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株式会社日立総合計画研究所

インタビュー

研究活動などを通じ構築したネットワークを基に、各分野のリーダーや専門家の方々と対論

第42回 世界の自動車産業とモビリティの将来
~塗り替えられる業界地図、新たな主導権争いへ~

電気自動車(以下、EV)と自動運転車の普及により、事業環境が劇的に変化しようとしています。今回は、ドイツ・ミュンヘンを本拠とする経営戦略コンサルティング会社、ローランド・ベルガーのシニアパートナー兼スーパーバイザリー・ボード議長であるマーカス・ベレット氏に、クルマを中心としたモビリティの将来についてお話を伺いました。

Marcus Berret(マーカス・ベレット)

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ローランド・ベルガー シニアパートナー兼
スーパーバイザリー・ボード議長

1997年に同社入社後、ドイツ自動車業界のクライアントの事業展開を支援し、自動車サプライヤー向けグローバルサービス事業のマネジャーとなる。
2003年、シニアパートナーに選出。 2013年9月、スーパーバイザリー・ボードに初めて任命され、スーパーバイザリー・ボードの副議長に就任。
2014年以降は、自動車産業のグローバル・コンピテンス・センターを率いる。ローランド・ベルガーの工業製品・ハイテクコンピテンス・センターおよびオペレーション戦略コンピテンス・センターを管掌。

次世代自動車について

白井:EVと自動運転システムが急速に進化する中で、自動車産業のビジネス環境が根本的に変わりつつあります。
まず、EVなど次世代自動車の将来像についてお聞きしたいと思います。2020年以降、EV生産はますます増加し、自動運転車を目にする機会も多くなるでしょう。近い将来、自動車はぜいたく品ではなく、交通手段の一つになる可能性も指摘されています。今後、人々はクルマに何を期待し、何を求めるとお考えですか。これまでとは違う新たな価値観が生まれるのでしょうか。

マーカス・ベレット:消費者が自動車に期待する基本的要素である快適性、安全性、接続性、高品質、信頼性には大きな変化はありませんが、今後起こり得る大きな変化が二つあります。一つは、EVの急速な普及です。これはEV需要が急増したというより、政府の規制やルールが、市場をつくり出しています。
二つ目は、自動運転車に対する消費者の期待です。ただし、まだ乗車経験のある人が少ないため、具体的に何に期待すればよいのか分からないのが現状です。
2021年まではEVの動向の方が注目されると思います。欧州では、ディーゼル車のシェアが現在の50%以上から25%程度まで低下するでしょう。自動車メーカーは、ディーゼル車に替わりガソリン車を1台販売するごとに二酸化炭素(CO2)10g相当分の負担金が加算されます。この費用を帳消しにするには、EV生産へ(かじ )を切るしか道はありません。各自動車メーカーが将来狙うEVのシェアも費用負担の大きさから容易に計算できます。EVへの需要は消費者が求めたわけではなく、規制により生まれたものなのです。
一方、自動運転車は事情がかなり異なります。消費者が自動運転の利点を理解すれば、需要は一気に広がります。一度乗車して便利さを実感すれば消費者の見方も変わるはずです。自動車業界を変える力としては、EVより自動運転の方がはるかに大きいといえます。

白井:人々の生活における自動車の価値や役割は変わるのでしょうか。

マーカス・ベレット:確実に変化していきます。

白井:将来クルマを運転する楽しみはどのようなものになるのでしょうか。また、自動車メーカーはユーザーに製品をどのように訴求していくと思われますか。

マーカス・ベレット:自動車メーカーがユーザー中心の姿勢を貫くことができるかどうかが大きなポイントです。今、多くのドライバーはA地点からB地点に行く移動手段として自動車を購入しています。自動運転車が普及すれば、現在のコストの約20%でA地点からB地点まで移動するサービスが利用可能になります。例えば、現在のタクシーやUber(ライドシェア)などカーシェアリング事業にかかるコストの約80%は人件費です。BMW、ダイムラーが提供するカーシェアリングサービスのビジネスモデルにおいても最大のコストは人件費です。ユーザーが乗り終えたクルマをスタッフが回収に出向き、次のユーザーが待つ場所へ運転していかなければなりません。電源プラグのない駐車スペースに停車されてしまうと、充電の手間もかかります。一方、自動運転車ではこうした作業が自動化され、人件費の約80%が不要となります。企業はより柔軟なビジネスモデルを構築し、ユーザーの利便性も向上します。

