研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2005年11月3日
本書は、著者の組織論研究の集大成という位置づけにあり、組織が滅ぶ条件、組織が変革する要因について、「織田信長はなぜ鉄砲隊を組織できたか?」「なぜ帝国陸海軍は戦争に負けたのか?」など、過去のケーススタディをふんだんに使いながら解説をしています。
著者によれば、組織には、「共同体」と「機能体」があり、前者は「家族、地域社会、あるいは趣味の会など、人の世の摂理によって自然発生的なつながりで生まれ、構成員の満足追及を目的とした組織」であるとしています。ここで重要となるのは、共同体構成員の居心地の良さとなります。「機能体」は「利潤の追求や戦争での勝利、一つのプロジェクトの完成など、組織外の目的を達成するため」に作られるものであり、官庁、軍隊、企業などが該当するとしています。ですが、最近の企業の不祥事をみますと、筆者が警告する「機能体の共同体化」がまさに日本の一部の企業に起こっていると感じざるを得ません。整備不良情報の隠蔽、食品の安全性を問われる事件、運営効率を優先したために発生した事故や談合事件などは、外の変化に目をつぶって、元々の組織創成の目的を忘れ、社内の安寧を目指した結果でしょう。それは「組織外の目的」に注意を払わなくても結果的に成長できた成長神話の時代が、本当に終わったことを示しているとも言えます。2章で紹介される織田信長ほど激烈ではありませんが、今経営トップに求められるものはリーダシップと高い経営能力であると言われ、またコーポレートガバナンスの強化が各企業で進められる背景には、このような「機能体である『はず』の企業の共同体化」が大いにあると思います。
本書では豊富なケーススタディによる解説が展開されていますが、取り上げられている例に歴史モノが多く、中国の漢の時代や日本の戦国時代などに興味のない方は、入り口で詰まってしまうかもしれません。また、ややもすると、著者の論理展開にケーススタディをうまくはめ込んだのではないか、といぶかりたくなる箇所もあります。その点では、より客観的なデータが存在する最近の企業の事例を、織田信長や日本帝国陸海軍のように分析する必要もあったのではないかと思いますが、非常に読みやすく、ハードカバーの本を読む時間はないが、組織のマネジメントについて効果的に知識を得たいという人にはお勧めの良書と思います。