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株式会社日立総合計画研究所

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ポツダム・イニシアチブ 生物多様性2010

所属部署:エネルギー・環境グループ
氏名:桑原 亜希子

「ポツダム・イニシアチブ 生物多様性2010」とは

「ポツダム・イニシアチブ 生物多様性2010(Potsdam Initiative Biological diversity)」とは、2007年3月にG8環境大臣閣僚会議で採択された、2010年をターゲットとする生物多様性の保全に関する計画です。近年、生物多様性の保全への注目が高まってきていることから、2007年の上記会合では、気候変動と並ぶ主要テーマとして生物多様性の損失が及ぼす経済的影響、地球上の生物種に関する情報システムの構築などについて議論されました。

「2010年目標」を達成させる「10の行動」

生物多様性をめぐる国際的な取り組みは、「生物の多様性に関する条約」採択以降(1992年リオ・サミット)、「生物多様性の保全」「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」を目的に推進されてきました。また、2002年のCOP6(生物多様性条約締結国会議)では「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という「2010年目標」を採択、重点分野と具体的な指標も定められました。しかしながら、この目標達成は難しいとの調査結果も出てきました。たとえば、「ミレニアム エコシステム評価(Millennium Ecosystem Assessment)」(2005年国連発表)は、人間が恩恵を受けている「生態系サービス」のうち60%が劣化し続けており、国連ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の達成は厳しい状況であると報告しています(なお、「生態系サービス」とは、生態系が提供する、供給(食糧、水、木材など)、調整(気候、水など)、文化(美、余暇など)、基盤(光合成、土壌形成)という4つの機能である)。 ミレニアムエコシステム評価は、(1)生物多様性は人為的影響により自然な状態の100〜1,000倍の速度で喪失、その象徴であるマングローブは、1980年以降35%が世界から消失、(2)2003年の大災害による経済的損失700億ドルのうち、自然災害が84%を占める、と報告しており*1、生態系サービスの劣化が経済的価値の損失につながることを強調しています。また、「スターン・レビュー」(2006年)は、土地利用に由来する総炭素排出量の70%は8カ国が占めており、その森林保護にかかる機会費用は、将来的に50億ドルを上回っていく可能性があると報告しています。こうしたことから、生態系が提供するサービスを享受して、経済活動や社会生活をしている私たち人間自身が、生態系の改変を深く認識し、生物多様性を守るべきという問題意識に基づき、「2010年目標」を達成させるポツダム・イニシアチブの「10の行動」が合意されました。また、これを受けた同年6月のG8ハイリゲンダム・サミット「世界経済における成長と責任」では、「生物多様性が世界経済の基盤であることを認識し、持続的保全に取り組む」と宣言されました。

ポツダム・イニシアチブ生物多様性10の行動
分野 行動
1 生物多様性の経済的価値
  • 生物多様性のグローバル便益価値、損失コスト、保全活動失敗のコスト(効果的な保全に要するコスト対比)などの比較・分析
2 科学
  • 生物多様性の科学研究基盤の強化
  • 科学政策とのつなぎ改善
    (IMOSEB:生物多様性に関する国際科学的助言メカニズムの支援など)
3 コミュニケーション、教育および社会の認識
  • 意識向上ツール「地球規模の生物種情報システム」の構築
4 生産と消費のあり方
  • 政府、企業、市民・消費者の取り組み促進のための施策強化
    (規制、市場刺激策、認証制度、公共調達、環境影響評価など)
5 野生動物の違法取引対策
  • ワシントン条約上の取り組みを強化
    (政府、国際機関、NGOのパートナーシップによる協力強化)
6 侵略的外来生物種対策
  • 侵略的外来生物種特定・拡散阻止のための監視システムの開発や外来種リストの作成、国際協力
7 海洋保護区のグローバルネットワーク
  • 生息地特定と保護のための調査研究や協力の強化
8 生物多様性と気候変動
  • 気候政策と生物多様性政策の連携強化
9 資金調達
  • 「エクエーター原則」(開発プロジェクト融資において、金融機関が環境や社会への影響を配慮する任意の取り組み)の奨励
  • 生物多様性保護と貧困解消への資金拡充
  • 生態系サービス利用への支払制度の検討
10 2010年目標へのコミットメント
  • カウントダウン2010年イニシアティブなどの活動支援
  • 2010年目標達成とポスト2010のための国家目標・戦略を策定、実行

資料:G8 Environment Ministers Meeting,"Potsdam Initiative-Biological Diversity 2010" (2007年3月)より日立総研作成

意識変革と経済性評価が解決の糸口

ポツダム・イニシアチブを受け、「2010年目標」の達成に向けた各国での取り組みは活発化しています。例えば、ドイツ国民を対象とした環境意識調査によると、4分の3の国民が「重大な環境問題は熱帯雨林の消滅」と回答、多数が「他の環境問題に比べて生物多様性に関する情報が少ない」と感じていることが分かりました。そのため、同国では、生物多様性に関する教育・普及活動のためのキャンペーンにホッキョクグマ("Knut")をマスコットとして採用したり、移動バスを利用した生物多様性のロードショーなどを展開しています。NGOや産業界、メディアや科学者などが参画する「nature alliance」(2007年3月発足)での議論は、市民社会の意識醸成にもつながっています。また、気候変動に伴う経済的影響に関する研究が進んだように、生物多様性破壊による経済的コスト(被害額)や生物多様性保全のための必要コスト(対策費用)を算出すべきとの立場から、ドイツ政府は経済性評価・分析を推進しています。この結果を基に2008年3月にドイツ・ボンで開催予定のCOP9では、経済性評価および資金調達のあり方についても議論される予定です。

ポツダム・イニシアチブを受け継ぐ日本の対応

日本政府は、「第三次生物多様性国家戦略」(2007年11月策定)の中で、健全な地球生態系の保全・再生への積極的な貢献のため、ポツダム・イニシアチブに賛同し、「2010年目標」の達成に向けた取り組みを推進する意向を示しています。次々回のCOP10が2010年に日本(名古屋)で開催を予定していることからも、日本の持続可能な利用モデル「SATOYAMA」*2の海外発信や生物多様性の基盤情報の国際的な収集蓄積・共有化事業など、日本発の取り組みを加速していくと思われます。日本の知見や地域特性を生かした貢献も不可欠ですが、生物多様性保全はグローバル課題である気候変動や貧困などとも密接に関連していることを認識した取り組みを進めていくことが必要といえるでしょう。

*1
これに関する報告として、スイス再保険による「シグマ調査」がある。
*2
自然や社会条件に応じた持続可能な社会づくりのための活動。日本政府は、「第三次生物多様性国家戦略」にて、里地里山など自然共生社会づくりでの経験と現代の知識・技術という日本の強みを自然共生の智慧と伝統をもつ世界各地に活用し、貢献するという日本の姿勢を打ち出している。

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