白井:実用性とコスト両面で変革が進むと、自動車メーカーのあり方、消費者へのマーケティング方法はどのように影響を受けるでしょうか。

マーカス・ベレット:第一に、自動車メーカーはユーザーが本当に求めているものを改めて考えなければなりません。第二に、ユーザーとの良好な関係を保つ方法を見つけ出すことです。新たなクルマ社会では、これまでのようにブランド力で顧客をつなぎとめることはできません。10年後、ロボットタクシーが送迎してくれる時代になれば、消費者は安全に移動できればそれでよく、クルマのブランドを気にする人はいないでしょう。「シームレス・モビリティ*1」の中で、顧客との関係を持続させる道を探る必要があります。

*1
継ぎ目なく移動手段を提供すること

電気自動車(EV)普及の動き

白井:これまで自動車業界は技術の蓄積がなければ新規参入が難しいとされてきました。EVは、ガソリンやディーゼルを使う内燃エンジン車より部品数が大幅に少なく、モーターを回す構造は簡素で組み立てが比較的容易といわれています。そのため、新規参入企業、特に中国やインドのメーカーが参入し、EV市場で急速に頭角を現す可能性もあります。自動車業界の構図が大きく変わるなかで、イニシアチブを取るためには何が必要でしょうか。大量生産体制を整え、規模を追求することが主な課題になるのか、あるいは全く新しい課題が出てくるのでしょうか。

マーカス・ベレット: EVは従来の車に比べ格段に生産しやすくなり、市場の参入障壁は低下します。EVの価値の約25%をバッテリーが占め、部品数も大幅に減ります。自動車メーカーが今後注力すべきは効率を最大限まで追求することです。

白井:効率化の重要性について、もう少しお話しいただけますか。

マーカス・ベレット:現在、各国政府は排出ガス削減を目的に自動車メーカーに規制をかけ、EVの普及を促しています。EVは1回の充電で走行できる距離が短く、充電に時間がかかるため少し不便になりますが、排出ガス規制の厳しい地区にも乗り入れられるメリットから消費者が購入するケースも増えるでしょう。ただし、自動車メーカーが現在の利益率を維持しながらEVを売ることができるかとなると、話は別です。電気自動車はかなり生産コストが高いのですが、それは消費者には関係のないことです。価格を1,000ドル上げると、販売台数は途端に減ります。自動車メーカーは、価格と販売台数の微妙な力学を考慮しながら、CO2排出量の規制に沿ってEVを製造・販売しなければなりません。従来の自動車より平均利益率が格段に低下する可能性があるなかで、効率性を上げ、コストを下げ、利益率を維持するという非常に大きなプレッシャーがかかります。

白井:途方もなく難題に聞こえます。

マーカス・ベレット:自動車メーカーのジレンマは、採算の取れる、収益性の高い現在の自動車事業を、収益性の低いEV事業に移行しなくてはならない点です。従って、市場でイニシアチブを握るには、オペレーションのあらゆるレベルで効率化を進めることが重要になります。

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事業の成功に欠かせないもう一つのポイントは、モビリティサービスです。一例を挙げると、テスラ社(米国)は充電スタンドを各地に設置し、エンジニアをユーザーに派遣する「モバイルサービス」の提供を始めました。ほかの企業もこうした取り組みを検討しており、今後数年間は自動車メーカーにとって「効率化」と「サービス」の二つが課題になります。

