研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2008年11月23日
クリーンテックとは、太陽光発電やハイブリッド自動車などのように「再生不能資源をまったく消費しないか、あるいはその消費量を減らして、従来と変わらない効用を生み出すことのできる製品・サービスプロセス」のことである。
著者であるクリーンエッジ社*1創業者のロン・パーニックとビジネスジャーナリストのクリント・ワイルダーは、(1)消費者の環境意識の高まり、(2)技術進展によるコスト低下、(3)温暖化対策などが、クリーンテックの実用化を促し、IT、バイオテクノロジーの革命に続くクリーンテック革命が進行中であると述べている。著者はまた、「クリーンテック革命は、道徳心に基づく環境保護活動と違い、ビジネスや技術を否定しない。資本主義やビジネスの発展、技術の革新と、天然資源や環境の保全を両立しようとするものなのだ」と述べ、クリーンテック革命が、環境保全とビジネス拡大を両立させるととらえている。本書においては、クリーンテック革命に関する多数の先進的事例が紹介されており、「革命」と呼ぶに値する事象が、実際に起こりつつあることを納得させられる。さらに著者は、クリーンテック基金の設立、クリーンテック集積地の構築、環境教育など、クリーンテック革命の進展のために有効と考える施策に関しての言及も忘れていない。
本書の最大の特徴は、クリーンテック革命に関連した先進事例を多数掲載している点にある。本書では、(1)太陽光、(2)風力、(3)次世代自動車(エコカー)、(4)グリーンビルディング、(5)バイオ燃料・素材、(6)次世代送配電(スマートグリッド)、(7)浄水、(8)モバイル技術という重要8分野に関して、グローバル視点で調査した先端技術動向を述べている。また、オープンソースやマイクロファイナンス*2などを利用した先端的事業モデル例、クリーンテック革命を促進する有効な政策についてもさまざまな事例を紹介している。本書を薦める理由の一つは、これらの事例が非常に先進的であるため、今後のエネルギー関連ビジネスの動向を見通す上で、本書が有益な情報源になり得ると考えたからである。下記にその事例の一部を紹介したい。
まずは、「次世代送配電:スマートグリッド」に関する事例である。電力事業は、大型の設備で発電し、送電網を通して電力を消費者に送る大規模集中型/一方通行スタイルを100年前から維持してきた。しかし、太陽光や風力などの小型電力源の急速な普及に伴い、送配電モデルは小型分散型/双方向スタイルへ転換することを求められていると著者はみている。この転換においては、電源が小型分散化するだけでなく、電力消費者に電力使用状況に関するリアルタイムの情報が提供されることにより、より効率的かつ経済的な電力利用・管理を可能にするという。その際の重要技術として、双方向・分散型のITネットワーク技術が活用されると考えており、IBMなどによる技術開発の事例を紹介している。このように、クリーンテック革命をけん引する技術は、従来とは全く異なる分野の技術であるかもしれない。
「オープンソースによる次世代自動車の開発」は、その将来的な可能性に注目したい事例である。一般的にオープンソースとは、ソフトウェアの設計図を公開し、そのソフトウェアの改良や再頒布を誰でも自由にできるようにするソフトウェア業界の仕組みのことである。本書は、ドイツや米国などの新興企業の次世代自動車開発現場において、設計を公開し、外部の技術者による改善・調整を求めるオープンソースの仕組みが導入されていることを紹介している。自動車業界におけるオープンソースの利用効果はまだ定かではないが、この仕組みを活用したベンチャー企業などによって、クリーンテック革命の端緒が開ける可能性もある。
「省エネをエネルギー源とするネガワット施策」は技術革新を伴わないクリーンテック革命の事例である。ネガワットとは、「節約された電力」を意味する造語である。米国北西部4州における「北西部電力法」では、消費者による節電(ネガワット)の一部を電力会社の成果と認め、ネガワット量に応じて電力会社が税制優遇を受けられる仕組みが導入されている。この仕組みにより、米国総人口のわずか4%程度を占める同地域が、全米の省エネ小型電球売り上げの16%を占めるマーケットに成長したという。社会的なコストをほとんどかけずに大きな効果を上げた例であり、ほんの少しのアイディアや発想の転換によってクリーンテック革命が進展することもあるかもしれない。
日本の技術が、著者の言う「クリーンテック革命」をけん引しているのは明らかであり、本書においてもトヨタのハイブリッド自動車などの事例が紹介されている。一方、本書の事例が示すように、クリーンテック革命は世界中で進行しており、従来とは異なるプレーヤーの台頭も十分起こり得る状況となっている。今後とも、このような最新動向に関する注視が必要であろう。