研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2006年8月21日
『みんなの意見』は案外正しい…「ほんとかな?」とやや懐疑的に手に取ったのが本書である。筆者はジェームズ・スロウィッキー氏、アメリカ在住のコラムニストで原題は「The Wisdom of Crowds」、"集団の知恵"となっている。しかし、集団はどんな知恵を生み出すのだろうか。むしろ、「どんな人も一人一人はそれなりに聡明なのに、集団になると突然愚かになり、思いもよらない行動に出る、暴動やバブルはその一例である。」というような話をみなさんも聞いたことがあるのではないだろうか?
これに対し、筆者は「正しい状況下では、集団はきわめて優れた知力を発揮するし、それは往々にして集団の中でいちばん優秀な個人の知力よりも優れている。優れた集団であるためには特別に優秀な個人がリーダーである必要はない。集団のメンバーの大半があまりものを知らなくても合理的でなくても、集団として賢い判断を下せる。」とし、実に多くの実例や研究結果を紹介している。
ここに一部を紹介すると
むろん、いつでも集団の知恵が正しいとは限らない。筆者は成立する条件として、次の4つをあげている(ちなみに、冒頭で述べた暴動やバブルはこれらの欠如によるとしている)。
個人的には、これら4つの前提条件を満たすこと、中でも集約性を実現することは極めて難しいと思う。本書では、その手段として市場価格や投票制度の活用例があげられているが、周りを見渡してみても、あらゆるものに公正な市場価格が存在しているわけでもなく、また投票制度のように公平な決定方法が準備されているわけではない。現実には組織を構成する人々の妥協や、ある特定の人の独善によって物事が決められ、結果として意見の多様性や独立性は損なわれ、集約された意見は"愚か"になることもある。
しかし、"集団の知恵"を活用するという考え方は、それでもなお魅力的である。物事を判断する際、組織の一員としての私は、全体をおもんぱかるのではなく、まずは自らが有する情報や経験に基づいて判断すべきであり、またすればよいのである。そうした自らが判断する個人が集って組織を構成し、結果として"集団としての賢い判断"につながっていくということが、組織力を高めることだと考えるからである。
"集団の知恵"を組織に生かそうと思われる方、"集団の知恵"自体にご興味のある方は、ご一読されてはいかがだろうか。本書は多くの論点を提示してくれている。