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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

会社はこれからどうなるのか :評者:日立総合計画研究所 林寛之

2006年10月30日

ヒトこそが競争力−色褪せぬ人本主義

本書は、「本当に強い会社とは、社員一人一人が活きる会社」をテーマに、会社が競争に勝ち残るためのヒントを数多く与えてくれる。

筆者は、会社を買収して事業を補完したり、ヘッドハンティングで登用した外部人材に経営を任せることは、その会社の将来を必ずしも保障するものではない、と主張する。企業買収や外部人材の登用が珍しくない現代において、なぜそうなのか。筆者は、資本主義の歴史を紐解きながら解説する。世界最古の資本主義は、二つの市場の間に生じた製品の価格差から利益を得た商業資本主義、すなわち貿易であった。近代になり、産業革命を契機に広まった産業資本主義では、安いコストで良いモノを大量に生産することで会社は利益を上げた。これら二つの資本主義に共通なのは、モノを機軸に会社が成り立っていたということだ。しかし、現代では技術革新をひとつの契機として、新規参入企業であってもトップ企業とさほど変わらぬ機能の製品を短期間に作ることが可能となり、企業の競合環境はますます厳しさを増したと筆者は分析する。そのような環境で、企業が競争に勝ち残るには「たえず変化していく環境の中で、自社のあらゆる手腕を結集し、市場を驚かす差異あるモノを迅速に作りだしていくことのできる組織全体の能力」を磨くことが、必須条件になったとみる。

筆者の分析によれば、会社は現在二つの大きな困難に直面している。第一の困難は「圧倒的な技術力を持っていても、いつ他社に追い抜かれても不思議ではない」厳しい競合環境であり、もうひとつが「いつなんどき消費者の嗜好が変わって自社のモノが売れなくなるか分からない」市場の変化である。そして、会社がこれらの困難を乗り越えるには、自らの会社の歴史、文化、伝統や強み弱みをはじめ、組織のあらゆる側面を知悉し、最適な戦略を見出すのことのできる経験と実績を持った社員を活かすことだと筆者は指摘する。これには疑問を抱く人もいるだろう。「このような目まぐるしく環境が変化する時代だからこそ、有望な会社を買収したり、外部人材を登用することで会社を成長させることができるのではないか」と。現実にM&A市場は活況を呈し、中途採用やヘッドハンティングによる外部人材の登用は盛んである。しかし、会社が競争に勝ち残るには外部人材の登用だけでは充分ではないと筆者は考える。例えば、ヘッドハンティングで日系メーカのトップに就任した人物が、その会社のことを良く知り、経験と実績も豊かな社員を補佐役にすることは多い。また、有名なコンサルティング会社に経営の指南を仰いだ会社が、戦略策定段階では役に立ったコンサルタントに対して、戦略の実行段階では経験や知見の不足に失望することは珍しくない。これは、社内で改革を実行する上で直面する様々な隘路については、その会社での経験が浅い人は、実行性のある提案や計画の立案に不向きな場合が少なくないからだ。

本書の後段で筆者は、昨今話題にのぼっている株主資本主義を例に挙げ、「そもそも会社は誰のものか」と読者に問いかける。これは株主と社員の対立を浮かび上がらせるためではなく、どのような人物が会社の将来を背負うにふさわしいかを問うたものだ。会社には、カネでは買えないヒトという資産に帰属する経験やノウハウが蓄積されている。経営のあらゆる側面において、社員一人一人を資産として十全に活かせる会社が本当に強い会社であり、厳しい競争にも勝ち残ることができると筆者は締めくくる。読後、私は「自らの会社の生きる道は自らで考えるもの」という思いを強くした。

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