研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2007年9月22日
本書は、会社生活を捨てて第二の人生を「農」に求めた29人の「挑戦者」たちの苦闘をノンフィクション作家の田澤氏が全国をまわって足で取材したものである。
農業がブームということで、第二の人生に農業を考えている人には、ぜひお薦めしたい。
取材を受けた人たちはいわゆる「定年帰農」ではなく、定年前にサラリーマンを辞めて、農業を、農村生活をはじめた「帰農者」たちが多い。
彼らが都会から農村へ帰って農業を行う理由はさまざまであり、29人が29通りの理由を持っている。そのため、本書の内容は、成功する人もいれば、うまくいかない人もいる、29通りの物語のようにみえるが、読み込んでいくと、新規就農する上で重要な三つのポイントが浮き出てくる。
一つ目は、いい農地を手に入れること
新聞報道などでは、農家の数が日本の高齢化に合わせるように加速度的に減少し、耕作放棄地が2005年には全国で38万6千ヘクタールと、滋賀県とほぼ同じ面積があり、手をあげれば簡単に見つかるはずと思いがちである。だが、農業に適した農地は皆なかなか手放さないし、もし、売りに出たとしても、通常、農地の買い手は村内で見つかってしまう。
本書では新規就農者がいかに農地を探せばよいのか、ヒントが書かれている。
二つ目は、農村(田舎)での暮らし方を考えること
田舎には、田舎の慣習、ルールがあり、暮らしてみなければ、わからない部分も多い。取材が行われたのは2000年であるが、2005年から「食料・農業・農村基本計画」の見直しという農政の大転換(今後は大規模農家に助成を集中する)が進行中である。それでも農村生活の本質は当時とさほど変わっていないと思われる。いかにして、「来たれもん(新参者)」が田舎に「溶け込む」かということが書かれている。
三つ目は、新規就農はハイリスク・ハイリターンだということ
ここでいうリスクとリターンは新規就農の場合、同一の基準では考えにくい。
リスクは金銭面。収入に関しては、ほとんどの人が前職よりダウンを経験している。一年間の収入を安定させることに苦心している。
一方、得られるものは、豊かな自然ということになるのだか、加えて、多くの登場者がリターンとして語るのは、「満足感・充実感」である。自分で作物の種類や栽培方法を決め、自分で働き育て収穫し、自分で販売する。そのほとんどが自らの決断・責任に帰結するということ、その覚悟がある人が、農業を楽しむことができることを示している。
ドキュメンタリー形式の書籍なので、マニュアル本のように新規就農の際に「することは何で、ここに書いてある」という書籍ではないが、それだけに自分が農業を行い、農村で暮らすことを考えた場合、それを実感として感じることができる一冊である。