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株式会社日立総合計画研究所

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オープンイノベーション

所属部署:経営システムグループ
氏名:池田 裕一

オープンイノベーションとは

激しいグローバル競争の渦中にある企業にとって、技術革新(イノベーション)の停滞は淘汰(とうた)されることを意味します。そこで、技術革新を継続的に行う方法が、米カリフォルニア大バークレー校のヘンリー・チェスブロー博士により、オープンイノベーションという名前で提唱されました。この方法を用いれば、企業内部(自社)と外部(他社)が持つ技術やアイデアを使って、企業内部と外部において商品を開発して、技術革新を継続的に起こすことが可能になるといわれています。 以下では、チェスとポーカーに例えてオープンイノベーションが対象とする分野を明らかにした後に、新しいパラダイムとしてのオープンイノベーションの具体的な特徴を説明します。そして、最後に、少し離れた視点からオープンイノベーションについて考察してみたいと思います。

チェスとポーカー

チェスでは、相手ができることとできないことがわかっており、相手の動きを何手先まで予測できるかが勝敗を決めます。一方、ポーカーでは、相手について限られた情報しかない状況で、自分の次のカードを見て、ゲームにとどまるために追加的なお金を使うべきか判断しなければなりません
この2つのゲームの関係は、多くの規制が残る古い事業分野とインターネット普及後に現れた新しい事業分野との関係に、よく似ています。古い事業分野では、少数の大企業の研究所が基礎研究を行い、研究成果を独占的に使って事業を競い合ってきました。しかし、知識が普及した社会を背景とする新しい事業分野では、知識を少数の企業内に蓄積し、事業に必要なときに使用する方法は機能しません。競合他社が、予期しない方法を使って自社以上に優れた技術を用意しているかもしれないのです。

パラダイムシフト

古い事業分野で有効であった研究開発方法は、クローズドイノベーション、または製品開発の線形モデルと呼ばれます。この方法では、研究→新技術→新製品→事業拡大の順番で、企業の内部で閉じた研究開発を行います。これに対して、新しい事業分野では、オープンイノベーションという方法が提案されています。この方法は、研究開発プロセスにおいて、企業の内部と外部の境界線を明確にしないところに特徴があります。すなわち、企業内で生まれた技術でも、事業化しない場合は、他社への売却やベンチャー事業化を行います。また、外部で生まれた技術を自社に取り込み、自社の事業に活用します。例えば、開発プロジェクトのロードマップからギャップの存在が明らかになった場合、社外の技術を使ってこのギャップを埋めるのです。
オープンイノベーションを進める際に、技術や知的財産そのものに固有の価値はないという事実が大きい意味を持ってきます。技術や知財の価値は、ビジネスモデルを通して初めて評価することができます。従って、自社・他社のビジネスモデルに照らして、技術や知財の購入・売却価格を決めることが必要となるのです。一方で、オープンイノベーションは、社内の研究開発が不要であることを意味しません。社内の研究開発部門には、新たなシステムの構造を定義して、複数の知識を結合する最も難しい問題が残されているのです。

正攻法は現場主義

新しい事業分野ではクローズドイノベーションは機能しませんが、オープンイノベーションも万能ではありません。オープンイノベーションが有効な分野とそうでない分野を見極めることが必要です。ソフトウエア開発では有効であることがわかっていますが、多くの複雑な構成要素からなるハードウエアの開発で使うには慎重な検討を要します。
最後に、熱力学という物理学の一分野が生まれたイノベーションの過程を振り返ってみましょう。18世紀後半の英国で、ワットは、既存の蒸気機関を修理する中で、より効率的な機構を考案しました。その結果を知った仏国のカルノーが熱機関の理論を作り上げ、そこから熱力学が大きく発展したのです。これは、いわゆる現場主義です。このような過程を振り返ると、言い古された内容のようですが、研究者・開発者・起業家の役割分担を認めた現場主義こそが、イノベーションの正攻法であるように思われます。

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