったが、水問題も同様に国際紛争の引き金となる可能性を秘めている。昨今では新興国経済の活況ぶりが新聞をにぎわせており、特に水の希少な国々における水取引の拡大は大きなビジネスチャンスにもなりうる。しかし、20世紀は石油の私的独占や不当な取引制限が国際紛争の引き金となり、結果的に人命を含む多大な被害を発生させたという過去がある。水資源のビジネス化も同様に独占などの不公平な取引が発生する場合は同じ悲劇が繰り返される可能性が存在する。今後深刻化する水問題への対応として、水利用の国際協調、環境改善、効率的な水の利用法などが一般的には求められているが、どのような方法をとるにせよ、足元の金銭的価値ではなく、次の世代の生活環境を最優先とする姿勢こそが今後の水問題への対応として必要不可欠である。

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