研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2007年12月22日
近年、物流関連の雑誌などで「3PL」という用語をよく目にするようになった。この「3PL」が物流業界で一体どのような役割を果たし、どのような可能性を秘めているのか考察したのが本書である。
物流業界の近況としては、商流の変化に伴い(1)顧客の求める納品条件が厳格化している、(2)発注単位が多頻度小口化している、(3)物流業務が煩雑化している、などが挙げられる。このため、多くの企業は自社の物流業務への対応が困難になり、自社の物流業務を物流専門業者にアウトソーシングするようになった。そうすることにより、多くの企業は物流業務の負担や物流コストの削減を図り、自社の本業に注力するようになってきている。
本書では、この状況下で現在の物流業者に求められる高度化した物流サービスに対応する新たなビジネスモデルとして「3PL」を紹介している。「3PL」とは、Third Party Logistics(サード・パーティー・ロジスティクス)の略である。もともとは米国で、荷主と運送業者との間に「第三者」(Third Party)としてフォワーダーが介入するビジネスモデルのことをこう呼んだ。今では、フォワーダーの介入の有無を問わず「荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務」と定義されている。具体的には、荷主企業に対して輸送・保管・荷役・流通加工・情報など一括した物流サービスを提供し、物流コスト削減・物流品質の向上を図るソリューション・ビジネスである。荷主企業には物流業務のアウトソーシングにより負荷が削減され、本来のコア事業に特化できるなどのメリットがある。
本書によると、「3PL」の市場規模は2008年には1.4兆円程度と推定されている。また、国土交通省調査のアンケート結果から日本の物流業者の約3割強が「3PL」市場への新規参入を希望しているという。「3PL」は極めて多様なビジネスモデルであり、配送業務、倉庫内作業、調達・受発注業務代行というようにサービス範囲を拡大させることが可能であることから、中小規模の物流業者でも新規参入の可能性を秘めており、今後の「3PL」市場の拡大が期待されている。
また、本書は「3PL」を成功させるポイントとしていくつか挙げているが、以下の2つがとりわけ重要であると考える。
1つ目は、物流現場の作業能力である。「3PL」を成功させるには、情報システム構築能力やコンサルティング能力も必要不可欠な要素ではあるが、最終的に顧客企業から信頼を獲得できるのは、物流現場の作業能力である。特に近年では、発注単位が多頻度小口化していることからケース単位ではなくバラ単位の荷役作業が増加傾向にある。つまり、煩雑化する物流現場のオペレーションをいかに効率化させるかが重要になる。そのためには、ムダ・ムラ・ムリなどの問題点を発見し、作業員一人一人が主体的に改善に取り組む体制づくりが必要となる。
2つ目は、ユーザー企業と3PL事業者の信頼関係の構築である。「3PL」が成功するか否かは、企業間の信頼関係をいかに築き上げていくかがポイントとなる。また、信頼関係構築の前提条件として、トラブル発生時のリスクを回避するために契約内容を明確化する必要がある。このように企業間で十分なコミュニケーションを取り合い、適切なタイミングで有用な情報を共有化することが信頼関係構築の最大の鍵となる。
本書は、「3PL」について「現状分析編」と「ケース・スタディ編」から構成されている。「現状分析編」では「3PL」の現状を多角的に分析しており、日本のみならず海外(先進国地域)の「3PL」についても紹介している。また、「ケース・スタディ編」では、日本における代表的な3PL事業者の事業戦略と3PL事業者を利用する一般企業の物流アウトソーシング戦略を紹介しており、他の書籍には類を見ない本書のユニークな点である。このように本書では、実際に「3PL」にかかわっている事業者の実例を挙げることによって「3PL」の多様性を実感することができる。しかし、その一方で「3PL」には明確な固定概念がなく、あいまいさを帯びていることから多くの一般企業への認知度はまだまだ低い。今後、「3PL」市場の拡大にあたり、3PL事業者がいかにして一般企業に「3PL」の認知度を高め、売り込むことができるか、ということが課題と考える。