日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
世界経済の二番底リスクが高まっている。08年9月の金融危機以来、G20をはじめ各国の大型景気対策の政策協調により大恐慌の再来は回避できたが、その景気刺激効果もはく落期に入った。結果的に、対策規模は不十分だったことが明らかになりつつある。
民需主導の自律的回復に移行できず、依然デフレギャップが残存する中では、政府が財政赤字を拡大してでも景気を下支えすることが望ましい。しかし欧米各国は、財政赤字を削減しなければギリシャのように債務不履行(国債暴落)に陥ることを恐れ、緊縮財政に駆り立てられている。大恐慌後の積極財政から緊縮財政に転じた結果、再び景気後退に陥った1937〜38年のルーズベルト不況再来の可能性は十分ある。まさに、世界経済最大の下振れリスクは、政治家が歴史の教訓に反した政策を選択してしまうことにある。
本予測では、世界経済はさらに減速し踊り場を迎えるが、景気後退には陥らない見通しを標準シナリオとした。各国政府も足元で急な緊縮は避け、財政負担は小さいながらいくつかの景気対策を打つと予想されるからである。したがって、二番底はリスクシナリオに置いた。標準シナリオでは、世界経済減速に伴う需要減退により原油価格は当面安定推移し(11年度98ドル/バレル、12年度90ドル/バレル)、また、中国・インドなど新興国経済は減速しているが、景気は腰折れせず、巡航速度に軟着陸(中国経済は11年9.1%、12年8.3%と予測)すると予測した。
米国経済は足下で急減速し、景気後退の瀬戸際にある。野党共和党の財政赤字削減論の攻勢に、政府は有効な雇用創出政策が打ち出せない中、雇用回復は極めて緩慢で、住宅価格も下落が続いている。過剰債務の調整を続ける家計の消費行動は鈍く、自律的回復には程遠い。12年にかけて潜在成長率以下の低成長となる見通しで、11年1.7%、12年2.1%と前回予測(2.6%、2.9%)から、GDP統計の基準改定もあり大幅下方修正。ソブリン危機がくすぶる欧州は、好況が続いたドイツ、フランスなど中核国も減速。歳出削減と賃下げによる調整を余儀なくされる南欧など財政懸念国は景気低迷が長期化する。ユーロ圏の成長率は11年1.2%、12年0.9%。緊縮財政下の英国はポンド安効果も限界で低成長が続く。11年0.7%、12年0.5%と予測。
日本経済は、当初の予想以上に早く供給網が復旧し、生産の急回復が続いたが、7月には勢いは鈍化。11年度後半からは、民間設備や住宅、公共事業の復興需要顕在化に期待が高まるが、海外経済減速と円高が復興景気に水を差し、高成長持続は怪しくなった。特に円高は深刻だ。これで企業行動は大きく変わる。震災前から続く海外投資は今後さらに加速し、海外M&Aにも拍車がかかる。政府の円高対策としての海外融資拡大策をフル活用する必要がある。国内は、再生エネルギー法成立による新エネルギー関連や震災対応投資に期待が集まる。一方、消費者心理は改善傾向で、節電関連製品や耐震・省エネ住宅など政策の後押しもあり一部に明るさは出る。11年度成長率は0.1%と前回予測(▲0.3%)から上方修正。12年度は2.4%と、本格的な復興需要により潜在成長率を大幅に上回る。成立した1次、2次補正予算6兆円に加え、本予測では3次補正予算13兆円(ただし12年度までの執行分は6.4兆円)を想定。復興財源は、当面国債新規発行、13年度より復興のための時限増税を含む、消費税の段階的引き上げを想定。
* 暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる
資料:実績は「国民経済計算」、予測は日立総研