日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
10年末、各国政府の景気対策息切れと新興国の過熱抑制政策の開始で一時的に景気の踊り場を迎えた世界経済は、11年に入って、先進国でもようやく民需の自律的回復への萌芽(ほうが)がみられるようになり、また新興国の景気過熱対策も今のところさほど極端ではないことも幸いして、再び緩やかな回復軌道に復帰していくかにみえる。
しかし、目下の中東・北アフリカの政情不安を受けた原油価格の急騰がこの標準シナリオに水を差している。ほかの鉱物資源や穀物を含め、もともと資源価格は新興国のおう盛な需要で長期的上昇トレンドにあったが、穀物価格の上昇はそれらの国々の生活を直撃し、大きな政情不安を生じている。
目下の混乱はこれ以上拡散しないというのが標準シナリオだが、サウジアラビアなど産油量の多い国に波及するリスクシナリオも考えられる。原油価格が100ドル/バレルを大幅に超えた状態が長期化すれば、世界経済は新たな石油ショックに直面する。
米国では、景気回復の恩恵が雇用者でなく企業にとどまっている。その結果、個人消費の明るさは、株価上昇を通じた資産効果などによるものであり、雇用の増加ではない。不安材料は財政緊縮化の程度とタイミング。欧州もドイツなど中核国では企業部門が回復しているが、ソブリン危機にあえぐ周辺国はなお低迷が続いている。11年は大型の国債償還が続くためユーロ圏域内の協調が試される。米国の11年成長率2.8%、ユーロ圏は1.0%。英国は緊縮財政の影響が強く11年成長率0.7%と予測。
中印はじめ新興国では、インフレ対策として引き締め政策が続いている。標準シナリオではその取り組みは各国でおおむね奏功し、新興国の成長速度は巡航速度に軟着陸していくとみる。その場合、11年中国9.1%、インド8.0%程度の経済成長が見込まれる。
ただし目下の資源価格高騰が国内物価のさらなる高騰を招き、当局が極端な引き締めに追い込まれるリスクもなしとしない。新興国の総需要が腰折れする事態となれば、これまで総じて回復過程にあった世界経済も調整局面入りする。
日本経済も生産や輸出は景気踊り場からの脱却を示唆している。企業部門が息を吹き返しつつあることも米国などと同様である。しかし資源の多くを輸入に頼るわが国は、資源価格の変動リスクに対して他国以上の警戒が必要である。
しかし日本の場合、目下のリスクは政治リスクである。山積する課題を前に、ねじれ国会で単年度の予算すら決められない。特に、6月予定の税・社会保障一体改革の方針は、現政権だけではなく日本の将来を方向付ける。国債格付けの一段の低下から長期金利の高騰を招くという最悪シナリオは、現時点で可能性が高いわけではない。しかしその事態が生じれば、徐々にではなく突然である。決して無視してよいリスクではない。
標準シナリオ下の11年度成長率は1.4%、消費者物価は▲0.1%と、デフレ下での緩慢な回復を見込む。原油価格高騰リスクに対しては、成長率は▲0.6%程度の下振れを想定。なお、08年の原油価格高騰時には円高が進んだ経緯がある。為替の変動にも要注意。標準シナリオ下での為替は11年度85円/ドル、12年度80円/ドル。
資料:実績はIMF、予測は日立総研
* 暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる
資料:実績は「国民経済計算」、予測は日立総研