白井:最近、複数の国が大きな政策変更を行っています。フランスと英国は2040年以降、ガソリン車とディーゼル車の国内販売禁止を表明しました。中国では、2019年からガソリン、ディーゼル車の製造・販売規制が導入され、新車の約10%がNEVと呼ばれる「新エネルギー車」に代わります。米国カリフォルニア州では、2019年にカリフォルニア州で販売される新車の約80%をゼロエミッション車にすることが決まりました。各国政府の政策や課題を考慮すると、どの国、地域がEVをリードする市場となるでしょうか。

マーカス・ベレット:間違いなく中国です。現在、中国は世界最大のEV市場であり、世界市場の約40%を占めています。中国は非常に厳しい規制を行って、世界を(けん)引していくでしょう。将来は、欧州が2番目に大きな市場となります。米国の場合、主要なEV市場はカリフォルニア州で、それ以外の州ではクルマの種類もユーザーの志向も異なるため、状況が変わるまでに長い時間を要します。その点で、中国が世界のEV市場をリードしています。アジアのコネクテッド・モビリティ技術*2に関しては、韓国とシンガポールが急速に存在感を増しています。

白井:EVは、中国企業にとって大きなチャンスである一方、欧州および日本の企業には困難な競争が待ち受けている、ということでしょうか。

マーカス・ベレット:そのとおりです。中国は、過去20年間、自動車企業の業績がそれほど伸びず、厳しい競争環境から抜け出す必要性を認識しています。中国政府がEV市場で規制を強化するのもそうした狙いがあり、新たに導入される規制のもとでは国内メーカーがおのずと有利になります。もちろん、環境問題や大気汚染などほかの問題に対応するためでもあります。

*2
インターネットによって接続された移動手段

自動運転を支えるテクノロジー

白井:自動運転に話題を移したいと思います。自動運転には、ソフトウエア、人工知能(AI)、各種センサー、通信技術などの新たな技術が必要です。情報技術(IT)、ソフトウエア、チップメーカーなどさまざまな企業が参入することになるでしょう。この分野でイニシアチブを取るためにはどのようなことが重要とお考えですか。

マーカス・ベレット:自動運転車とEVどちらもバッテリー技術と充電システムの開発がキーファクターになるでしょう。
自動運転には、視覚システムに欠かせないレーザーカメラ、近距離レーダーシステムのライダー(LIDAR)*3など、障害物の検知とビジョンに関連する技術が重要になります。そして、マップデータや膨大なデータ処理を行うコンピュータの演算能力も欠かせません。この二つのテクノロジーが自動運転システムのカギとなります。

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半導体のインテルが自動運転車向け画像認識技術をリードするモービルアイ社(イスラエル)を買収した理由もそれです。また、「ソフトウエア・アーキテクチャ*4」が根本的に変わることも自動車メーカーが直面する大きな課題の一つです。テスラのクルマが持つ優位性は、ソフトウエア・アーキテクチャをゼロから構築した点にあります。

白井:既存の自動車メーカーは不利な立場にあるということですか。

マーカス・ベレット:既存の自動車メーカーが長年積み上げてきたレガシーシステムが不利に働くこともあります。最近、私はモデルチェンジしたテスラの新型「モデルS」を運転する機会がありました。家のガレージにクルマをとめるときには、ガレージの前が少し急な下り坂になっているため、車体の底と路面が当たらないよう、エアーサスペンションを調節し、車体を上げる必要がありました。翌日、同じようにガレージ前までクルマを走らせ車体を上げようとすると、全く動きませんでした。実は、その時すでに車体は上げられていました。システムがGPSで昨日と同じ位置にクルマがあることを認識して、自動的にエアーサスペンションを調整するというすばらしい技術を体感しました。既存メーカーではこうした機能を装備することはできなかったでしょう。レガシーシステムの場合、データがさまざまなソフトウエアの中に分散されているため、テスラのように各種システムを全て接続し、連携させることは容易ではありません。従って、先ほど挙げた視覚システム、データ処理能力とともに、このソフトウエア・アーキテクチャが、新たな成長機会を生み出す第三の領域となるでしょう。

