日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
米国の住宅バブルは「100年に一度」の世界金融危機に発展した。昨年、米国のサブプライム危機を契機に金融市場から逃避しはじめた投機資金は、今年に入り商品市場に流入。7月11日には原油価格を147ドル/バレルまで高騰させた。インフレ率の上昇から、米国はじめ先進国で景気後退色が強まると、原油価格は反転下落し、10月26日時点で64ドル/バレルとピークの半分以下に下落。その間、米国の住宅価格は下げ続け、8月には政府系住宅金融機関ファニーメイ、フレディーマックの救済、9月には投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破たん、保険会社AIGの救済へと拡大。危機は欧州はじめ新興国など世界に飛び火。各国の株式市場は連鎖的に急落し、世界同時株安となった。同時に、短期金融市場はパニック状態となり、信用収縮が始まった。さらに、為替市場では、投資信託の解約によるドル資金の引き揚げなどからドル高となる一方、円は相対的にサブプライムの被害の少ない安全通貨として急上昇。世界の金融市場は次の混乱に息を潜めている。
こうした金融市場の混乱に対し、先進国政府は、中央銀行による短期金融市場への無制限の資金供給、公的資金の銀行などへの資本注入、さらに財政支出拡大策など、異例の政策を次々と打ち出し始めた。政策金利も、インフレ圧力の低下もあり各国で大幅に引下げられていくと予想。これにより、金融市場は次第に落ち着きを取り戻して行くと思われる。金融危機脱却の一つの条件は、欧米の住宅価格の底打ち時期であるが、あと少なくとも2年程度、2010年までかかると予測している。それまで信用収縮の動きは残る見込みである。
こうした状況を受け、実体経済の世界同時不況はもはや不可避な状況である。2008年3.4%、2009年2.2%、2010年2.7%と、2年連続で好不況の境目となる3%割れを予測。但し、リスクシナリオとして、米国の住宅価格調整の拡大、欧州などでの予想外のバブル、途上国の連続国家破たんなどが考えられるが、その場合は世界不況から世界デフレに陥る可能性も考慮に入れておく必要がある。
これまで信用拡大により実体経済を大幅に上回って伸びてきた金融経済は、今回、信用収縮とともに身の丈にあった規模に縮小する必要がある。米国の過剰消費が世界の有効需要をリードする形での成長パターンは今後崩れていく。その意味で、普通の循環的な景気後退ではなく、調整には少なくとも2010年まではかかるとみる。次の世界の有効需要は、新しい社会の構築、つまり新興国の成長による世界の多極化、環境対応機器・システムの普及による低炭素社会の実現から生み出されていくことになろう。
米国経済は、リーマン・ショックのあった9月から小売売上高や非農業就業者数の減少などで急減速。2008年7〜9月期から二四半期以上連続でマイナス成長となる見込みで、景気後退は避けられない状況。米国の実質GDP成長率は2008年1.4%のあと、2009年▲0.4%、2010年▲0.1%と2年間マイナス成長、その後2013年まで3%弱の潜在成長率以下の弱い回復を予測。
EU経済も住宅バブルの崩壊と米国発の金融危機の影響を受け景気後退に。EUの実質GDP成長率は2008年1.5%、2009年0.3%、2010年0.6%と予測。
中国経済は2008年7〜9月期9.0%と2005年10〜12月期以来の一桁成長へと減速。対米輸出の減少、株価急落、不動産価格の下落などから景気後退も懸念される状況に。インフレが収まってきたこともあり、当局は9月に金融・財政政策を引き締めから緩和に転換。今回をきっかけに8%程度の安定成長へ移行すると予測。実質GDP成長率は2008年9.5%、2009年7.9%、2010年8.4%と予測。
日本経済は、一次産品価格の高止まりに加え、欧米の不況や円高の影響から輸出が減少。企業収益が圧迫され、設備投資の減少が続く。実質所得の低迷から個人消費、住宅投資も弱い。緊急経済対策は11.5兆円(国費の予算手当てを要する真水1.8兆円)が決まった。追加経済対策として定額減税2兆円を含む真水5兆円規模が検討されているが、広がった不安感から減税の相当部分は貯蓄に回るとみられ、国内景気を本格回復させるだけの効果は期待できない。日本の実質GDP成長率は2008年度0.1%、2009年度▲0.2%、2010年度0.6%と予測。中期的には、特に新興国へのインフラや環境関連の直接投資、先進国へのM&A投資などが拡大し、海外所得の増加が内需を下支え。
資料:IMF「World Economic Outlook」、予測は(総研)。
* 暦年ベースのため、日本の値は右表の年度ベースと異なる。
本予測より、世界GDP算出のウエイトを実勢為替レートベースからPPPベースとしたため、前回予測と一致しない。
PPP(購買力平価)は、実勢為替レートではなく、同じ財・サービスのバスケットの各国での
価格が同じになる(購買力が等しくなる)ように求めた通貨換算レートのこと。
ここでは、PPPで各国GDPをドルに換算して世界合計を求めた。シンガポールは、NIES、ASEAN両方に含まれる。
資料:内閣府「国民経済計算」、予測は(総研)