日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
昨年末以降、欧州ECB、米国FRB、日銀による一連の量的緩和強化により、世界経済全体の二番底リスクは一旦後退した。08年のリーマン・ショックによる世界危機は、G20各国の大型「財政支出」で回避したが、その効果が一巡した二番底リスクに対しては、各国は、財政再建に取り組みつつ「金融緩和」で対応しようとしている。しかし、これで、全て順調に行く保証はない。イラン情勢を反映した原油など商品市況高騰への副作用や、量的緩和の通貨安競争の側面も懸念される。2012年は緩やかな減速にとどまるとの標準シナリオの見方は変わらないが、次の3点は引き続き注視が必要である
第一は、先進国の「財政危機の行方」である。特に、短期に緊縮財政を実行しようとする欧州の財政危機は深刻だ。ギリシャ問題は一応解決の合意をみた形だが、実際に約束が実行できるか不透明で、予断は許せない。これに対し、日米は短期緊縮策はとらない。米国は、富裕層の増税や国防費削減などで長期の財政赤字削減を目指す。短期的には、量的緩和の長期化宣言で長期金利の低下を促し、自律回復力を支援している。日本は、短期的には震災復興需要でむしろ財政赤字をさらに拡大させる。一方、中長期に消費税増税を含む社会保障と税の一体改革で財政赤字削減を実行しようとしている。
第二は、こうした先進国経済や発展に目覚めた新興国に潜む「政治リスク」である。先進国の政治の政策決定機能は低下している。欧州では、債務危機への対処をめぐりユーロの歴史的経緯と南欧の現実の経済力との狭間で、ドイツ国民の決意が試されている。米国では、既に大統領選挙戦に突入し、ねじれ議会の中で有効な政策は実行不可能な状況。日本も、ねじれ国会のため、消費税増税を骨子とする社会保障・税の一体改革論議は進まない。法案不成立の場合、解散・総選挙の可能性があるが、それでもねじれが解消する保証はない。その場合、日本の政治の政策運営能力低下が認識され、財政の持続可能性が疑われ、国債の格下げが進む見込み。国際収支動向とともに、日本の財政危機が金融市場の俎上に上るリスクもなしとしない。また、イラン情勢は原油価格高騰の直接的要因となっており当然注視は必要だ。その他中東・北アフリカの「アラブの春」は、数カ国で政権交代したものの、その後混迷が目立つ。新興国の発展にはチャンスとリスクが入り混じる。
第三は、昨年の自然災害で世界的大影響を与えた日本とタイの「復興需要」である。これから数年間で約20兆円が投資される東北の復興需要が本格化するが、それが単に復旧にとどまらず如何に国際競争力を持った「復興」となり、空洞化懸念の日本経済に活力をもたらすか、が注目される。タイも、競争が激しくなる周辺国の工業団地と比較して、いかに魅力ある工業インフラの再構築ができるかどうかが試される。
以上のポイントを踏まえた、12年の世界経済(標準シナリオ)は、全体では欧州経済の悪化で減速するものの後半に向け回復し、3.2%と若干上方修正。米国は、量的緩和の14年までの維持延長が自律回復力を促し1.9%に上方修正。ユーロ圏は、ドイツは堅調を取り戻すが南欧経済の悪化で▲0.7%。中国は、景気減速を金融緩和の加速でくい止め8.1%。そして日本(年度)は、復興需要と日銀の量的緩和大幅強化策で2.2%と各々前回予測を維持。原油価格は120ドルと上昇。為替は80円/ドル、105円/ユーロ、120円/ポンド。 リスクシナリオとしては、?欧州の債務危機の悪化、?日本を含む世界各国の政治リスクの顕在化、?中国の一段の景気悪化、を想定しておく必要がある。
* 暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる
資料:実績は「国民経済計算」、予測は日立総研