*3
光を用いたリモートセンシング技術の一つ
  
*4
ソフトウエアの基本設計

サプライヤーへの影響

白井:ドイツも日本も自動車産業は巨大な雇用を生み出していますが、ビジネス環境の変化により雇用の一部が失われる可能性が指摘されています。大勢の人が2次、3次のサプライヤーでも働いており、同様の影響が懸念されます。自動車関連産業の就業人口が多い国では、どのような対策が必要でしょうか。

マーカス・ベレット:これは実に取り扱いが難しい課題です。自動車産業はドイツでは最大の雇用先であり、現在80万~100万人の労働者がいます。数多くの仕事が自動車産業に依存し、エンジン、ターボチャージャー、排出ガスシステムを使用した従来型パワートレインを生産していますが、電動パワートレインに代わると最大90%の作業が不要になります。業界に変革の波が押し寄せ、ドイツの雇用が大きな試練の時を迎えるのは必至です。新車の25%がEVに移行しただけでも既存のパワートレイン関連の工場に多大な影響が出ます。

白井:影響を軽減するにはどのような方法が考えられますか。

マーカス・ベレット:労働市場の安定性を確保し、負の影響を補う唯一の方法は、自動車の生産量を安定的に保つことです。それには技術開発を進め、顧客ニーズに合致した製品を生み出す必要があります。対応策を各国政府が推し進めるべきです。変化は急速に押し寄せており、政治家から企業、労働者、消費者まで全ての関係者を交えて広く議論する必要があります。保護制度の導入によって、先進技術に門戸を閉ざすことは避けなければなりません。対策を間違えると、競争力を持つ自動車産業が欧州に育たなくなります。

モビリティサービスの開発

白井:先ほどお話に出たモビリティサービスも将来性の高い市場として注目されています。すでに「カーシェアリング」や「ライドシェア」などが交通分野の新しいビジネスモデルとしてユーザーにサービス価値を提供しています。自動運転車の導入により、新規参入の増加が加速すると予想されます。モビリティサービスでは、どのような企業がイニシアチブを取り、成功を収めると思われますか。

マーカス・ベレット:世界の自動車メーカーは、モビリティサービスに数十億ドルを投資しています。今後10年から15年の間に、自動車メーカーの中核事業は自動車の製造販売ではなく、「モビリティ」をサービスとしてエンドユーザーに提供することになるでしょう。モビリティサービスへの需要はより一層高まると確信しています。 この分野では数多くのベンチャー企業が競ってサービスを展開しており、Google®、Apple®といった巨大IT企業も成長市場の一角を占めようとしています。

白井:モビリティサービスの世界では、誰が利益を得るのでしょうか。

マーカス・ベレット:全世界の自動車産業の利益総額は年間5,000億ドルといわれています。個人のモビリティ需要が世界的に高まるなか、この額は今後も拡大を続けます。高齢者も含め移動する人が増加しています。個人のモビリティニーズは年間3~5%成長するでしょう。しかし、世界の自動車部門で生み出す利益のうち、最大40%は新規参入企業が得ると考えており、こういう企業を私は「掃除機」と呼んでいます。

白井:なぜ掃除機なのですか。

マーカス・ベレット:収益が吸い上げられていく様子を想像すると、掃除機が頭に浮かびます。新規参入企業が40%を吸い上げれば、既存企業には半分強しか残らず、壊滅的な状況になりかねません。自動車メーカーが革新的なベンチャー企業に巨額投資を行うのも、将来の利益を確保するためです。多数の企業が市場に参入すると思いますが、その中で生き残る企業は少数とみています。実際、データ駆動型のビジネスモデルは、規模の経済が働くため自然と独占市場になる傾向があります。最終的には、少数のモバイルプラットフォームに淘汰(とうた) されます。エンドユーザーは、自分のプロフィールや好みなどを登録して、いつでも心地よく利用できるサービスを求めるため、企業は絞られます。異なるプラットフォームを使うたびにクレジットカードの認証や契約をしたいとは思わないでしょう。

