日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
ギリシャ債務問題に端を発した欧州信用不安は、ユーロ圏の大国イタリアに波及した。欧州信用不安は、ユーロ圏周辺国への資本流入が金融危機を機に急停止(Sudden Stop)したことによる資本収支危機ともいえる。したがって対症療法としては、流動性懸念に対抗できる権限を持つ欧州中央銀行(ECB)が周辺国国債の無制限購入に踏み切るなど、流動性を供給できれば危機の伝染(contagion)は防げる。ユーロ維持か崩壊かは、ECBが周辺国に対する「最後の貸し手(Lender of last resort)」となるか否かにかかっている。
しかし、欧州首脳が財政統合への道筋をつけることは必要だが、財政規律のみを強調し、周辺国のみならず中核国も緊縮財政を志向している。民間の需要不足が続く中で、本来その必要がない中核国も緊縮財政を行えば、経済が縮小スパイラルに入る恐れがある。結果的に財政再建も進まない。予期せぬ形での国債デフォルト発生などによって危機が伝染した場合、リーマン・ショック以上の金融危機が生じるリスクもなしとしない。だからこそ、それを回避するためにECBは「最後の貸し手」になると本予測では見込んでいる。その場合でも、周辺国はデフレによる調整を余儀なくされ、欧州の景気低迷は長期化する見通し。
米国経済も低成長が続く。2008年金融危機により住宅価格の低迷は今なお続く。大幅なデフレギャップは中期的に残存し、完全雇用の回復は2016年以降とみる。2008年からの「バブルの後遺症」は長引く。
低調な先進国経済に比べ、先進国の所得水準への収斂(convergence)過程にある新興国経済は減速しながらも拡大を続ける。GDPシェアは近代化以前へ回帰する方向にある。また、2016年までに一人当たりGDPは、中国で1万ドル、インドで3千ドルを超え、人口大国が中所得国入りする見通し。アジア新興国を筆頭に中産階級の増加が続き、住宅、輸送・エネルギーインフラを中心とした建設投資や自動車など高付加価値耐久財への需要が増大する。
実質GDP成長率は、12年は世界全体3.0%(前回予測3.8%)、米国1.0%(同2.1%)、ユーロ圏▲0.5%(同0.9%)と、いずれも大幅下方修正。中国は8.1%と巡航速度に落ち着く見通し。中期的な成長率は、世界全体では中国など新興国がけん引し、90年代の年平均3.0%から2000年代に3.4%、そして2011〜16年3.6%と加速すると見込む。
日本経済は、海外経済減速と歴史的な円高で、高成長までは期待できない。日本の製造業の収益水準は、もはや更なる円高や上昇する電力料金を吸収する余地は少ない。企業の海外展開は一段と加速する。対外直接投資は残高、収益率とも、欧米に遅れている。設備投資は国内から海外へ、消費は社会保障と税の一体改革などで可処分所得が伸び悩み盛り上がりを欠く。国内空洞化懸念の中で、本格化する復興需要が日本経済の浮揚要因であり、構造改革の好機となる。総額12兆円の第3次補正予算は、既成立の1〜2次補正予算6兆円と合わせ、12〜13年度のGDPを0.3〜0.5%押し上げよう。実質GDP成長率は12年度2.2%、13年度2.0%と潜在成長率(0.6%)を大幅に上回った成長を予測。中期的にも成長率は1%台半ばを見込む。化石燃料の需要増などで貿易収支は15年度に赤字化見通し。
復興財源となる復興増税は12年度より開始。また、中期的に基礎的財政収支ゼロ均衡のためには、現行水準から消費税率で約10%分のギャップがある。本予測では14年度に3%(5→8%)、16年度に2%(8→10%)の計5%の消費税率引き上げを想定。
資料:実績はIMF、予測は日立総研
* 暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる
資料:実績は「国民経済計算」、予測は日立総研