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株式会社日立総合計画研究所

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「旬」なキーワードについての研究員解説

勝ち組内格差

所属部署:アジア・ビジネスグループ
氏名:髙橋 孝

「勝ち組内格差」とは

近年「格差社会」ということがよく言われます。いわゆる「勝ち組」と「負け組」の間での所得格差や職業格差が広がり、それが固定化しつつあることなどが問題になっています。しかし現在、特にサービス業のホワイトカラー層では、高い教育水準と高度な専門知識を持った集団における格差、すなわち一般的には「勝ち組」とされる階層内での格差の進行も懸念されています。これが「勝ち組内格差」です。
「勝ち組内格差」という言葉は、実はまだ定まった呼び方になっているとは言えません。しかし単純な勝ち組・負け組という見方ではとらえられない重要な問題を浮かび上がらせてくれます。

新たな格差を生み出す原因としての「知識社会」

「勝ち組内格差」とは具体的にどのようなものか、それを理解するためには「知識社会」という言葉が鍵になります。知識社会とは、狭義には、社会における付加価値の重心がモノの製造からそれを生み出す個々の知識へと移行していく社会のことです。技術進歩が即座に国境を越えて広がっていく今日では、仮にある程度高品質のモノであったとしても、単なる製造だけでは高い付加価値が生まれにくくなっています。高い付加価値を持ったモノは、より知識ベースの活動、すなわち極めて独自性の高い技術や、デザイン、アイデア、ブランド力などを加味することで始めて生み出されていると言えるでしょう。
これは、社会にとってモノの重要度が低下しているということを示すものではありません。モノが重要であることは昔も今も変わらないのですが、その付加価値の重心が、モノに体化された知識ベースの活動へとシフトしているということなのです。そしてそのような知識ベースの活動は、より真似のできない技術へ、より斬新なアイデアへと、絶えず変わり続けています。

「勝ち組内格差」が生まれる仕組み

それがどのような格差を生むか、その答えは明確です。付加価値の重心が個々の「知識」に移行し、さらに究極的な意味では「代替の効かない知識」すなわち企画力、アイデア力、分析力などに移行していく以上、そのような資質を持つ人にはますます仕事が集中するようになるでしょう。しかし、そのような資質に恵まれない人は、仮にどのような専門知識があろうと、またどのような高学歴であろうと、中長期的な意味では常に「代替」の圧力にさらされることになります。代替の圧力とは、グローバル化が進展している現代では、途上国を含めた世界平均賃金への下降圧力であり、また、雇用の不安定化への圧力です。

「勝ち組内格差」の現実

以上のような流れに根ざした現象は、一部の知識集約型の職場で既に見られることではないでしょうか。資質に恵まれた特定の人に、それこそさばききれないほどの企画やアレンジの依頼が集中している。そして資質に恵まれない人も、「代替」の圧力を感じつつ、何とか付加価値を生み出そうと連日長時間の試行錯誤を続けなければならない。そして双方に過剰なストレスがかかっている・・・。 もちろん、これも一つの過渡的な現象である可能性があります。やがて知識ベースの活動の中から可能なものが随時定型化され、多くの活動が海外などに切り出されていくかもしれません。そうなれば、「代替」が現実化することになります。
そのような社会が望ましいかどうかは別として、知識社会の進展によって付加価値を生む重心自体がシフトし続けているのですから、この流れは容易に止まりそうにありません。

「勝ち組内格差」が突きつけるもの

新たな格差の原因である企画力、アイデア力、分析力といったものの性質は、この問題を一層複雑にします。なぜなら、それらは他の技術や知識に比べて、個人の努力や工夫で獲得することが困難な資質であると考えられるからです。また、企画、アイデア、分析といったことのために必要とされる労働力自体、例えば従来のモノの生産プロセスと比べれば、はるかに少ない人数で済んでしまうでしょう。これも社会を不安定化させる一つの要因になります。
これから我々が向き合うのは、勝ち組と負け組の間の格差だけではなく、一般的には勝ち組と目される人々の間での格差も深刻化する可能性があるのです。それは高い学歴を持つ者同士での格差、外国語に堪能な者同士での格差、情報通信技術に精通した者同士での格差になるはずです。付加価値を生み出す資質に恵まれた者とそうでない者との間で、新たな格差が生まれる可能性が高まっているのです。

「勝ち組内格差」とこれからのビジネス

「勝ち組内格差」は、知識社会の進展という歴史的な流れを踏まえて想定されており、単なる絵空事とは思えません。そしてその影響を受けるのも、勝ち組・負け組という言葉ではくくれない広範囲の人々に及ぶでしょう。だとすれば、これからのビジネスには、そのような社会の姿を視野に入れる必要性が求められます。
果たして、次世代の情報通信技術や新しいビジネスモデルは、この格差を緩和することができるのでしょうか。それともさらに拡大させてしまうのでしょうか。何より、それら新たなビジネスを作り出そうとする知識集約型の企業自体、この流れからどのような影響を受け、どのような労働環境に変わっていくのでしょうか。

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