モビリティサービスの未来形

白井:モビリティサービスだけで利益を出すのは難しくなる可能性もあります。医療やエンターテインメントなど、ほかのサービスとの統合が進むかもしれません。

マーカス・ベレット:そう思います。モビリティとほかのサービスとの統合は、サービス発展の長いプロセスのうちの第3段階で実現するでしょう。
第1段階では、自動運転による低価格なモビリティサービスの提供が進みます。現時点では、まだサービスコストが高過ぎるため、モビリティ各社は採算が取れていません。人の運転から自動運転に切り替えることで、コストの約80%を削減できますが、この技術を確立するにはモバイルデータ転送をスムーズに行う5G通信の整備が不可欠です。都市部にセンサーやデータセンターを設置するため、相当額の投資も必要になります。
第2段階では、モビリティサービス全体の中で、少数の効率性の高いプラットフォームが頭角を現すでしょう。そして第3段階では、サービスの統合がさらに進み、モバイル通信、個人向けモビリティサービス、健康保険、映画、テレビ、デジタルラジオなどをパッケージした一種の定額プランサービスが登場する可能性もあります。将来は複合化したサービスが提供されると確信していますが、実現まで長い道のりが続きます。

自動運転の安全性

白井:自動運転の普及には、安全性とセキュリティを確立しなければなりません。「レベル3」を超える自動運転車の普及を前に、利用者の安全を確保しつつ、技術開発を妨げないよう規制を見直す必要もあり、これら二つのバランスが非常に重要だと思います。各国政府の安全への取り組みをお聞かせください。

マーカス・ベレット:各国政府は、より安全な道路交通をめざして自動運転を推進しています。全世界で毎年約120万人以上が交通事故で亡くなり、約5,000万人がけがをしています。どの国も死亡者ゼロを目標に交通安全対策に取り組んでいますが、狙い通りには進んでいません。ドイツ政府も同様の取り組みを実施していますが、年間3,300~3,500人が交通事故で亡くなっています。多くの国が自動運転を推進するのは、事故数を大幅に減らすためです。

白井:クルマがインターネットに常時接続されていると利用者は便利ですが、ハッキングによりサイバー攻撃を受けるリスクもあります。これまで以上にセキュリティに注意を払わなければなりません。このリスクにどう対処すべきですか。

マーカス・ベレット:ファイアウォールなどの万全なセキュリティシステム構築のために多くの技術者が日々努力しています。現在、航空機はITと航空交通管制システムに基づき、ほぼ完全自動運転で運航しており、自動車も同じようになると考えます。大事なのは安全性と技術規制の正しいバランスを見いだすことです。毎年約120万人以上が交通事故で死亡している現状は、理想から遠く離れています。自動運転車がハッキングされて制御不能になり、事故が起きたとしても、安全性とのバランスを考慮すれば、最終的には自動運転技術は必要という考えに落ち着くと思います。もちろん、開発に当たってはデータ保護の強化は最も優先すべき事項です。

自動車業界の今後

白井:EVや自動運転車への移行期を迎え、大手自動車メーカーが「イノベーションのジレンマ」に直面する危険性も指摘されています。今後は二つのシナリオが考えられます。
一つは、市場変化に対応し、中核事業の新たな領域への移行に成功するシナリオです。自動車産業に代わり、新たなモビリティサービス産業が形成されても、その世界で現在のポジションを保ち影響力を維持します。
もう一つのシナリオは、中国の自動車メーカーやテスラのような新興企業が存在感を増すことにより、現在のポジションを失うシナリオです。自動車産業の将来についてご意見をお聞かせください。

