研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2009年1月30日
21世紀に入り、経済活動のグローバル化は一段と進展し、特に中国・インドなどアジア諸国の経済成長は目を見張るものがある。大量の商品が各国・地域で生産・消費されるようになり、各国間の物流量は増大してきた。これにより、「物流」の役割も国内外を問わず経済活動を支える動脈機能として重要視されている。
しかし一方では、商品生産量の増大、流通経路の拡大などにより、CO2排出量の抑制が喫緊の課題となっている。
本書は、近年における物流経済のトレンドを事例やデータをもとに分かりやすく解説している。なかでも「グローバル化(東アジア経済圏)」と「グリーン物流」に着目しているところに先進性がある。
一つ目の「グローバル化(東アジア経済圏)」について、本書では、まず東アジア経済圏の今日的特徴を挙げ、東アジア経済圏における物流システムの動向と課題を述べている。
東アジア経済圏の今日的特徴としては、(1)他地域をしのぐ高い成長率、(2)貿易や投資における相互依存性の高まり、(3)中間財貿易の発展、(4)消費市場としての相互依存性の深化、(5)FTA*1やEPA*2などによる経済統合化の進展、の五つを挙げている。つまり、単に世界の工場地域としての役割だけではなく、消費圏としても発展を遂げつつある。
中国国内、アジア間においては航空貨物市場も急成長しており、北米や欧州の成長率を上回っている。今後、東アジア経済圏では、国際ハブ間競争が継続していくことと予想され、物流ネットワークの効率を向上させるグローバル・ロジスティクスやグローバルSCMの展開など東アジア経済圏の経済発展を支える物流機能の高度化が一層強く求められている。しかし現実には、東アジアのビジネスリスクとして物流インフラの未整備を挙げる企業が多く、これが大きな課題となっている。今後、東アジア経済圏では、物流量の増加に対する物流インフラの不足が懸念される。
本書では、日本は東アジア経済圏における物流インフラの発展経過を注視しつつ、日本の国際ハブ空港や港湾の再編成を同期化させていくことが重要であると指摘している。この点を踏まえ、日本の物流システムが広域な東アジア経済圏において、いかに重要なポジションを築き上げることができるかが、今後の課題と評者は考える。
二つ目の「グリーン物流」の背景には、現在、地球温暖化による気象変動や自然災害の原因となっているCO2排出量の増加を抑制するという世界共通の課題がある。
本書によると、CO2排出量全体の約二割を運輸部門が占めていおり、同分野でのCO2削減効果に大きな期待が寄せられている。
日本においては、2006年4月に省エネルギー法が改正され、それまで対象外であった運輸部門が規制対象になった。改正省エネルギー法の定める「特定輸送事業者」に該当する運輸業者は、国土交通大臣に対し毎年省エネ計画および実績の報告義務が課せられ、計画未達成の場合は、勧告や事業者名の公表、100万円以下の罰金などの措置が講じられる。その影響もあり、運輸部門ではさまざまな取り組みが始まっている。
具体的には、運輸業者によるモーダルシフトの活用、低公害車の導入、エコドライブの推進、共同配送の促進などが広がっている。一方で、近年はスピーディでシームレスな物流を求める動きも強まっている。スピードを追求すれば、一般的には環境負荷の増大とコスト増大をもたらす。環境と効率の両立という大きな課題に対し、共同配送のさらなる進展、IT活用による緊急度に応じた輸送効率の向上、環境負荷を軽減した物流施設の導入など運輸業者はさまざまな施策を進めている。
これらの取り組みを今後拡大するには、運輸業者のみならず荷主や顧客の協力が必要不可欠であると評者は考える。試行的に開始される国内排出量取引や国内クレジット制度などが具体的に市場で売買されるようになれば、こうした制度も活用し、ますますグリーン物流が加速するものと考えられる。
これらを踏まえると、今後の運輸部門に課せられた最大のミッションは、国内外を問わず、荷主、運輸業者、顧客の連携をさらに強化し、グローバルSCMという視点でいかに環境負荷を低減させながら東アジア圏の経済発展を支えていくかであろう。