研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2009年5月15日
近年、企業の環境意識の高まりを背景に、一度手を離れた使用済み製品や廃棄物も再生資源として有効活用される資源循環の動きが加速している。しかし、今や国内で発生する循環資源(再生資源および中古品)も、完成品と同じように国境を越えた商取引が活発化しており、資源循環を考えるに当たってはもはや日本国内だけを見ていては、正確な実態も最適な循環型社会の姿も見えてこない。
本書は、グローバル化が加速する循環資源貿易を背景に、主要な循環資源輸入国であるアジア諸国で起きている(1)環境問題と(2)法規制の問題の2つにメスを入れ、アジア域内での循環型経済・社会構築に向けた管理体制について提言を行っている。
まず、輸入国側の環境問題については、E-Waste(廃電子電気機器)のリサイクル拠点となっている中国の貴嶼(グイユ)を一例に挙げている。本書によると貴嶼では、小規模な企業や専門知識を持たない農民などが十分な設備を持たないまま不適切な方法で処理するケースが見られ、結果として土壌・大気汚染などを引き起こし、さらには住民の健康まで脅かしているという。
日本の全輸出量の約1割(物量ベース)の循環資源が中国を中心としたアジアに輸出されている現実を踏まえれば、日本もこのような問題から目を背けることはできない。輸入国側のリサイクル設備の改善に当たっては、日本のリサイクル技術によって大きく貢献できるのではないだろうか。輸入国側の人手に依存したリサイクルに代わって日本が最先端のリサイクル設備や機械を安価に供給することができれば、アジア諸国にとってリサイクル環境の改善につながり、日本にとっても外交・ビジネスツールとして大いに活用できるのではないだろうか。本書においても、アジア諸国におけるリサイクル環境改善策の一つに、先進国の技術的支援によるリサイクル技術向上を挙げている。
本書では、このような劣悪な環境下で行われているリサイクル現場の様子を写真で紹介しているが、その悲惨な実態をただ悲観し、アジア諸国の循環資源に対するさらなる規制強化を推奨するものではない。規制強化を図れば、逆にリサイクル可能なモノまで規制されてしまうというジレンマも指摘する。そこで、アジア域内の循環資源における法規制の問題点として、域内共通ルールの不在を取りあげ、各国間で規制レベルや、循環資源・廃棄物の定義が異なることが、結果として循環資源貿易の拡大を阻んでいると主張する。この問題に対しては、EUの取り組み事例を参考に解決の糸口を探る。本書によるとEU域内では、廃棄物の越境移動に関する規制は、理事会規則259/93/EECで明確に定められている。リサイクル目的、かつ非危険廃棄物であれば、EU域内では自由に取引でき、事前通知も必要がない。有害廃棄物の場合は、処分目的、リサイクル目的を問わずバーゼル条約の事前通知・承認の枠組みを踏まえた理事会規則に従って取引される。このように輸出入の手続きが標準化され、EU域内での循環資源の越境移動がスムーズかつ適切になされているという。
アジア域内のルール共通化に当たっては、このようなEU域内の事例を参考に環境先進国である日本がリーダーシップを発揮してアジア各国をまとめ、情報共有やルール構築に当たっての議論の場を積極的に作っていく必要があるだろう。それは日本にとっても、国際社会におけるプレゼンス向上につながると同時に、環境事業拡大の機会にもなりうる。本書ではここまで大胆に日本の役割、政策について明言していないが、アジア域内での循環資源貿易の円滑化、最適化に向けて日本が担うべき役割について議論する際の切り口を提供してくれる。
本書は、資源循環に精通していない人にとっても読みやすく、非常にバランスがとれた構成になっているので、入門書としてもお勧めできる。