マーカス・ベレット:今日お話した自動車産業のトレンドは急速に進展しています。3年前でも、EVへの転換が大きくなり、自動運転車へのシフトが進むということはできたでしょう。ただし、その時はどちらのアイデアも机上のことであり、いつかそういう社会になると皆分かっていても、推進力はまだ強くありませんでした。しかし、今ではこのようなアイデアが当たり前に受け入れられています。 私はEVと自動運転車のシナリオがやがて一つに収れんすると想定しています。今よりはるかに高い割合でカーシェアリングが普及し、個人所有の自動車が激減するシナリオです。
摩擦がないという意味のフリクションフリーの事業セグメントという概念がありますが、フリクションフリーは、現在私たちが体験している変化を説明する言葉としてピッタリだと思います。つまり、法律から技術、ユーザーの習慣、業界の見方に至るまで、可能な限り摩擦が小さい状態に向かうことです。デジタルカメラ、音楽、映画、テレビなどで起きている変化を見るとよく分かります。例えば、5年前ならニュース番組を見る場合、テレビの前にいなければなりませんでした。今ではストリーム配信が登場し、いつでもどこでも視聴できます。これがフリクションフリーです。数年前よりはるかに安く、便利に変わっています。
毎年約120万人以上が交通事故で死亡しており、5,000億ドルの車両損害が発生しています。自動車に関係して毎年7ギガトンの二酸化炭素(CO2)が排出されています。温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」を基盤に、取り組むべきことはたくさんあります。
資産効率の問題もあります。例えば、5万ドル、8万ドル、さらには10万ドルの自動車を購入したとしても、利用率はわずか3~4%程度です。これでは資産を無駄にしていることになります。これまではクルマを有効活用し、稼働率を上げる手段がありませんでしたが、EV、自動運転車、カーシェアリングの占める割合が上昇することにより、利用者目線のサービスが普及し、フリクションフリーの世界に向かっていくことでしょう。

メーカーの統廃合が進む

白井:多くの人が合理性を共有し、フリクションフリーのモビリティ社会に向かっていくとすれば、自動車企業の戦略は根底から再構築を迫られるのでしょうか。

マーカス・ベレット:今後数年間、利益を押し下げる強い圧力がかかります。今日お話ししたトレンドのうち、既存の自動車メーカーにとってよいニュースは個人のモビリティが高まるという点だけです。それ以外のEV、シェアリング、モビリティプラットフォーム、自動運転システムという要素は既存の自動車メーカーには不利に働きます。

効率化と標準化の波で利益率は低下し、その結果、大規模な統廃合が進みます。 こうした動きは、自動車部品業界を見ると分かります。自動車部品業界は極めて効率的なB2B(企業間取引)環境が整っており、部品サプライヤーは基本的に自動車メーカー10社程度を顧客に抱え製品を提供しています。ブレーキシステム、ステアリングシステム、照明システムなど、どの部品市場も構図は同じです。世界のマーケットリーダーがシェア30%、2番手が20%、その後に続く3社を合計すると世界市場の90%を占めます。そして、地域ごとの専門サプライヤーがいくつかあります。
自動車メーカーもB2C(企業と消費者間の取引)からB2B(企業間取引)のビジネスモデルに切り替わり、統廃合を経て既存企業の数は減りますが、規模は大きくなります。新規参入企業の一部は勝ち残り、既存企業の一部は市場を去っていく。事業継続の重圧が年を追うごとに増し、行き詰まる企業も出てくるでしょう。

白井:新車の需要は大幅に減ると予測されますか。

マーカス・ベレット:現在、年間1億台の自動車が生産されており、今後は年間1億1,000万~2,000万台になると予測されています。共有車が多くなると自動車の利用率は現在の3~4%から40%に上昇する可能性があり、ロボットタクシー1台が10台分の活躍をするようになります。自動運転車の導入が早く進行するシナリオでは、自動車の生産台数は年間7,000万台まで減少するため、一部の超大企業しか生き残ることはできないでしょう。

白井:次世代自動車に関する深い洞察、見識を披露していただき、考えさせられる点がいろいろありました。本日はありがとうございました。

マーカス・ベレット:こうしてお話しする機会をいただいたことを本当にうれしく思います。

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※ Appleは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
※ 本誌記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

編集後記

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今回はローランド・ベルガーのシニアパートナーであるマーカス・ベレット氏から、EV化、自動運転車の普及、シェアリングの進展により激変が予想される自動車産業の展望についてお話を伺いました。ビジネスモデルが大きく変わり、既存メーカーの経営を揺るがす可能性があります。また、企業だけでなく、各国の経済や雇用への影響も大変大きく、将来像を総合的に展望する必要性を改めて感じました。

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