研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2007年8月15日
本書は社会調査にかかわる研究員に対する挑戦状と思う。
"世の中に蔓延している「社会調査」の過半数はゴミである"とカバーの袖に。冒頭の第一文"この本は少々過激な内容である"で始まり、後書き最後の一文は"この本でどれくらいの人が怒ったか、次は聞き取り調査でもやってみましょうかな、と"終わる。ネットを検索してみると、確かに怒った人たちがいる。挑戦的な本である。
「一番人気はカーター氏/歴代大統領/米紙が調査」(「朝日新聞」1991年11月6日)といった「社会調査」とその報道のどこがおかしいのか、例を挙げて説明していく。説明しているというよりもののしっている部分も含め、面白くすらすら読める。「印象操作」「見せかけの相関」「サンプリングにおけるバイアス」などおかしな調査の類型が示されており、一読しておくとおかしな調査を見抜くのに役に立つ。メディアを盲信するな、というメディア・リテラシー啓蒙(けいもう)書としてお薦めできる。
一方、シンクタンクの研究員としての立場からは、おかしな調査を垂れ流さない自戒のための留意点としても読める。かつて、ある時系列データの説明変数探しに、たくさんの変数候補の中から2、3の組み合わせによる重回帰分析を繰り返し、最もフィットが良い組み合わせを自動的に選び出すプログラムを使ったことがある。それから後付けで「風が吹けば桶屋がもうかる」式の因果関係説明を取って付けた。格好良く言えば、データマイニング的手法を使ったとも言えるが、「見せかけの相関」を見いだしただけの可能性の方がはるかに高い。"時間軸を分析に加える時は、見せかけの相関にくれぐれも気をつけよう"という一文は耳に痛い。
2000年6月2日に第一刷が発行された本だけに、例に挙げられている新聞記事はやや古い。しかし、最近の新聞記事をちらっと見ただけでも、「自殺前8割が相談せず/死亡の9割未遂歴なし/対策へ分析急務/厚労省、遺族や未遂者調査」(「朝日新聞」2007年4月22日朝刊一面)と出てくる。どうして、そんなことが分かったのか!?
研究員には特に一読を勧めたい。