研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2007年10月11日
最近新聞でレアメタルが多く取り上げられている。例えば、直近では2007年11月に甘利経済産業大臣が南アフリカを訪問してレアメタルの探査・開発に向けた協力を要請している。多くのレアメタルを使用している日本のハイテク企業にとっては、昨今のレアメタルの価格急上昇は大きな問題であり、まずはレアメタルを理解する必要がある。
本書はレアメタルの生産現場の鉱山から取引・流通まで幅広い情報を網羅しており、レアメタルの調査研究に取り組むに際しては格好の入門書になっている。著者は30年間にわたるレアメタルの資源買い付けの業務経験を有しており、過去から現在に至る時間軸でレアメタルの現状を分析している。
本書は、日本のハイテク企業の国際競争力維持・発展にとってレアメタルは欠かせない素材であるにもかかわらず、ほとんどを海外からの輸入に頼っており、昨今の需給関係の逼迫(ひっぱく)への対応が遅れていることを指摘している。事例で挙げられているハイテク製品は、リチウム電池・小型モーター向け永久磁石・半導体用電子材料・フラットパネル用電子材料など広範囲に及んでいる。本書によると、レアメタル素材市場は2.4兆円であるが、レアメタル素材を使用したセット機器の市場は141兆円となっており、レアメタルが「産業のビタミン」であり、「産業のアキレス腱」にもなる存在であると指摘している。これだけ重要な資源であるレアメタルについて、日本では「Buyer is King」という意識が強いため、資源獲得競争における「買い負け」が頻繁に発生している実態が記載されている。
本書で最も興味深かったのが「レアメタルパニック」とも呼ばれる昨今のレアメタル需給関係の分析である。著者の分析の中で中国などの新興国の需要拡大は想像通りであったが、供給が拡大しなかった理由として、(1)東西冷戦終結によって旧ソ連の鉱物資源が大量に西側に流れ供給過剰になったこと、(2)鉱物資源の市況が低迷したため、調査から探鉱まで10年もかかる鉱山開発が進まなかったこと、(3)供給元がM&Aによる再編に動いたため鉱山開発に力を注がなかったこと、を挙げているが冷戦終結が1990年代のレアメタルの価格低下を招き米国や豪州で鉱山閉山に至ったことは意外な発見であった。本書にも記載されている通り、レアメタルの価格が上昇すれば、鉱山開発が行われ供給も増大するため、2010年ころには逼迫(ひっぱく)した需給関係も緩和する可能性があることも合理的な論旨であろう。また、日本の課題が相次ぐ鉱山の閉鎖に伴う人材の枯渇や鉱山技術の継承困難であることも、なかなか気付かない視点であった。
本書の中に、最終メーカーに材料高の価格転嫁ができず苦しむ中間材料メーカーの記載があるが、新聞で報道されるのは、最終消費者に価格転嫁できない最終メーカーと好景気にわく材料メーカーの図式である。本書は専門書ではなくビジネス書であることから、紙面の制約もあるかもしれないが、メーカー系シンクタンクに勤務する一読者としては、鉱山開発から最終製品に至るマテリアルフローの具体例や関与する企業の事例の記載が欲しかったのが正直な感想である。