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株式会社日立総合計画研究所

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SDR

所属部署:経済グループ
氏名:越智 小百合

SDRとは

SDR(Special Drawing Rights:特別引出権)とは、「加盟国の既存の準備資産を補完するために1969年にIMFが創出した国際準備資産*1」です。外貨準備が不足している加盟国が、他の余裕のある加盟国から外貨を受け取ることのできる権利で、IMFから外貨を引き出す権利ではありません。外貨の請求を受けた国は、外貨を提供する見返りに、同額相当のSDRを受け取ります。受け取ったSDRは、将来他国へ外貨を請求することに利用できます。現在まで、SDRによるすべての外貨請求は、加盟国同士(2国間)の自主的な合意によって行われてきました。2国間の交渉に拠るのではなく、外貨の請求を受ける国をIMFが指定することも制度上可能です。
「外貨を受け取ることのできる権利」という考え方は、SDRが当初、固定相場制を維持する目的を持っていたことに由来します。第2次世界大戦後、各国は急激な為替相場の変動による国際貿易への弊害を防ぐべく、国際協調して固定相場制を維持するブレトン・ウッズ体制をとりました。当時、各国は準備資産として金と、金と兌換(だかん)性のある米ドルを保有していました。しかし、金の採掘量には限界があり、世界貿易の拡大と経済の発展とともに供給量が不足してきました。各国の準備資産の不足は、貿易決済のための外貨と為替介入のための外貨が不足することを意味し、固定相場の維持に不安を生じる恐れがありました。そこで、1969年、IMFはSDRという「外貨を受け取ることのできる権利」を考案し、金と米ドルを補完する準備資産とすることで、固定相場制を維持しようとしたのです。 しかし、1971年、米国は米ドル切り下げを目的に金とドルの兌換(だかん)停止を宣言し、ブレトン・ウッズ体制は崩壊、為替は変動相場制へと移行しました。また、国際資本市場も成長し、米ドルなど外貨を資金調達することも容易になりました。その結果、SDRの準備資産としての役割は限定的なものにとどまり、その発行残高は、1970〜72年と1979〜81年に2回発行された合計214億SDR(330億ドル)のみで、世界の準備資産の0.5%(09年4月末現在)を占めるに過ぎません。
SDRの価値は、創設当初は1SDR=1米ドル=0.888671グラムの金と固定されていましたが、変動為替相場制への移行以降、通貨バスケットとして再定義されています。現在、SDRは主要4カ国通貨の加重平均で算出(ドル44%、ユーロ33%、円11%、ポンド11%)され、その構成比は、各国通貨の世界における貿易・金融面での相対的重要性を反映し、5年毎に見直されます。2009年7月22日時点で、1SDRは1.56米ドルです。SDRは、現状では、IMFなど国際機関で用いられる計算単位でしかなくなっていました。例えば、IMFでは、経常収支赤字国への融資額をSDR建てで決定しています。また、WTO協定は、各国が政府調達を行う場合、一定額以上になると、原則として一般競争による入札を実施するよう義務づけており、その基準額をSDR建てで定めています。
しかし、今回の金融危機によって国際資本市場が混乱する中で、SDRの準備資産としての役割を蘇らせようとする動きが二つ起こっています。一つは、2009年4月に開催されたG20第2回金融サミットにて、新たに2,500億ドルに相当するSDRを発行することに各国が合意したことです。これは、SDRにより各国の準備資産を補完し、途上国が外貨支払い不能に陥るリスクを低減することで国際貿易の円滑化を図ることを目的としています。2009年8月7日にIMFの総務会で投票が行われますが、85%以上の賛成票を得て8月28日にSDRの追加配分が実施される予定です。SDRはIMFへの出資比率に応じて配分されますので、途上国は、これにより1,000億ドル相当のSDRを受け取ることができます
二つ目の動きは、2009年7月1日、IMF理事会が、創設以来初めて発行する、元本がSDR建てのIMF債券の枠組みを承認したことです*2。中国、ロシア、ブラジルは、それぞれ500億ドル、100億ドル、100億ドル分までのSDR建てIMF債券を購入する意思を表明しています。SDRの価値は通貨バスケットにより、一国通貨の急激な為替変動を相殺するので、準備資産として保有すると、その価値の目減りリスクを軽減することができます。特に中国は米ドル建て資産(米国債)の最大保有国であり、ドル信認の低下による自国準備資産の価値低下を懸念し、SDR建て債券の購入に積極的です。こうした動きには、保有する米ドル建て資産の価値低下を招くことなく、通貨ポートフォリオを多様化する意図がみられます。市場内で直接米ドル建て資産を売却して他通貨建て資産を購入すると、ドル安を招いてしまいます。そこで、中国はSDR建てIMF債券を購入して、IMFに米ドル建て資産を払い込み、IMFはこれを外貨不足に陥っている要支援国に貸し出します。つまり、市場内でドル売りが行われることなく、中国は準備資産の通貨ポートフォリオを多様化できるわけです。このように考えると、中国だけでなく、米国にとってもメリットのある枠組みといえるのではないかと思われます。

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