日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
地球の人口は、西暦元年は約3億人、1650年頃でも約5億人だったものが、1800年に約10億人、1960年に約25億人、2000年に60億人と急増し、2050年には約90億人と推定されている。一方、食糧や財の生産も、科学技術と地球資源の開発により飛躍的に増加させることができた。その結果、人類の生活はかなり豊かになったが、反面、ここ数十年の間に地球環境に強い負荷をかけるようになってきた。 地球社会は、産業革命以降、工業化を進展させ、20世紀まで日米欧先進国がけん引して、急速な経済成長を遂げてきた。21世紀に入り、その構図がさまざまな側面で大きな転換を迫られている。ローマクラブによる「成長の限界」への挑戦である。本レポートは、地球社会の2030年までの今後25年の大転換期の予測である。
過去25年(1980〜2005年)の世界経済の大変動は、第一に冷戦の終結、第二にアジア地域新興国の経済成長への離陸だった。特に、中国、インドなどの経済拡大は、実勢為替レートが購買力平価からかけ離れているため、依然大きく過小評価されている。
長期的傾向を見る場合、実勢為替レートよりも購買力平価で換算した方が、物量ベースの規模に近いものとなり実態を理解しやすい。購買力平価でドル換算した世界のGDP構成比で見ると、2005年時点で米国20%、EU22%、中国15%、日本7%、インド6%である。中国は日本の倍以上、インドも日本に既に肉薄している。これは、エネルギー消費や二酸化炭素排出量の世界に占めるシェアにより近いものである。すなわち、事態は既に進行していたと見るべきである。
今後25年(2005〜2030年)も過去25年と同じく、貿易と直接投資の拡大が世界経済を成長させる。その特徴は3点ある。第一に、過去25年は、中国、インドなどアジア新興国は、安価な労働力を世界に供給して「ディスインフレ圧力」をかけてきた。しかし、今後はドルに対し自国通貨高となることや、特に中国で高齢化が進展することから、むしろ消費拡大を通じて世界に「インフレ圧力」をかけることになる。既に、資源市場ではインフレ圧力が高まっている。
第二に、資源価格の上昇を受けて、ロシア、中近東、中南米、アフリカなどの資源国も成長し、成長基盤のための道路、電力などのインフラ投資が活発化する。しかし、制度や教育の遅れをうめる努力をしない限り、成長は限定的なものに止まる可能性が高い。
第三に、アジア地域以外の新興国でも経済成長に離陸していき、一人当たり所得の先進国・途上国間格差は縮小へ向かう。もっとも、経済成長への離陸は、最貧での平等からの脱却であり、途上国内の所得格差はむしろ拡大する。先進国でも、貿易によって途上国の労働力に代替される低スキル労働者の賃金は伸び悩むため、所得格差は拡大しよう。
こうした貿易の拡大を背景として、次々と新興国が経済成長に離陸することは、地球の収容能力を試すこととなる。人類の経済活動が、二酸化炭素など温室効果ガスの濃度を上昇させ、地球温暖化を招いている。既に、過去百年の間に地球の平均気温は0.8度上昇している。3度以上上昇すると、水資源、食糧問題、健康被害、洪水、生物多様性などで大きな被害が発生すると見込まれている。
温室効果ガスの排出量と濃度と気温上昇の間の相関には不確実さはあるものの、多くのシミュレーションが気温上昇を3度以下に抑えるためには、2000年から2050年にかけて排出量の半減が必要と示唆している。そのためのコストは世界GDPの毎年5.5%未満、年平均成長率では0.12%未満と推計されている。年平均成長率0.12%は小さいようにみえるが、今後25年間平均で世界GDPに占める日本のシェア(購買力平価ベース)が5.5%であることと比較すると、5.5%というコストは日本一国のGDPが消え失せている程度の大きさであり、相当大きい。経済成長をできるだけ損なわずに排出量を低減する技術および制度のイノベーションが求められている。
日本の人口は既に2006年をピークに人口減少社会となった。労働力人口も1998年をピークに減少しており、今後25年(2005〜2030年)労働投入量の減少は経済成長に対しマイナス(▲0.2%/年)に寄与。日本の潜在成長率は、現在の2%弱から1.2%へと低下。さらに、労働生産性の低いサービス業のシェア増加、国民負担率の上昇による働きがいの低下などにより労働生産性の伸びが低下すると、日本の潜在成長率は0.9%まで低下する。
労働生産性の伸びが、一人一人の生活水準の向上につながる。労働生産性を高めるためには、対外開放度を高め、日本へヒト・モノ・カネを呼び込み、イノベーションを起こす努力が必要不可欠である。移民の受け入れ、外資導入など社会的にあつれきの多い政策も検討していく必要がある。また、社会保障制度の見直しにより世代間の不公平感を解消し、働きがいのある社会の構築が求められる。
2030年には、高齢化の進展により家計の貯蓄率はマイナスとなるため、貿易収支は赤字になる。一方、過去の蓄積である対外純資産からの投資収益収支は拡大するため、経常収支の黒字は維持。日本は現在の未成熟債権国から成年債権国となる。
こうした人口動態および経済成長の変化は、日本に特別の問題があって生じたわけではなく、むしろ手厚い公的老後保障と長寿命化などの先進国化の一般的結果とみなすことができる。韓国、中国などアジア新興国も後を追ってきている。その意味で、日本は高齢化先進国であり、さまざまな挑戦に打ち勝っていくことで、一人一人の生活水準の向上を続けていくことができる。