日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
欧州債務危機は、金融と貿易を通じて世界を巻き込み始めた。ギリシャの財政危機は、スペインの財政・銀行危機に波及。スペインは、ユーロ圏では4カ国目となる金融支援要請をEUに対して行う見通し。リスク回避から資金がユーロ圏や新興国から流出し、為替はユーロ安・新興国通貨安・ドル高・円高に。同時に、各国の株安・日米独の国債高(利回り低下)、商品相場の下げを引き起こしている。こうした国際金融の変化と欧州向け輸出不振から、新興国経済は減速に拍車がかかり始めた。世界経済は、米国のバブル崩壊に端を発するリーマン・ショックの後始末が終わる前に、二番底リスクの引き金の恐れのある欧州バブル処理に取り組むことになる。
政治はこうした経済混迷の終息を託されているが、むしろリスク要因となっている。
欧州では、フランスのオランド政権誕生で緊縮財政一辺倒は多少和らぐ見込み。しかし、欧州債務危機を終息させるには、ECBの追加金融緩和をはじめ、預金保険機能を含む銀行連合、財政統合など、やるべきことは多い。これを金融市場が待てるか否かでこれからのシナリオは変わる。当面、ギリシャの再選挙が注目される。離脱した場合、他の南欧諸国に波及し、ユーロ圏全体が崩壊しリーマン・ショック以来の世界大不況に陥る可能性もなしとしない。そこまでは行かないとしても、世界経済は際どい局面にさらされることになる。鍵を握るのはドイツだが、負担増には抵抗が大きい。G7/G20政府当局の機敏な協調も必要。
米国では、11月の大統領および議会の選挙が注目される。選挙後、民主・共和両党間で何らかの妥協が成立するのを標準シナリオとしているが、妥協が成立しないと年末に減税などが自動失効する「財政の崖」により13年の成長率は大幅低下のリスク。日本では、ねじれ国会の下で審議中の消費増税関連法案は、成立すると市場に織り込まれてきており、標準シナリオとしているが、不成立の場合は市場混乱のリスク。厳しい景気減速局面に直面し始めた中国、インド、ブラジルなどでは経済運営能力が試される。先進国向け輸出が低迷する中、内需中心に自律回復するには時間がかかり、政策ミスは経済失速リスク。
ギリシャはユーロから離脱するもののユーロ圏全体の崩壊には至らないとする標準シナリオで世界経済を展望すると、12年実質GDP成長率は3.1%と、前回予測より0.1%下方修正。米国は、再び減速懸念が強まっているが、市場の先行回復期待が剥落しただけである。住宅市場が底入れしつつあり、緩やかな回復が続き、2.0%と前回から0.1%上方修正。EUは、南欧経済の悪化を中心に▲0.6%と0.1%下方修正。中国は、減速基調が強まり8.0%と0.1%下方修正。インド、ブラジルも下方修正し、新興国経済は5.1%と0.2%下方修正。
日本経済は、1〜3月期の実質GDP成長率は前期比年率4.7%。復興需要の顕在化のほか、個人消費がエコカー減税などの効果で伸長。12年度は2.2%と前回予測と変わらず底堅い成長を予測。ただ、円高継続により国内設備投資と輸出は一桁の伸びにとどまる。国内設備投資60兆円規模に対し、海外直接投資(ネット)は11年9.1兆円、前年比84%増(ドルベースでは103%増)と大幅増加。その投資収益は所得収支として経常収支の黒字に寄与。また、原子力発電所の再稼働はある程度進むと想定するが、12年度の燃料費増加は0.6兆円、GDPを▲0.1%下押し。
12年度の原油価格(CIF)は110ドル/バレル、為替は80円/ドル、98円/ユーロ、118円/ポンド。
資料:IMF、予測は日立総研
資料:内閣府、予測は日立総研