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株式会社日立総合計画研究所

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事業承継

所属部署:研究第二部 ファイナンスグループ
氏名:古閑泰光

1.中小企業が直面する事業承継問題

 事業承継とは、経営者から後継者に企業の経営権や株式、知的財産権などを引き継ぐことをいいます。事業承継では、後継者の発見・育成、株主対策、相続税対策や個人保証の引継ぎなど、承継を円滑に進めるために対処すべきいくつかの要素があり、そのなかでも特に後継者の発見・育成が重要です。
 日本の中小企業では、経営者の高齢化が進む一方、少子化により後継候補者が減少している結果、後継者不足により事業承継が進まないという課題に直面しています。
 日本の経済・社会を支える中小企業において事業承継が円滑に進まない場合、雇用や技術の喪失、経済の活力低下などにつながるため、日本政府による支援策が実施・検討されているなか、民間企業においても中小企業の事業承継をサポートする動きが活発化しています。

2.2025年に向け深刻化する事業承継

 日本における中小企業は、2014年時点で、約381万社存在し全企業の約99%を占め、また従業員数でみても日本の全企業が抱える従業員の約70%にあたる約3,361万人(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」(2016年12月))もの雇用を創出していることから、日本経済の屋台骨を支える存在といわれています。
 しかしながら、少子高齢化や人口減少などの社会環境の変化を背景に、中小企業では経営者の高齢化や後継者不足による廃業数増加といった課題が浮き彫りになっています。
 経済産業省は、経営者の平均引退年齢とされる70歳に到達する中小企業経営者が、2017年から10年間で約245万人にのぼり、そのうち約半数で後継者が未定の状況にあると試算しています。そして「現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性」(出典:経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(2017年10月))があると指摘しています。
 中小企業における円滑な事業承継は日本経済の活力維持や雇用確保などの観点から重大な課題であり、この課題を解決するには後継者不足への対処が急務といえます。

3.親族内への承継から親族外への承継へ

 事業承継の一般的な類型としては、「親族内承継」、「役員・従業員承継」および「社外への引継ぎ(M&Aなど)」の三つがあげられます。
 「親族内承継」とは、現経営者の実子や血縁者などの親族に経営を承継する方法をいいます。後述する他の二つの方法と比較して、相続などにより株式や事業用資産などを計画的に承継することが容易であるため、所有と経営の一体的な承継が期待でき、また早期に後継者を決定するケースが多く、そのようなケースでは準備期間を十分に確保することが可能であるといったメリットがあります。
 「役員・従業員承継」とは、社内の役員や従業員に経営を承継する方法をいいます。経営者として能力のある人材を見極めて承継することができ、親族以外の者であっても社内で長期にわたり勤労してきた者であれば経営方針などの一貫性を保ちやすい、といったメリットがあります。
 「社外への引継ぎ(M&Aなど)」とは、株式譲渡や事業譲渡などにより社外の第三者に経営を承継する方法をいいます。親族や社内に適任者がいない場合でも広く候補者を外部に求めることができ、また現経営者は企業売却による利益を得ることができるなどのメリットがあります。
 事業承継に関しては、従来は「親族内承継」が一般的でした。しかし、最近では国内市場の縮小をはじめとした事業の将来性に対する不安の拡大や職業選択の多様化などを理由に、黒字経営であっても子どもに経営を継がせることをためらう経営者が増え、他方で後継者になることを拒む子どもが増加するなど、「親族内承継」の減少に拍車がかかっている状況です。このような背景もあり、かつてはほとんど活用されていなかった「社外への引継ぎ(M&Aなど)」が、近年では中小企業における事業承継全体の約4割を占めるまでになりました。
 「社外への引継ぎ(M&Aなど)」は近年増加しているものの、その実態は年間売上高3億円超の企業を対象としたM&A仲介手数料1,000万円超の中規模案件が主流です。それよりも小規模なM&Aは仲介業者にとって1件あたりの収益性が減少するなどの理由から十分に進んでいません。日本の中小企業のうち約9割を年商3億円以下の小規模事業者が占めているという現実があるなかで、依然として小規模事業者を中心として後継者不足は深刻な状況であり、この問題が解消されない限り日本の事業承継問題が解決したとはいえません。

4.デジタル技術が解決する中小企業の事業承継問題

 中小企業における後継者不足という課題に対し、インターネットや人工知能(AI)などのデジタル技術を活用した企業のマッチングを目的とした「M&Aプラットフォームサービス」が登場しています。
 「M&Aプラットフォームサービス」では、売却を希望する企業(以下「売り手」という)が自社の情報をM&Aプラットフォームに登録し、買収を希望する企業(以下「買い手」という)がM&Aプラットフォームに登録されている数多くの売り手の情報を検索・閲覧し興味のある売り手に直接アプローチをかけることで、企業間のマッチングが行われます。このサービスでは、売り手の企業情報、買い手の希望条件やサイト内の行動履歴(「お気に入り」に登録した売り手の情報や問い合わせ内容など)、過去のM&Aの実績などのデータを収集・解析することで、買い手と売り手のマッチング度合いを数値化、その数値の高い企業を買い手に推奨する機能を提供しています。このようにインターネット上で売り手と買い手の効率的なマッチングを実現しています。
 「M&Aプラットフォームサービス」はM&A仲介業者や会計事務所、投資ファンド、スタートアップ企業などが提供しており、従来型のM&A仲介サービスで専門のコンサルタントやアドバイザーなどの「人」が行っていた業務の一部をデジタル技術で代替しているため、人件費を低減でき仲介手数料を抑えることができます。したがって、「M&Aプラットフォームサービス」は比較的小規模な中小企業においても容易に利用することができるといえます。
 最近では「M&Aプラットフォームサービス」に加え、クラウドファンディングを活用した買い手の事業承継後の資金調達をサポートするサービスも見られ、AIを活用したデューデリジェンスや契約書自動生成のサービスなど、今後M&Aのマッチングにおけるさらなるデジタル技術の導入により、日本の中小企業における円滑な事業承継が進むことに期待がかかります。

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