研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2010年7月29日
原油をはじめとした資源の枯渇問題は長年叫ばれてきた問題である。特に最近、地球温暖化への社会的関心が高まると同時に、新興国の急速な経済成長もあって、資源問題について目にする機会が多くなってきた。本書は、現在注目を集めている資源問題について、現状分析から将来の価格予測、日本としての対策方法まで、多くのデータを用いて解説したものである。著者である柴田明夫氏は、東京大学農学部出身で、現在は丸紅経済研究所所長をされている。農林水産省「食料・農業・農村政策審議会」、「国際食料問題研究会」などの委員を務め、資源・食料問題について多くの書物を世に送り出している。
本書の中で著者は、今後数年、原油は1バレル当たり100ドル程度を上値として、70〜100ドルの間で推移すると予測しており、それが書名の由来になっている。確かに2010年価格表記の実質原油価格(米国の消費者物価指数で実質化)で見てみると*1、1970年代の2度のオイルショックの影響を受け、1980年8月〜1983年4月は70〜90ドルで推移したことがある。その後、値下がりし、1990年湾岸危機で一時60ドルまで上昇したのを除くと、1986〜2003年は、ほぼ40ドル以下と低位安定していた。それが、2004年以降再び値上がりし始め、2008年6月には140ドルを超える値上がりを見せた。これらの歴史が示すように、「100ドル」は決して大げさな話ではないというのが著者の主張である。さらに重要なのは、これは短期的な周期変動ではなく、経済成長のパラダイムシフト、つまり世界経済の構造変化による均衡点価格のシフトだという。現在の世界の状況は、モノ作りをベースにした新興工業国の台頭や金価格上昇、ドル安など、同じく資源価格の上昇が起こった1970年代と類似する点が多いが、とりわけ「資源の枯渇」並びに、「地球温暖化」という2つの課題の存在が大きな違いである。価格上昇の最大の要因は、中国を中心とした新興国の成長に伴う長期的需要増と、それを見越した各国の資源ナショナリズムの活発化であるが、予想される需要に資源開発投資が追いついていないことも一因として挙げられる。また、地球温暖化問題があるため、制約なしに開発を続けることも不可能である。この構図は多くの資源に共通しており、著者は原油に限らず、食糧を含めた多くの資源の需給はひっ迫し、その価格は上昇するとしている。
確かに、近年の新興国の経済成長は目覚ましく、多くの研究機関による経済予測の上方修正などもしばしば目にするところである。本書では、BRICs各国ごとに細かいデータを用いて各国の近年の需要状況と資源戦略の動向を解説しており、特に、中国の資源に対する権益確保戦略については、品目ごとに記述してあり、詳細である。
一方、日本に関しては、この原油100ドル時代(高価格資源時代)で生き残る方法が提言されている。それは、農業に着目し、太陽エネルギー産業として農業を復活させよ、減反するくらいならコメの国家備蓄をせよなどというものである。このような発案は、農業に造詣が深い著者独自の視点であろう。また、現在、実際に日本企業が行っている企業レベルの省エネルギー化戦略も紹介している。
このように、本書は現代の資源を巡る世界の潮流を知る上でも役立つ一冊といえる。しかし、数年で原油価格100ドルに達する時代が本当に訪れるかどうかは議論の分かれるところであるかもしれない。そもそも原油価格は、世界経済の成長率、埋蔵量、技術革新、産油国の政治情勢、投機市場など多くの要因によって決定されており、短期でも長期でも予測は困難である。このように予測が困難であるため、多くのシナリオを同時に発表する研究機関も少なくない。
資源コストは短期的には下落する可能性もあると著者も本書の中で認めている。その上で、著者は結論として、この原油100ドル時代は、日本にとって産業構造の転換を図る好機であり、そのためには各企業が世界を変え得るイノベーションを起こし、それを政府、消費者、金融機関が後押しするような国家戦略が必要であると述べている。この転換を成功させることができたなら、日本は世界でのプレゼンスを高め、自ら生み出した新技術で地球を支え、世界をリードしていく存在となり得るであろう。本書は高価格資源時代の到来を予測しつつ、「日本にとって、再成長を図る好機が訪れた!」とも述べており、日本企業への応援歌でもある。
資料
※1)原油価格の推移