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株式会社日立総合計画研究所

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「旬」なキーワードについての研究員解説

AR(Augmented Reality:拡張現実感)

所属部署:技術戦略グループ
氏名:熊木 尚

ARとは何か

スマートフォンを含めた高機能な携帯電話や広告宣伝の世界で「AR」と呼ばれる技術が注目を集めています。ARとは、拡張現実感(Augmented Reality)の頭文字をとった言葉であり、「実空間(環境)」(Real Environment)の中に「デジタル情報」を重ね合せ、融合させるものです。
1968年にIvan E. Sutherland(当時ハーバード大学准教授)がヘッドマウントディスプレイ(図1)上に情報を表示する技術を発表し*1、1990年にTom Caudellら(当時ボーイング社研究員)がこれを作業支援ツールとして応用し、「AR」と名付けています*2。 ARが現実の世界に説明情報を付加するのに対して、「VR」(Virtual Reality:仮想現実感)は、例えばスクリーン上CGの世界など、実空間の対極にある仮想空間(Virtual Environment)を創出することを意味します。


図1.ヘッドマウントディスプレイのイメージ*3

AR技術の主な用途

ARは当時の情報技術では実現することが難しく、主に理論上の研究が中心でした。具体的な実装技術は、ITのダウンサイジングが進展した1990年代に本格化してきますが、まだ当時の通信インフラ環境、情報端末の処理能力から一般には普及せず特殊な用途で使われ始めました。例えば、軍事用途で、戦闘機のヘルメット内部表示の小型モニター、医療用途で、レントゲンやCTなどの診察画像を直接体に重ね合わせる医療画像表示などが挙げられます。
近年では、高精細カメラと画像処理、6軸センサ(3軸磁気センサ・3軸加速度センサ)、気圧センサなどのセンサ技術、モバイル環境での高速データ通信技術などの発展に伴い、特殊用途でなく、より一般的な分野、商業的な分野での適用例がみられるようになってきています。 とりわけ携帯電話やスマートフォン向けのアプリケーションへの普及は目覚ましく、主な機能としては、携帯電話の位置情報と連携させて、ユーザーが携帯電話などのカメラを通して見る映像に対し、それに関する情報を映像に重ね合わせて表示することができるアプリケーションがあります。 例えば、「セカイカメラZOOM」では、実空間に、デジタル情報(店舗名、アイコン、画像、メールなど)を複合させることが出来ます*4。そのほか、以下に主なアプリケーション例を挙げます。

  1. 「ゴルフ版直感ナビ」:ゴルフ場で、カメラをかざすだけでグリーンやハザードの距離を計測し、プレイの履歴も位置情報とともに残すことができます*5。
  2. 駐車場案内サービス:ARアプリ「Layer」を駐車場検索サービスに利用し、駐車場のどこに自分の車を駐車したかが分かります*6。
  3. 「Time Scope」:観光地で利用するとCG画像で昔の町並みを再現します*7。

広がるARの可能性

現在は、スマートフォンを活用したエンターテイメント分野での適用がみられるARですが、最先端の研究分野では、本来の目的である人間の能力の強化や支援によって安全・安心な社会環境をつくり出す研究が進められています。

  1. 五感への拡張(ヒトの感覚機能への拡張):
    人間が現実を認識・把握している内容をコンピューター情報で補完・増強する考え方です。例えば画像認識で、人の顔を認識すればその人の情報を与えてくれるように、目で見たものに関する付加情報をデータベースから得ることで、人間の記憶そのものを補完することができるようになります。また、長年研究が進められている人間の五感へ人為的に刺激を与える装置に、AR技術を応用する動きもあります。以下に研究例を挙げます。
    1. 「Meta-Cookie」(東大)*8:クッキーに異なる映像を重ねることで、飽きのこない食事を取ることが可能になり、効果的なダイエットやリハビリテーションを実現することが期待されています。"見た目"と嗅覚(きゅうかく)を刺激することで、人間は味覚の感じ方が変わるという効果を生み出しています。
    2. 「平衡感覚AR」(NTT)*9:三半規管へ刺激を与えることで、人間の平衡感覚をコントロールするというものです。けがなどにより、身体能力が欠如してしまった人への、身体能力サポートが狙いです。これは、高齢者の運動支援にも期待ができ、地図情報やGPS情報と連携することで、効果的な歩行案内による支援を行うことができます。
  2. 情報発信機能としてのAR:
    ARは、現実の世界に情報を付加して表示する研究がきっかけとなっているため、情報を「受け取る」ためのインターフェースに注目が集まっていますが、本来の「拡張(された)現実感」という意味に立ち返れば、ヒトやモノの情報を「送り出す」ことについてもARの研究が活発化することが期待できます。例えば、以下に示す分野が考えられます。
    1. 人間の体調を色やアニメーションで表現し、相手のヘッドマウントディスプレイ上に表示させる。
    2. 身に付けているRF-IDやセンサが周辺の自動車に情報発信することで、見通しの悪い場所での事故を未然に防止する。(図2)(パナソニックなどで検討中)
    3. 建物の劣化状況などをセンサで察知し、画像化して対策個所と方法を可視化させる。


図2.事故防止利用のイメージ

言葉や数値化した情報に現実感を付加することで、より的確かつ双方向性の高い意思疎通が可能になると考えられます。これらの研究は、まだ始まったばかりでありますが、研究の領域はユーザーインターフェースのみならず、社会心理学など、人間科学の分野に拡大する可能性を持っており、今後の動向が注目されます。

*1
Ivan E. Sutherland、A Head-Mounted Three-Dimensional Display、AFIPS fall Joint Computer Conference、part I (1968)
*2
DW Mizell、Virtual Reality and Augmented Reality for Aircraft Design and Manufacturing、 WESCON CONFERENCE RECORD (1994)
*3
亀田ら、日本バーチャルリアリティ学会13回大会論文集、pp461-464(2008)
*4
「WIRELESS JAPAN 2010」、KDDI公開資料より
*5
「WIRELESS JAPAN 2010」、NTT docomo公開資料より
*6
2010/5/24付三井不動産ニュースリリース情報より
*7
「第18回3D&バーチャルリアリティ展」(2010)、(財)京都高度技術研究所公開資料より
*8
鳴海(東大)ら、「拡張現実感によって味が変化するクッキー」、情報処理学会インタラクション2010予稿集より
*9
安藤(NTT)ら、「前庭感覚インターフェース技術の理論と応用」、情報処理学会論文誌、vol.48、no.3、pp.1326-1335(2007)

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