研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2006年2月22日
主人公葛原の率いるチームは、関東でトップの「逃がし屋」として依頼者を国外へ脱出させる活動をしていた。彼の元を警察庁からの使者が訪れ、一つのミッションを与える。
「密入国中の隣国の実力者を帰国前に確保すること」
報酬はチームの違法行為を見逃すこと。失敗すればメンバー全員の逮捕は免れない。密入国した実力者は関西でトップの「逃がし屋」に支えられているが、実は彼らはその隣国の工作員らに追われていた。大阪・東京を舞台とし、プロとプロの意地をかけた追跡劇が、やがて国内外の熾烈な諜報戦に発展していく。
新宿鮫シリーズでおなじみのハードボイルド作家、大沢在昌のスピード感溢れる長編小説であり、第20回日本冒険小説協会大賞受賞作品である。著者のこれまでの作品には、事件に巻き込まれた主人公一人が暴力団をはじめとする敵対勢力に立ち向かっていくものが多いが、本作品の主人公は4人のチームで活動している。
この物語の中にはいろいろな人物が登場するが、彼らの行動のより所となるものはそれぞれの立場によって異なっている。また、同じ立場の人物でも任務というものに対する考え方が違えば、そのより所もまた異なっている。
このような、自らの行動のより所とするものが物語の中ではそれぞれの立場で熱く語られている。こういったより所を守ろうとする意識がモチベーションの土台と言えるだろう。
現実の世界において、人にどのようなモチベーションを持たせるのかは大きな課題であり、また正解は一口に言えるものではない。ただ、この葛原チームのように、モチベーションがそろった上でメンバーおよびリーダーがその役割を果たすことが、スムースな目的達成のための必要条件であることは間違いない。
また、本作品では小さなチームに警察が依頼をする所から物語が展開されているが、これに似た構図は実際のビジネスの場面でもよく見かけられるものだ。警察という組織は小回りが利かず、政治やマスコミといった外圧を無視できず、そして組織間の縄張り争いが問題になる、というように描かれているが、世の中の大企業も多かれ少なかれこのような問題を抱えている。例えば、組織が大きいためにコストダウンに限界がある、あるいは小回りが利かない。規制や提携相手の意向といった社内外の事情に振り回される。他部署の顧客にコンタクトすれば担当営業が不満を持つ。
こういった状況の中では、例えば外部事業者を活用するという選択肢もあるだろう。そうすることでこれらの問題を少しでも切り離し、収益を上げるという本来のミッションの達成に近づくことができると考えられる。ただし、そのミッションを本当に成功させるためには、外部事業者にどのようなインセンティブを与えてモチベーションを上げていくかを検討することだけでなく、同時に競合他社の戦略や規制の流れを読み、自らが攻める顧客を絞り込むなどの戦略を立てること、つまりプロジェクトや市場全体を把握したうえで絵を描く事が求められる。
本作品中では、実は警察庁が壮大な絵を描いていたことが明らかとなる。ストーリーを追っていくだけでも純粋に楽しめるが、警察庁を中心に据えた外伝でもあれば、さらに読んでみたいものである。